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退団後も「互いに尊重し合う関係」を保つ

トレード、あるいはフリーエージェントになってチームを移籍する場合、古巣との関係性が悪くなる選手は少なくない。衰えやパフォーマンスで期待に応えられず、チームから不要という烙印を押された選手は少なからず気分を害して出て行くもの。逆に選手がステップアップを希望して移籍する場合、出て行かれるチームは快くは思わない。退団に至るまでにフロントやチームメートと衝突し、せっかく築いた関係を壊してしまうケースはどうしても出てくる。

だが、クリス・ポールの場合はそのどちらでもなかった。彼は昨シーズン終了後、本来ならフリーエージェントとなって大型契約を結べる立ち位置にいたにもかかわらず、最終的にはクリッパーズからロケッツに7選手と交換でトレードされ、ジェームズ・ハーデンとの強力デュオでNBA優勝を目指すことになった。

ポールは、フリーエージェントになるプレーヤーオプションを行使するのではなく、クリッパーズの選手のままでいることを決め、球団にとって少しでもプラスになるよう、トレードの形でロケッツに移籍できるような段取りを整えた。フリーエージェントは選手の権利だから、本来であればここまでやる必要はない。だが、だからこそ古巣へのリスペクトとして、この行為は尊重された。

トレードが正式発表となる直前、ポールから連絡を受けた選手がいた。6シーズンともに戦ったブレイク・グリフィンだ。グリフィンは『The Undefeated』とのインタビューで、「トレードが正式発表される1日前の朝、彼から電話があったんだ」とポールとのやり取りを明かしている。

「彼は事の顛末をすべて話してくれた。僕からは『成功を祈る』と伝えた。それから、一緒にやれたシーズンへの感謝もね。あるべき形で対応できたと思う。中には、良くない感情を抱えたままで移籍してしまうケースもあるからね」

ポールとのコンビは西カンファレンスでも強力なデュオとして注目された。それでも一緒にプレーした6シーズンでの最高成績は、プレーオフ準決勝どまり。ポールもグリフィンも、プレーオフに入ってからケガをするケースが多く、本来の力を発揮できなかった。もし2人が万全の状態だったら、黄金期のウォリアーズとも好勝負を見せられていたかもしれない。

だが、互いに違う道を歩み始めた以上、『たら・れば』を言うべきではない。ただ、グリフィンの中には特別な感情が生まれた。彼は言う。「良い思い出も、良くない記憶もある。飛行機やバスで移動するだけの平凡な時間も共有した。あれだけの時間を一緒に過ごせば、繋がりが生まれる。でも、今は異なる場所にいる。俺たちは、互いに前に進んだんだ」

ポールが選んだ道は、間違っていなかった。現在はハーデンが欠場中だが、ポールの加入により、ロケッツはストップ・ザ・ウォリアーズ一番手に挙げられるチームに成長した。

どんな時もプロフェッショナルな姿勢で対応するポールは、古巣と盟友に誠意を尽くした上で、デュオを解消させた。