大濠への挑戦権を懸けた熱戦
ゲームの終盤になればなるほど、ディフェンスの運動量が上がっていく驚異のスタミナ。7点のビハインドを覆して展開を一変させる試合巧者ぶりを発揮。明成(宮城)が帝京長岡(新潟)とのタフマッチを65-56で制し、2年ぶり5回目の決勝へと進出した。
明成と帝京長岡の対戦は、明成がウインターカップ3連覇とインターハイ初優勝を果たした過程の2014年と2015年にある。2014年はウインターカップの準々決勝で、2015年はインターハイの準決勝で対戦。いずれも八村塁を擁する明成が勝利しているが、2015年のインターハイでは第3クォーターまで劣勢であり、明成が最も苦戦した相手が帝京長岡だった。対して、一度も明成に勝利したことがない帝京長岡にとっては、乗り越えなくてはならない相手だ。
そしてお互いに今夏のインターハイでは福岡大学附属大濠(福岡)に僅差で敗れている。明成は決勝で1点差、帝京長岡は準決勝で4度の延長の末に敗れており、借りを返したい者同士の決戦でもあった。
試合は前半と後半で展開がガラリと変わった。前半は明成の2-3ゾーンのスペースをうまく攻略した帝京長岡が、司令塔の祝俊成、佐野翔太の連続3ポイントで波に乗る。前半終わって38-30というスコアは、立て続けにシュートが決まって勢いを出した帝京長岡のペースだった。
シュートを落とさせたいならば走れ!
帝京長岡の前半の3ポイントの決定率は16本中8本で50%と高確率。ハーフタイムに明成の佐藤久夫コーチは、選手たちに駆け引き合戦を促し、「相手のシュートをもっと落とさせるためにはブレイク(速攻)なんだ」と檄を飛ばしている。その真意はこうだ。「シュートを落としたらブレイクを出されるという心理的恐怖を与えなければいけない。だから走れ!」
走るためには、シュートセレクションを悪くするための当たりの強いディフェンスが必要。後半になって、明成はディフェンスのギアを一段階上げた。ファウルトラブルに苦しんだ3回戦の洛南(京都)戦では第4クォーターからオールコートでプレッシャーをかけたが、この試合では第3クォーターからオールコートのゾーンプレスに変えた。ここが勝負の分かれ目だった。
「帝京長岡はポイントガードの祝君が起点なので、そこを狙いに行ったし、ディフェンスで脚を動かすことで、オフェンスでも走れるようになった」と司令塔の塚本舞生が言うように、脚が動き始めた明成は田中裕也が要所で3ポイントを決め、八村阿蓮がティレラ・タヒロウにブロックショットで襲いかかるような度胸あるプレーが出てきた。帝京長岡は小林大幹の連続3ポイントと五十嵐平のシュートで応戦しているが、柴田勲コーチは「この辺から、連戦で身体が痛む部分と気持ちのメンタリティが合わなくなってきて、そこで2回、3回とアタックするタフさがなかった」と語っている。
第4クォーターに入ると、明成はさらにディフェンスを変化させる。リーチの長い相原アレクサンダー学を中央にする3-2のゾーンにして相手を惑わすと、塚本から相原へのアリウープ、相原のスティールから塚本の速攻と縦に切る流れが出てくる。そこへ来て、エース八村がタヒロウを1対1で抜き去るナイスプレーが出て徐々に差を広げる。この時、八村の顔に今大会ではじめての笑みがこぼれてガッツポーズが飛び出した。「僕の代わりはいないから、絶対にファウルをしてはいけない」と、いつも神経を張り巡らせているその険しい顔つきが、身体を張ることへのやりがいに変わったのだ。
この後、唯一、帝京長岡が抵抗したのは残り4分。タヒロウが打った遠い位置からのバンクショットの3ポイントとスティールからの速攻が連続して決まって3点差。しかし反撃もそこまで。終盤、明成は田中がこの日6本目となる3ポイントを決めてダメ押し。65-56で逆転勝利に成功した。
3つのテーマを消化し、決勝は『当たって砕けろ!』
帝京長岡の柴田コーチは「第3クォーターで足が止まって大事なところでミスが出た。あの辺から歯車が狂い始めて気持ちが焦っていたが、明成は落ち着いてやっていた。塚本君と田中君の細かな足さばきのディフェンスに、祝はだいぶ苦しんでいた。そのあたりから八村君のインサイドが決まって中外とやられた。明成のほうが一枚上手。力がありました。強かったです」と敗因を語った。一方、明成の佐藤久夫コーチは、後半カムバックした戦いぶりに手応えを感じていた。
3回戦の洛南戦では、八村が前半だけで4ファウルを犯したことで、耐えて我慢することを覚えた。準々決勝では広島皆実(広島)に対して後半にディフェンスの立て直しでリズムをつかんでいる。選手たち自身が判断して内容を修正できたことに、「未完成ながらも戦い上手になってきている」と語っていたのは準々決勝の後だったが、準決勝後には「戦い上手になってきた印象があります。対戦相手に対してどういう攻防をすればいいのか、バスケットボールというものを知ってきたところ」という言葉に変わっていた。
明成バスケ部の毎年のテーマは、勝ち負け以前に、バスケットボールという競技の特性を理解し、自分たちでゲームを組み立てることにある。その結果が勝利であることは言うまでもないが、さらに今大会は『落ち着いてプレーすること』、『相手チームを怖がらないこと』、『自分のプレーに責任を持って最後までプレーをする努力を続けること』の3つのテーマを掲げて挑んでいる。これらはインターハイの時点では足りなかったことで、その結果が決勝での1点差の敗北だった。
だから佐藤コーチは言う。「夏はまだ自分たちに自信がなかったので、決勝はチャレンジすることができなかった。決勝はラストゲームなので、『当たって砕けろ』ですね」
その短い言葉に決勝でやるべきことが集約されている。「練習でやってきたことが積極的にやれているので、今はみんな自信がついてきています」(相原)「ディフェンスのプレッシャーをどこで強めるのか、その仕掛け合いを考えるようになった」(塚本)と選手たちが手応えをつかむように、あとは仲間を信じて、インターハイではできなかった『当たって砕ける』チャレンジをするだけだ。