今野翔太

大阪エヴェッサはここまで24勝15敗、西地区首位の琉球ゴールデンキングスとは1ゲーム差で、Bリーグ4年目にして初のチャンピオンシップ進出が現実的な目標となっている。ただ、中断前の時点でチームは4連敗、リーグ再開から立て直すことが必要だ。チームで最も在籍が長い今野翔太は「ここで良い練習ができたと、逆にプラスにとらえています」と自信を持っている。無観客でのリーグ再開となるが、今野は「バスケってやっぱり面白いなと思ってもらえるように」、エナジー全開のプレーでチームを引っ張るつもりだ。

「一喜一憂するんじゃなく、最後に笑おう」

──大阪にとっては、西地区の首位争いを演じていて、このまま行けばチャンピオンシップにも進出できるというタイミングでのリーグ中断でした。非常にやりづらい1カ月だったと思いますが、どう過ごしていましたか?

どのチームも今までにない経験なので、試行錯誤しながら練習していたと思います。それなりに休んだチームもあると聞きますが、ウチはしっかり練習していました。田原(隆徳)がチームに合流した時は試合続きでチーム練習がほとんどできなくて、そこで4連敗したんですけど、今は一緒に練習して合わせることができました。ケガをしていた(ショーン)オマラももう練習はできています。

僕は身体作りに重きを置いて過ごしました。シーズン中は疲れを意識しすぎてウエイトが疎かになってしまうので、ここでパワーアップしたろ、と思って。もともと僕がルーキーの時に天日コーチから言われた「翔太、技術は体力とかパワーで補える部分もある。そこは絶対に疎かにするな」という教えで今があるので、そこに立ち返りました。

──その天日ヘッドコーチが久しぶりに指揮を執ることになり、大阪は一気に強くなった印象です。選手はそれほど入れ替わったわけではないのに、過去3シーズンとは違う強さが出せている理由は何ですか?

天日さんの存在は大きいです。戻って来ると決まった時に、結果はどうあれ競争が激しくて厳しいチームになると思いました。練習がすごくハードで、夏から結構走り込んで、シュート練習も何百本もやっています。天日さんは「それがお前らの仕事だ」というヘッドコーチです。実際に戻って来ても、やっぱり僕がルーキーの時の天日さんの感覚そのままでした。

一番すごいのは統率力です。天日さんが「これや」と言ったら全員がやる。そのやらなあかんプレーに100%の力を出そうとする。他にちょっと色気を出すとか、違うところに意識が行かないように上手くコントロールして、なおかつ選手にやる気を出させて一つの方向に向かせるんです。厳しさを前面に押し出しつつも、アメとムチの使い方が上手い。一喜一憂するんじゃなく「最後に笑おうぜ」という感じでチームを統率しています。

──天日ヘッドコーチは『走るバスケ』を掲げていますが、『走るバスケ』といっても様々です。エヴェッサの『走るバスケ』はどんなものですか?

今はファストブレイクポイントがちょっと下がってきているんですけど、やっぱり(伊藤)達哉とアイラ(ブラウン)、ジョシュ(ハレルソン)がリバウンドを取って走る、そして達哉のプッシュがすごく大きいです。前半戦の僕らの走るバスケは達哉とアイラが引っ張っていて、僕らがそこに合わせて走りました。だから今、途中加入の田原は頑張ってボールプッシュしてくれています。この1カ月を挟んで良いバスケットを取り戻せると思います。

今野翔太

「コーチの求めることをやるのがプロなんです」

──今野選手個人としては、先発で出ることが多いのですがあまりプレータイムは平均14分と伸びません。先発で使われるのは信頼されているからだと思いますが、ガードのケガが多い中で自分ではなく若手が起用されることをどう受け止めていますか。

開幕戦、僕は0分でした。でも開幕戦で負けて、次の試合では出て勝って、そこからプレータイムは増えました。「お前の役割はディフェンスだ」、「良い入りをしたいから」とはずっと言われています。天日さんは昔から、開始5分で1人交代させるんです。僕がスタートで出て5分で(橋本)拓哉に代わる。それで第3クォーターの出だしまで出ないことも結構あります。そこに関してはもっと出たい気持ちはもちろんあります。

ケガ人が出る前に、5試合中4試合で出場がなくて、その理由も伝えられていませんでした。最終的には天日さんに聞きに行ったんですけど、僕の中でも役割を見失っていて、ただ「どうして出られないのか」、「もっと役に立ちたいのに」と焦る部分がありました。

結局は慎重になりすぎていました。天日さんはまず外国籍選手にボールを預けて攻めさせる、ちょっと一昔前のバスケのシーンかなという部分もありますが、それでも勝っています。足りない部分はディフェンスで、そこで自分のプレーを見つめ直した時に、運動量が落ちていたんです。この年齢で運動量が落ちたら致命傷で、ディフェンスを求められているのにできないとなると、「じゃあ何ができるの?」となりますよね。そこを補うためにこの期間は足腰を鍛え直しました。オフ返上で、外でも中でも走り込んで。頑張ってるアピールみたいですけど、実際はやりすぎてチーム練習で足腰がプルプルでこけたりだとか、一瞬で抜き去られたりして、計画ミスもありました(笑)。でもこの1週間はリーグが再開されるだろうということでペースを整えて、今はめっちゃ動けます。

──この中断期間にやるべきことをやって、自分らしさも取り戻せたようですね。

だいぶ見つめ直すことができました。僕は基本、めちゃめちゃポジティブなので、観客を入れないことでお客さんには寂しい思いをさせてしまいますけど、自分としては強くなって戻って来れそうだと前向きに考えています。

──身体が動くようになったついでに、ディフェンスだけじゃなく点も取ってやる、という色気は?

僕の中ではコーチの求めることをやるのがプロなんです。そうやって生き残ってきたのもあるんですけど、「お前はディフェンダー」とコーチに言われたらディフェンスを一生懸命やる。まずそれがあって、そこにプラスアルファとして得点も取れば、プレータイムは2分か3分上乗せされるかもしれません。それが信頼ですよね。そういう意味では今が10分であれば、10分ぐらいの信頼しか得られていないんです。たくさん出たいし、「もっと俺は点取れるで」という気持ちも頭の中にはありますけど、自分の気持ちがコーチの考えと噛み合っていなければ意味がないです。

今野翔太

「俺らはもっとええで、というのを見せたい」

──リーグが再開したら、土日と水曜で試合が続いてあっという間にシーズン終了です。その中でプレーオフ進出が一番の目標になると思いますが、西地区の順位争いをどう見ていますか?

すごく強くなったと感じるのが滋賀です。気が付いたらめっちゃ良いチームになっていますよね。試合を重ねるごとに良くなっている印象です。琉球は毎年強いのでいつも追いかけているイメージ。ただ、京都も全然侮れなくて、寺嶋(良)くんが入って勢いがあります。島根や名古屋Dだって普通に強いですし。これからウチは達哉も(合田)怜もいないので、気を引き締めていかないと勝てないと思います。

──伊藤選手が抜けて、復帰した合田選手がちょうど調子を上げてきたと思ったらまた離脱で、チームにとっては大きな痛手です。彼ら2人が抜けた穴をどう埋めていきますか?

僕は『埋める』という言葉があまり好きじゃないんです。彼らの穴を埋めるんじゃなくて「俺らはもっとええで」というのを見せたい。ケガでいなくなった選手よりも自分たちの方がもっと良いプレーができるとアピールしてこそのプロです。だから僕は自分に出番が与えられるならもっと強いチームにしてやると思っていますし、みんなその気持ちで頑張ることが、あの2人の刺激にもなると思います。

こう言うと精神論みたいですけど、僕は精神論が好きなので(笑)。技術云々もありますけど、僕の中では闘志で10点多く取れるし、10点少なく守れるんですよ。そこをどれだけチームとしてやれるか。エナジーという言葉一つで片づけるのは安易かもしれないけど、実際そこちゃうかなと思います。闘志があれば10cm届かないボールに手が届く、そこで2点マイナスが2点プラスに変わったりする。達哉と怜が戻ってこれないのはとりあえず置いといて、今は新しいチームなんだと腹をくくりたいです。毎年エナジーって言ってる気がしますけど(笑)、本当にそこなんですよね。今のチームはそれを体現できると思っています。

──精神的な面でも、今までのエヴェッサとは違うと感じますか?

メンタルが強いと思います。逆境でも弱気になる選手がいなくて、「ひっくり返したろ」という気持ちも強いんですけど、逆に「今ここが劣勢やな」って考えずにやっているところもあります。プレーは全力で、精神的には淡々とやっている感じですね。そこは天日さんが来たことで一瞬で変わりました。コンクリートから急に草が生えてくるみたいに、思いっきり出てきた感じです(笑)。

天日さんはとにかく練習で動きの良い選手を使います。試合でもローテーションではなく、その場その場の判断で良い選手を使う。「みんなで戦おう、疲れたらすぐ交代がいるぞ」ではなくて、疲れていてもその選手がベストであればとにかく使います。サムライですよ。それが精神的な強さに繋がっているんじゃないかとは感じます。

今野翔太

「試合ができるならどんな環境でもやりたい」

──今回、無観客でのリーグ再開が決まりました。決定を知った時の感想はどんなものですか?

予想はしていました。プロ野球もJリーグも延期になりましたが、Bリーグはシーズン終盤ということもあって、これ以上の延期はできないので。シーズン中止になるとは思っておらず、絶対に再開するつもりで気持ちの準備をしていたので、「もう一回気合い入れて行くぞ」という感じです。

もちろん、お客さん抜きで試合をやるのは寂しいです。しかも今シーズンは成績も良かったのでお客さんがすごくたくさん来てくれて、舞洲だけじゃなく難波の会場で5000人を超えたりだとか。僕が12年やっている中でも、すごく感動するシーズンなんです。でも、与えられた環境でやるのがプロだし、こういう状況で試合をやることに賛否両論もあると思いますが、僕が小さい時はプロなんかなかったから、幸せな環境の中でやらせてもらっています。試合ができるならどんな環境でもやりたいのが率直な気持ちです。

このリーグがあることが当たり前だとは思っていません。もちろん、支えてくれるお客さんへの感謝もあるので、無観客でもカメラに向かって何かアピールしたりできたら良いですね。

──それでは、リーグ再開を楽しみにしている、また試合会場に行けないことを寂しく思っているファンの方々へメッセージをお願いします。

無観客は寂しいし申し訳ない気持ちなんですけど、今は昔と違ってネットで試合が見れる時代だし、特に今回はいろんな方の計らいで無料で観戦できるので、是非楽しんでもらいたいです。いつもバスケを見ていない人にもBリーグを見てもらえるチャンスだと思うし、僕らは画面越しでもできるだけ皆さんに楽しんでもらって、試合にも勝って、「バスケってやっぱり面白いな」とか「4月になったら見に行こう」と思ってもらえるように頑張ります。

僕らにできることは面白い試合をすることだけ。逆に1カ月も空いてフレッシュな状態なのにダラダラした試合は絶対にできません。今まで以上に良いプレーをしたいと思うので、ぜひ楽しみにしてもらいたいです。

──西地区を1位で突破できれば、クォーターファイナルをホームで開催できます。

それヤバいですね。それはもうホンマにやるしかないです。ライバルは強いですが僕らはずっと引っくり返せると思ってやってきました。闘志で勝って、ここでチャンピオンシップをやります。