取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

片峯聡太監督は、福岡大学附属大濠の監督に就任した当初と比較して「長い目で物事を見られるようになった」と自分の成長を振り返る。全国で勝つチームを作るのはもちろん重要だが、卒業後に選手として、そして人間として成功するベースを作ることはそれ以上に重要だし、難しいことでもある。そんな片峯監督に、指導者としてのポリシーを聞いた。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

「周りから支えてもらえる人間になってほしい」

──高校のバスケ部を指導する上で一番難しいのが、相手がまだ子供だということです。選手との付き合い、人として成長させる意味でどんな意識を持っていますか?

抽象的かもしれないですが、彼らには「コートの中外に限らず、人に支えられる、支えてもらえるような選手になりなさい」、それから「人を支えることのできる選手になりなさい」という言葉をかけています。これは選手としても人としてでも同じです。そこはただバスケットが上手だからすごいのではなくて、辛い時に日頃の行いで周りが声をかけてくれる人物なのかとか、相手が苦しい思いをしている時にお前は一つ声をかけてあげられる、そんな選手であるのかを大事にしています。バスケットの競技レベルが高かろうが低かろうが、そういった根本が全員にあるのが今年のチームの良いところです。

ただバスケットのメンタルを話せば、勝つことだけに集中しなさいと言っています。これは間違いなく私自身が田中先生から譲り受けているもの、負けず嫌いの精神ですね。勝つことだけに集中するというメンタルでバスケットに臨むことを常に望んでいます。

──「支えて支えられて」は、何かそういう経験があってメインに据えているんですか?

最年少優勝だとか最年少監督だとか言われますが、私はたまたま大濠の監督に就任をさせてもらいました。こんな未熟な私が日本一になっているということは、ただただ周りに支えられているからです。それを思った時に、選手も周りから支えてもらえる人間になってほしいし、恩があるなら恩返しできる選手になってほしいんです。

私が支えられたから選手にもそう意識しろというのではないし、「支えられろ」と言ったところでできるものではありません。ですが、いつの日かそれに気づいてもらいたいので、いろんな角度からタイミングがあるたびに伝えていけたらと思っています。

──ご自身で未熟と言いますが、就任当初から比べると随分と落ち着いたように見えます。指導者としてどの部分が成長したと思いますか?

バスケットの指導方針や考え方、やりたいことはまだ8年しか経ってないのでそこまで変わっていませんが、それでも少し長い目で物事を見られるようになりました。選手のこともチームのことも、計画の下で実行していく。それができるのは経験のおかげなのかなと。

まだ私は若いし未熟ですが、最初の頃は何につけても「今すぐ」と焦ることが多かったように思います。特に就任当初はやはり焦りがありました。それこそ1年目は大濠として22年ぶりにインターハイに行けなかったので。それで皆さん離れていくかと思ったら、「頑張ってよ」という声もいただいて。それはありがたかったです。

「自分の中心にバスケットを置き続けること」

──選手との接し方は変わりましたか?

最初の頃は細かくガミガミ言っていましたが、今は「これだけは絶対ダメ」ということだけを言います。というのも、最終的に自主的にできる選手を育てたいからです。全くやれない子に自主性を求めても、それは放任です。かと言って、できる子に付き添いすぎるのも良くない。その距離感は以前に比べると一歩引いたものになりました。

──「これだけは許せない」の内容はどんなものですか?

学校生活を誰にも文句言われないようにきちんと送る。それに加えて、この体育館に来て一生懸命バスケットを頑張る。このスタイルだけは厳しくありたいです。例えば提出物を出してなかったり、授業中に寝ていて寝起きの顔で体育館に来たりとか。そこには意地を持ってほしいです。練習量では他の学校さんに比べると多分少ないぐらいなので。

規律の部分での礎を築いてくれたのは筑波にいる青木保憲とか、あの年代でした。あともう一つ下の津山尚大と鳥羽陽介の代ですね。津山はヤンチャに見えるかもしれないですけど、学校生活では一度も注意を受けたことがありません。そしてバスケットでは負けず嫌いで、とことん練習する選手でした。

──そういう選手たちに共通するものはありますか?

どんな時でも自分の中心にバスケットを置き続けることができる選手でした。バスケットが中心にあるから遊びほうけることなく、バスケのためにこの行動が必要だと考える。嫌なことや辛いことがあっても、逃げ出すんじゃなく体育館に戻って練習をする。大学やプロで活躍する選手はそういう面を持っていました。

指導者としての自分は「立って歩き始めたぐらい」

──インカレ決勝では大東文化大と筑波大の先発10選手のうち5人が大濠出身でした。片峯さんも会場でご覧になっていたそうですね。

真ん中で見ていました。みんなそれぞれ高校の時よりも1つポジションが上がるか上がらないかのところでやってくれています。高校のままだったり、大学に上がっても後々厳しくなるような状況ではなかったので安心しました。10人中5人が大濠出身だったからではなく、「この子たちがプロになった時にまた見たいな」と思わせてくれたことがうれしかったです。みんな3年後、5年後が楽しみですよ。

──自分が掲げる理想と今の現実を比べると、どれぐらい差がありますか?

私は育成と強化を頑張って極めたいです。ただ勝つだけではなく、勝つ中で将来性を感じさせる選手を育成していきたい。そう考えると、よちよち歩きから立って歩き始めたぐらいのところです。それくらいバスケットは深いものですから。

採点するなら30点。大濠の指導者としてはまだ赤点で、周りのスタッフと選手にに支えられています。お世話になっている分、今度は自分がしっかり力をつけて選手を育成してチームを勝たせたいです。

──ウインターカップに向け、大濠のここに注目してほしいというポイントを教えてください。

インターハイチャンピオンということは私も選手も過去のこととして忘れ去っています。一戦一戦チャレンジャーの気持ちでバスケットに向かって、コートで自分たちのプレーを体現するところを是非見てください。今回はしっかりトランジションで走って、勝利をモノにしたいと思っています。そういうアグレッシブなバスケットを展開できるように頑張ります。