「決めるべきシュートをどれだけ決めるか」
大神雄子にとって現役最後の皇后杯が終わった。ライバルのJX-ENEOSサンフラワーズと当たった準決勝、開始5分でトヨタ自動車アンテロープスは、得点が大神のジャンプシュート1本のみの2-15と走られ、そのまま踏み留まれずに4-24と20点差まで突き放されてしまう。「連覇しているような強いチームには、決めるべきシュートをどれだけ決めるかが一つのポイント。そこが第1クォーターに出てしまいました」と大神は語る。
52-78の負けが大きすぎたからか、仲間が下を向かないためにチームリーダーとして取らなければいけない態度を自然体で取っていたであろう大神は穏やかな表情だった。「みんな気持ちも出ていたと思います。準決勝はみんなで勝ちにいっていたし、決して外したくて外してるわけじゃないので。だからこそ、見えないメンタルの部分で決めたい、決めたいっていう気持ちが全員に伝染しちゃったのかなと思います」と、それぞれ自分を責めているであろうチームメートに語り掛けるように試合を総括した。
残るタイトルはリーグ戦のみ。ここでもJX-ENEOSという強大なライバルをどう倒すかの一点が焦点となる。「バスケットはリングが高いところにあるので、高さは武器です。それに速さもあるし、アウトサイドも宮澤(夕貴)選手にしても岡本(彩也花)選手にしても本当に確率が高くて中と外のバランスも良いし、みんなが点数を取れるっていった意味では絞りにくいチームだと思います」と大神はライバルを評する。
「ブレない、崩れない、自分たちのバスケットを遂行する強さは、同じメンバーでずっと5年、6年やっていれば築ける部分で、それをみんなが徹底できる強さがあります。自分たちはまだ長岡(萌映子)選手にしても三好(南穂)選手にしても馬瓜(エブリン)にしても今年新しく入ってきたメンバーで、構築するには時間はかかりますけど、そうも言っていられない。この時間でどれだけ自信が持てるものを作り上げていくのかはこれからの自分たちに求められています」
大敗にも揺らがぬ自信「勝てるチーム」
「そりゃあもう、純粋に悔しいですよ。自信がなかったわけじゃないし」と大神は言う。
怒るでもなく悲しむでもなく、JX-ENEOSの強さに対抗できるチームは自分たちトヨタであると自らに言い聞かせるように主張する。「リーグでそれは証明してるわけだから、勝てるチームだとずっと言い聞かせてこの3週間準備してきました。それを発揮できずに苦しいゲームにはなりましたが、ただやれたことに関しては前を向いていいと思います。もう一度チャンスがあるので、ここから自分たちがこの悔しさをどれだけ糧にできるかだと思います」
古巣でもあるJX-ENEOSに対しては「黄色のユニフォームは自分があこがれて入った場所です」とも語り、倒すべき相手とは言っても健全で友好的なライバル意識を持っているのが大神らしいところ。今シーズン限りでの引退を決めた中での最後のタイトルとなるWリーグ再開に向けてはこう語る。「どれだけ追い込めるか自分でも楽しみだし、それが自分のモチベーションにもなっているし、若手が躍動してる中でどれだけ自分がついていけるか、時に引っ張るか。その切磋琢磨が楽しいです」
「これが最後じゃないし、この大会がすべてじゃない」
終わってしまった皇后杯については「高校の時から出ているので、何回目ですかね」と大神は笑う。「トヨタに決勝で負けたこともあれば何連覇かしたこともあります。20年連続の共同石油からのファイナルの出場を逃した時もあります」
現役最後の皇后杯とはなったが、「これが最後じゃないし、この大会がすべてじゃない」と、必要以上の感傷はない。「この大会は一年の始まりなので。そう思えば3月に勝負できる場所を自分たちでもう一回見つけにいかないといけないし、それを若手にも伝えられるような先輩でいたいです」
それでも、皇后杯の舞台に立った意義は人一倍感じているし、それに対する感謝も忘れない。「立ちたくても立てなかった人もたくさんいる中で、今日のさいたまスーパーアリーナのコートに立てたっていうことは自分の一つ財産になりましたし、もしかしたら今後、選手じゃなくてもチームを率いて戻って来れるようなビジョンも持って、明日からの積み重ねは徹底してやっていきたいと思っています」
大神雄子の『雄姿』を見られるのもあと少し。その全力のプレーを目に焼き付けておきたい。