文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

「僕ら全員、ネガティブな感じはないです」

今シーズン開幕を前に、東地区のあるチームの主力選手はこう言った。「東地区は全く予想できません。東地区で抜け出すのは相当に難しい。カギは交流戦。東地区では勝率5割さえ大変ですが、これをキープしつつ、交流戦で8割勝つ。それで最低ラインだと考えています」

そう語る表情は真剣そのもので、中地区と西地区を軽視するのではなく、ただただ『東地区がどれだけ厳しいか』を現実的に受け止めていた。彼はこうも言っている。「立ち上がりで失敗すると、挽回するのは相当に難しいはずです」

栃木ブレックスは今、まさしくその状況に置かれている。現在11勝15敗で東地区最下位。東地区での成績は3勝11敗、交流戦は8勝4敗で、どちらも挽回しなければいけないのは間違いない。

ただ、大事なのは状況の厳しさを受け止めながらも、『強い気持ち』を保ってまだ長いシーズンを戦うことだ。成績が伴わないことでネガティブになったり仲間同士で衝突したり、相手以前に自分たちで崩壊してしまうチームは決して少なくないが、この点で栃木に不安はない。ここから這い上がっていくチームにとって、この揺らがないメンタルは一つの保証となる。

キャプテンの田臥勇太は言う。「僕ら全員、ネガティブな感じはないです。結果につながったり、つながらなかったりはあるんですけど、強くなっていくために何をしないといけないかは毎試合明確で、そこにチャレンジしていくという思いを持った選手が集まってくれていますし、ヘッドコーチがそこをコントロールしてくれています。僕らが良いリーダーシップを取って、みんな同じ方向を向いてやっていると感じます」

「今日変えられることをしっかりやる」という挑戦

田臥が言うように『ネガティブな感じ』はなかったとしても、渡邉裕規とジェフ・ギブスがチームに戻って来たことでチームの雰囲気が良くなったのもまた事実だろう。田臥も「毎日の練習で成長できる部分が本当にたくさんあると感じるシーズンですが、その中でナベやジェフが戻って来てくれて、プラス要素が増えています」と、2人の復帰を歓迎する。

ただ、「そこをしっかりチームの強さにできるかどうかです」と、2人の復帰そのものをプラスに受け止めてしまう安易さはなく、それをコート上のパフォーマンスや結果にどう反映するのかが大事だという本質もしっかり見ている。

前節、琉球ゴールデンキングスとの2試合目、ロースコアゲームを守り切って競り勝った試合を田臥はこう振り返る。「一日で急激に変わったり、技術がうまくなったりすることは難しいですけど、一日で変えられる部分も絶対にあるはずです。コーチ陣が悪かった部分、努力しないといけない部分、戦術はちゃんと用意してくれます。まずはそれを忠実に守りながら、でも自分たちが技術以外でできること、今日変えられることをしっかりやる。その一つがコミュニケーションです」

「コミュニケーションができて、みんな集中力を40分間保つことができました。それができれば勝つチャンスはありますし。それがチャレンジだし、継続し続けなければいけないことだとあらためて感じました」

田臥の「ベテランというところでの楽しみ方」

栃木ブレックスに派手な圧勝劇は似合わない。ディフェンスの激しさ、球際の強さを前面に押し出して我慢のゲームを展開し、勝負どころを見逃さずに抜け出す。これが栃木らしいゲームであるはずだ。クリスマスイブの琉球戦では、そんな『勝ちパターン』をコートに美しく描き出し、ホームのファンにプレゼントすることができた。

田臥は言う。「自分たちが目指しているディフェンスの激しさを40分間続けられるかどうか、それがこれからのチャレンジになります。できなくてもみんなで戦い続けることが良いものにつながっていき、ちょっとしたことでチャンスがこっちに向くというのが40分間の中で起こります。残り5分でできなくなって落とした試合もあります。でも今日みたいに集中力を切らさずに戦い続ければ勝てるんです」

安齋竜三ヘッドコーチからの指示も、そのほとんどがディフェンスだと言う。「いつも激しくディフェンスをやれと言われます。いつどこで、ではなくて毎回毎回やれと言われています」

バスケットボールの試合において、勝負どころは往々にして試合終盤、体力的に一番キツい場面でおとずれる。そこで37歳の田臥がチームを引っ張るのだから、すごいの一言しかない。「自分も考えながら勉強しながらやっていて、それを何回も重ねてベテランというところでの楽しみ方の一つとしてやっています。課題はあるし、できなくてもヘッドコーチの目指すバスケットは理解しているので、どこでどう出すかはちゃんとやらないと、リーダーとしてもポイントガードとしてもダメなので。やり方や役割をチーム全員で一つにしてやっていきたいと思います」

東地区3位のサンロッカーズ渋谷とのゲーム差は8で、ここからチャンピオンシップ出場圏に入るのは相当に厳しいチャレンジだ。しかし、田臥勇太と栃木ブレックスは上だけを見据えて、一つずつ歩みを進めていく。