篠山竜青

1年後の東京オリンピックは「開き直りに近い感覚で」

新型コロナウィルスの感染拡大により、Bリーグは3月27日にシーズン中止を発表した。王者を決めるチャンピオンシップは行われないまま、4年目の戦いは幕を閉じた。川崎ブレイブサンダースの篠山竜青は「残念ですけど、正しい判断」とシーズン中止を語る。

ただ、川崎にとってはリーグ優勝を十分に狙えるチーム力を備えた状況でのシーズン終了で、致し方ないとはいえやりきれない思いもある。「もちろん誰かが悪いわけではなく、悔しさをぶつけるところがありません。それがすごくもどかしい。本当に今シーズンは優勝が近くにある手応えがあったので、悔しさも強い。それが本音です」

2年続けて同じメンバーで戦うことが基本的にないプロスポーツの世界だけに、苦楽をともにしたチームメートとこの中途半端な形で別れなければいけないことへの寂しさもある。「来シーズンも全く同じメンバーでもう一度戦えることはありません。そこに対する寂しさは強いです。状況が状況なので、今の選手たちみんなで集まって打ち上げしようとはならないですし……」と篠山も言う。

今シーズンの篠山を振り返ると、昨年夏のワールドカップで文字通り『世界の壁』を痛感させられての再スタートだった。そこからBリーグでは好スタートを切るが、年末には左肘に重傷を負って長期離脱を余儀なくされる。まさに山あり谷ありの中でもシーズンで印象に残っている場面として、今シーズン最後の試合となったレバンガ北海道との無観客試合を挙げた。

「自分がその試合で復帰したこと。折茂(武彦)選手と最後にやれて良かった。松島(良豪)選手も個人的にはすごく好きだったので、その引退してしまう2選手と戦えたことに、人生初めての無観客試合だったことも含め、何年たってもあの光景は目に焼き付いていると思います」

篠山竜青

思いがけず訪れた長いオフ「モヤモヤした気持ちを抱えつつ」

日本代表のキャプテンを務める篠山にとって、東京オリンピックが1年延期となったことには大きな影響がある。「予定通り、今年の夏の開催であれば、何とか駆け足で故障した肘の状態を間に合わせて、バタバタした中でコンディションも上げていく感覚でした」と言うように、コンディション調整においてこの延期はポジティブな要素もある。

ただ、「成長できる若手はたくさんいます」と語るように、今であればオリンピックメンバー当確と言える代表における立ち位置が、来年も保証されているわけではないことも理解している。ベテランの域に入りつつある篠山は、まだ若手に負けない伸びしろがあると考えているのか。この問いに「そう思ってやるしかないっていう状態です(笑)」と答える。

「それが素直なところです。若いポイントガードは1年あればいくらでも成長できます。自分がそれに負けずに成長していけるか、延期が決まって最初はすごく不安な気持ちも正直ありました。ただ、それを不安に思っても自分でコントロールできる部分ではない。とにかくこの1年で自分がどれだけ成長できるかに集中する。そこは開き直りに近い感覚でやるしかないと思っています」

このようにシーズン延期から中止へと至るまで、当然ではあるが様々な思いが去来した。だからこそ、残念な形ではあるが、中止と1つの結論が出たことによる安堵もある。

「これは僕だけかもしれないですが、どんな形であれシーズンが終わってしばらくは試合がない。そして、練習もないという状況になると、ホッとするところも正直少しはあります。今は残念な気持ちと2つが入り交ざって、一言で言い表せないような複雑な気持ちです。そのモヤモヤした気持ちを抱えつつ、今は家でYouTubeを見ながらズンバを踊る。そういう生活です」

篠山竜青

とどろきアリーナの変化に「今はリーグ屈指です」

天皇杯では惜しくも準優勝に終わり、リーグ戦も途中終了となった。今シーズンの川崎は何も掴めなかったように見えるが、そんなことはない。2年続けてリーグ屈指の観客動員の伸び率を達成し、今やホームゲームでは4000人以上の満員となることも珍しくなくなかった。

「強いけど観客は少ない」と言われたBリーグ開幕当初の雰囲気はなくなった。強さと人気を兼備したリーグ屈指のビッグクラブの地位を確立したシーズンとなった。

当然、不遇の時期も経験している篠山は、その変化に思うところが大きい。空席が目立つ数年前から激変した今のアリーナの盛り上がりに「なかなか慣れないです。とどろきアリーナの試合では選手紹介の時、いまだに鳥肌が立ちます」と話すとともに、あらためてファンへの感謝を強調する。

「Bリーグ1年目は、選手紹介での会場暗転にも、『こんなにガラガラなのに体育館を暗くしたりとか、ちょっと恥ずかしい』と思っていたぐらいです。だから、いまだに今のこの状況が夢なんじゃないかって思う時もあるぐらい、すごくありがたいです。自分たちがコートの中でやっていることが間違いじゃなかった、そう感じます。Bリーグ1年目の時はブレックスアリーナのようなとか、クレイジーピンクのような雰囲気とかを作っていけたら、ああいう雰囲気が目標だと思っていました。それが今のとどろきは、本当にリーグ屈指のアリーナだと言えます。そこは本当にうれしいですし、会場に来てくれるファンの方たちに感謝しています」

今はBリーグも先行きが見えないまま長いオフシーズンに入っている。ただ、篠山は立ち止まることなく、逆にこの状況だからこそやるべきことを率先して行動に移している。例えばシーズン中止が決まる直前、選手たちでお金を集めクラブスタッフへと寄付を行うことを表明した。

「それこそNBAがシーズン中断となった後、ケビン・ラブ選手がすぐに時間給スタッフのための寄付をしたバスケット・カウントさんの記事を見て、何かできないかと思いました。それでまず、辻(直人)に相談して、一人でやってもNBA選手とはだいぶ規模が違うので、選手みんなに声を掛けました。クラブの誰をターゲットにどのような形で渡すのか、そういう細かいところは広報のスタッフさんを中心に取りまとめてもらい、実際に寄付してもらうことになっています。プロスポーツ選手としてこういう時に支援など、何かアクションを起こすことはすごく大事なこと。会社員時代では簡単にはできなかったようなことも、プロになった今はできることもあるので、何かアクションを起こせればなと。当時は、日本のスポーツ界でクラブに対して自分たちの給料を寄付するといった支援行為はそこまでなかったと思います。最初にそういうアクションを起こせれば、何かきっかけになるかもという思いがありました」

そして、“離れていても一家団結”を掲げる川崎であり、ファンとの繋がりを途切れさせるつもりはない。

「これから皆さんが自宅でSNSとかYouTubeを見ているだけで楽しめるモノを考えて、僕らもどんどん発信していければと思っています。こういう時でも、川崎ブレイブサンダースの活動をお楽しみにしてほしいです。また、川崎に限らず、バスケットボール選手がコートの中でプレーするだけじゃなくて、スポーツ選手として価値を高めるためにBリーガーみんながモチベーションを高く頑張ってくれています」

リーグ随一のエンターテイナーである篠山が、これからどんなコンテンツを届けてくれるのか。チャンピオンシップがなくなり、オリンピックも延期になった分、彼の行動力はそちらに注がれるはずだ。この時期にも彼からは目が離せない。