文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦、鈴木栄一

若いチームがJX-ENEOSの対抗馬へとステップアップ

Wリーグは長らく『女王』JX-ENEOSサンフラワーズの1強状態が続いている。昨シーズンの全勝優勝から続いていた連勝記録こそ昨年12月のトヨタ自動車アンテロープス戦で途切れたが、その後はすぐに立て直しており、年明けの皇后杯でも強さを見せ付けて優勝。Wリーグ10連覇に向けて死角はないように見える。

そのJX-ENEOSの対抗馬と見なされるトヨタは、大神雄子という核がいて、今シーズン開幕前に代表クラスの選手を次々と獲得。『女王』に対抗できるだけの戦力を揃えた。そして今、JX-ENEOSに対抗し得るもう一つのチームとして浮上しているのがデンソーアイリスだ。髙田真希という核を擁するデンソーは、トヨタとは対照的に、思い切った世代交代を実施した。昨シーズンからアーリーエントリーでチームに加わっていた畠中春香を含む新人7選手が入団。山田茉美が29歳、髙田と園田奈緒が28歳、伊集南が27歳。あとは20歳前後の若手となった。

若手中心にしても少々極端すぎるほどのチーム編成だけに、JX-ENEOSの中核をなすベテランがピークを過ぎる数年後を見据えての『再建期』に入ったと見られても不思議はない。だが今シーズン開幕の時点で髙田は「昨シーズンよりも良いバスケをして、上に行く自信があります」と言い切っていた。

そして今、その言葉が現実のものとなっている。リーグでは13勝3敗(トヨタと並び2位)で中断期間を迎え、皇后杯では富士通レッドウェーブを破って決勝進出を果たした。リーグ再開となった先週にJX-ENEOSに連敗を喫したが、『女王』を追う第2グループにはしっかり付けている。ここまでのリーグ戦18試合と皇后杯で、新星デンソーのフレッシュな強さは十分に印象付けられたと言っていいだろう。

準優勝の皇后杯は「これからにつながる大会になった」

JX-ENEOSの壁は相変わらず高いが、それでも髙田はチームの成長ぶりに確かな手応えを感じている。62-84と22点差で敗れた皇后杯決勝の試合後も「点差は離れましたけど、勝てない相手ではないと感じました」と前向きだった。「JX-ENEOSが相手だとまだまだですが、チーム力は上がっています。やっていることは間違いないと感じます。新人の子たちにも得るものがあって、これからにつながる大会になりました」

この試合、第1クォーターはJX-ENEOSを相手に1点リードで終える堂々の戦いぶりを見せた。「第1クォーターにできたというのは自信になります。第2クォーター以降はディフェンスが崩れてましたが、ディフェンスは技術よりも努力や頑張り、そこを絶対にやらせないという気持ちで、練習で覚えていくしかない。これも一つの経験で、みんなうまくなってくれればいい」

もともと髙田はデンソーの大黒柱だが、若返ったチームでその存在感はさらに強くなっている。「正直、ここまで練習内容があまり良くなくて、若い選手に喝を入れた場面もあって、そこで変わった感じもありました。この皇后杯で一人ひとりが役割を果たしてくれたのは良かったです。上位チームと1勝1敗が続いていますが、勝ってる試合は20点とか差をつけているので、非常に昨シーズンから比べると良いチームになっていると思います。若返ってさらに良くなっているので、これからが楽しみ。客観的に見ても面白いチームだと思います」

プレーオフまでの2カ月で若手がどこまで成長できるか

小嶋裕二三ヘッドコーチが掲げる『見ていて楽しい、面白いバスケット』が形になりつつある。さくら(21歳)とひまわり(19歳)の赤穂姉妹は髙田とともに得点源として活躍。稲井桃子(22歳)と篠原華実(21歳)のバックコートも攻守にメリハリの利いたスピーディーなバスケを展開している。

「7人の新人も全員が試合で使える選手で、新人扱いされずにかわいそうではありますが、良い選手ばかりです。できなかったらすぐやろうとするし、すぐできるようになっています。こうやって覚えて経験を積んでいくことでもっと良くなります」と髙田は後輩たちへの期待を語る。

トヨタとは違うアプローチで打倒JX-ENEOSに燃えるデンソー。レギュラーシーズンでの対戦は終わってしまったので、次にJX-ENEOSと対戦するとなれば、それはプレーオフで、ということになる。急成長を続ける若いチームが2カ月後のプレーオフまでにどれだけ成長するか。期待とともに見守りたい。