今シーズンから琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチを務める佐々宜央。日本代表など錚々なる指揮官をアシスタントコーチとして支えてきた経験を持つ佐々だが、ヘッドコーチとなれば権限も責任も一人で持たなければならない。すべてが初めてとなる挑戦に身を投じて数カ月、シーズン折り返し地点までやって来た今、これまでの経験や成長を振り返り、後半戦の意気込みを語ってもらった。
「目の前のことを必死に、一歩一歩」
──23勝7敗とまずまずの成績でレギュラーシーズンの折り返し地点まで来ました。ヘッドコーチとして初めてのシーズン、ここまでの率直な感想を教えてください。
勝ってきたことの良さはありますが、選手にはずっと「勘違いするなよ」と言ってきました。ワンポゼッションゲームになった時にどういうバスケットができるのかが次のレベルに向けての課題です。
大きなリードを奪ってから主導権を失ってしまったり、このチームはまだまだ対応力を身に着けないといけない。選手だけじゃなくて自分も含めてもっと積み重ねていく必要があります。そうしないと、上位と対戦したら一気に流れを持っていかれてしまいます。
ここまではディフェンスで抑えて勝てていますが、これからはそんなに簡単にいかない。今の成績を出来過ぎだと思っているところはあります。勝っていても内容が伴っていないところは実際あって、そこは真摯に受け止めないといけません。
──2018年最初の試合となった天皇杯では川崎ブレイブサンダースに完敗を喫しました。まだリーグのベストチームと呼ばれるような強豪との差はあるようです。
一発勝負の大一番における経験のなさが出てしまいました。苦しい時間帯における我慢は、バスケで一番重要なところですが、それができなかった。自分たちのバスケットボールの未熟さを真摯に受け止める一戦になりました。
──ヘッドコーチとしてここまでの手応えはいかがですか? できないこともあれば、できたこともあったシーズン前半だったと思います。
勝っても安心感はありません。この気持ちは永遠になくならないものかもしれませんが、自分の中で葛藤しながらやっています。特に最初は周囲から期待される状況でしたが、その中で何勝何敗といった結果は意識せず、このスケジュールならどんな星勘定ができるといった計算も全くせずにやってきました。今も目の前のことを必死に、一歩一歩やっています。ただ、目先の勝ちにこだわりすぎても全体的におかしくなるので、そのバランスは意識しています。
ただ、ホッとしている部分はも少しあります。チームにとって私を雇うことはギャンブルだったはずで、それに対して結果を出すことが必要です。そこで、まずはこういう結果が出て、ファンも「こうなるんだ」と見てくれていると思います。これからより高いものが求められますが、その期待にも応えたいです。
「今は自分のバスケ人生における第4ステージ」
──佐々さんにとって2017年はどういう一年でしたか?
訳が分からないほど『激動』の1年でしたね。今考えると2017年のお正月は、ルカ・パヴィチェヴィッチとずっと仕事をしていたのですが、もう2、3年前くらいのことに感じます。でもルカのおかげもあって、東アジア選手権から始まって、新米ヘッドコーチとして沖縄に来て、変な自信がありました。結果が出ないこともありましたが、ひたすらその日その日を生きているという感じでしたね。濃密で、新たな世界を経験した一年でした。
今は自分のバスケ人生における第4ステージにいると考えています。大学に入るまでが第1ステージ、大学が第2ステージ。アシスタントコーチとして日立に入ったのが第3ステージで、栃木はその延長線上という感じです。そして沖縄に来てからが第4ステージです。ヘッドコーチは責任がすべてです。今までより責任感を持って一つひとつの行動や発言に気をつけてやらないといけない。その点で大きく変わった2017年でした。
自分がこれまでと違う世界にいる感覚があります。そこで毎日戦う中で、違う自分にならなければいけない。実際に自分自身が変わってきていると思います。
──2018年は琉球にとって勝負の年だと思います。そのあたりはどのように見ていますか?
行けるところまで行きたいですが、正直、計算できるようなチームではありません。1年目はディフェンスで頑張りながら、トップのチームと対戦した時に勝機が転がってくるような状況にしていきたいです。
「もっと俯瞰的な視点をコートレベルで持てるように」
──日本代表も正念場です。代表に選手を輩出している側としてどのように貢献していけたらなと考えていますか?
日本代表も本当にすごく大事なところなので、使えるコンディション、調子が良い状況で選手を送り出したいと思います。僕の戦い方が代表のバスケと近いとは言わないですけど、全く違うわけではない。そういったところで世界で戦える選手たちを育てていきたいです。
選手それぞれがリーグの試合で勝ちきることが代表にもつながっていきます。例えば「自分がフィリピンと戦ったらどういうプレーができるか」のように、選手たちには日頃から代表を意識させたいですが、それはウチだけじゃなくて全体として薄い部分があるかもしれません。それでもBリーグを見ていると、比江島(慎)とかは意識が変わってきていると感じます。
代表選手には実際に戦って得たものを他の選手に伝えてほしい。それがリーグ全体を高いレベルに引き上げることになります。代表は次のチャイニーズ・タイペイ戦が正念場です。そのことに対する緊張感をリーグ全体で出していきたいですよね。古川(孝敏)とアイラ(ブラウン)については、そこに対するモチベーションはすごく高いです。
──2018年、ヘッドコーチとしてどのようになりたいですか?
もっと貪欲に、バスケット人として、ヘッドコーチとして成長しないといけないと思っています。いろいろな経験を積んでいく中でも、自分が成長しようと思わなかったら時間だけが過ぎていくような気がします。ワンポゼッションゲーム、競ったゲームにおけるヘッドコーチの影響力は大きいので、そういう場面でもっと落ち着いて、余裕が持てるようになりたいです。
そこの落ち着きは自分の中でまだ全然ないと思っています。もっと俯瞰的な視点をコートレベルで持てるようになりたい。やっぱりコーチは感情的になっちゃダメですね。選手に発奮させるためには感情的に行くことも必要ですが、実際の状況判断では落ち着いていないと。選手も自分もまだ若いし、青いです。