ヤニス・アデトクンボ

「生涯を通しての絆だし、それこそ僕が求めているもの」

リーグ首位のバックスは、3月4日に行われたペイサーズ戦に119-100で勝利し、今シーズン53勝目をマークした。2年連続の年間60勝が見えてきたバックスだが、昨年のオフの時点で、彼らが昨シーズンのチームを上回れるかどうかは定かではなかった。

昨シーズン終了後、球団は選択を迫られた。昨シーズンの躍進を支えたクリス・ミドルトンがフリーエージェントになり、同じく主力だったマルコム・ブログドンが制限付きフリーエージェントになったからだ。熟考の末、バックスはミドルトンとの再契約を選択し、ブログドンをペイサーズにサイン&トレードで放出した。

ブログドンにとっては初の大型契約を結ぶ機会でもあり、支出を抑えたい球団と条件面で折り合いがつくことはなく、トレードという選択は仕方がなかった。ただ、ブログドンが抜けた穴は大きく、戦力ダウンは否めない。球団の決断にエースであるヤニス・アデトクンボは頭を抱え、これまで固辞してきた選手勧誘に乗り出すことを決めた。

彼がチームに必要な戦力として考えた選手は、ベテランのウェスリー・マシューズ、そしてカイル・コーバーの2人。どうやって2人を口説き落としたのか、その方法をアデトクンボが『The Athletic』に明かした。

以前は「選手勧誘はGMの仕事」と乗り気ではなかったアデトクンボだが、いてもたってもいられずに同じエージェンシーのマシューズに連絡した。マシューズはトレーニング中で電話を持っておらず、後にかけ直してきたという。

そしてアデトクンボはマシューズに、このようなラブコールを送った。「あなたはディフェンスもシュートも優れている。それ以前に人として素晴らしいし、あなたならウチの力になれる。お互いに優勝を経験していない。一緒に優勝を目指すグループを作ろう」

マシューズには複数のチームが関心を寄せていたが、シーズンMVPの一声により、彼はバックスとの契約を決めたと『The Athletic』に語った。

「同じ選手からの評価が一番大きい。ライターでもブログでもメディアでもなく、対戦する間柄、チームメートとして一緒に戦う選手からリスペクトされるのは、本当に意味のあること」

マシューズの勧誘に成功したアデトクンボは、次にコーバーにも連絡を入れた。スムーズに事が運んだマシューズのケースとは異なり、コーバーは態度を保留。アデトクンボは、「自分のやり方が良くなかったのかもしれない」と思ったというが、慣れない選手勧誘を初めてやっているのだから、無理もない。

彼は気を取り直し、カリフォルニアにあるスポーツサイエンスで有名なトレーニング施設で練習を始めた。この施設は、NBA選手の間では有名だったが、アデトクンボが利用したのは昨年の夏が初めてだった。しかし偶然ながら、この行動がコーバーとの繋がりを生むきっかけになった。

この施設で10年以上トレーニングをしているコーバーは、アデトクンボの姿を見た瞬間、ここで自分が練習しているのを知って来たのではないかと勘繰ったという。それでもコーバーはアデトクンボを練習に誘い、一緒に汗を流した。

そこでアデトクンボは、コーバーに自分の力を精一杯アピールしたという。「カイルには『自分なら、あなたをこうやってオープンにできる』と伝えたよ。それに『こういうプレーだってできる』、『アル・ホーフォードとフィラデルフィアでプレーしたいのかもしれないけれど、僕はあなたをもっと簡単に見つけられるよ』ともね。彼は、僕の行動を気に入ってくれたんだ」

アデトクンボはコーバーから2回目のワークアウトに誘われた時に、無理に勧誘することを止め思うがままに気持ちを伝えた。

「彼には『ウチでは1試合20本のシュートを打てる』とか、『40点だって狙える』という話ではなくて『ここに今一緒にいるのは、何か意味がある』と、伝えたんだ」

アデトクンボの心意気に惚れたコーバーは、それから数日後、バックスとベテラン最低保障額で契約した。

アデトクンボの言葉に嘘はない。「リーグの選手も、僕が嘘つきではないことを知っている。自分が言ったことはやる。勝つために必要なことをする選手と思ってもらえている」

マシューズは開幕時期こそオフェンス面で苦戦したものの、先発に固定され攻守両面でチームを支えている。キャリア17年目のコーバーは、これまでと同様に3ポイントシューターとしての腕は衰えておらず、今シーズンも40.7%の成功率を記録。指揮官のマイク・ブーデンホルザーは、アデトクンボとコーバーをなるだけ同時に起用し、2人の間にはケミストリーが構築された。

頼れるベテラン2人を加え、バックスはチームとしても昨シーズンからレベルアップした。アデトクンボは「このチームは特別で、もし優勝できたら最高。生涯を通しての絆だし、それこそ僕が求めているものだから」と言う。

アデトクンボのチーム愛は、尋常ではない。「チームメートを愛している。彼らのためなら死ねる」とまで言う彼は、今シーズンの優勝にすべてを賭けている。