文=丸山素行 写真=丸山素行、FIBA.com

身長差を覆した『無名集団』の活躍

2017年のインカレはメンタルの強さと高さの利を生かした大東文化大学の初優勝で幕を閉じた。大会を通じてバスケットボールがメンタルスポーツであり、身長が高いほうが有利であるとあらためて感じさせられたが、それだけに神奈川大学のスモールバスケットは一際強いインパクトを残した。

創部以来初の関東大学リーグ1部昇格を決め、12年ぶり3回目のインカレ出場を果たした神大は、京都産業大学を1回戦で破り、2回戦の日本大学にも勝利を収め、最終的に7位で大会を終えた。

神大はベスト8入りした大学の中で唯一平均身長が180cmに満たないチームで、留学生もいなければ全国を経験していない選手も多く、世代別の日本代表に選出された選手もいない。先発で最もサイズのあるパワーフォワードの田中浩一も185cmで、自分の代での全国大会の出場経験がない、言わば無名の選手だ。

その田中は、「自分がこう動いたら味方がこう動くというのを学んだので」と目立たないながらも合わせのプレーでシュートチャンスを演出し、神大のチームバスケットの潤滑油となっていた。また自分より大きな相手に対しクレバーさと泥臭さでゴールを死守していた。「うまい選手もいましたけど、潰れていく選手もいっぱいいたし、大学は入ってからどう頑張るかです」とステップアップの秘訣を教えてくれた。

またキャプテンを務める175cmのポイントガード阿達隼人も「目標に向かって腐らずにやれた」と、田中と同じく日々の練習に真面目に取り組み、大学で急成長を遂げた選手だ。積極的にオフェンスリバウンドに絡み、強気なプレーでチームを牽引した。「強い選手たちとやり合えることに喜びを感じて、もっとやりたかった」と高いレベルでプレーする喜びを噛み締めていた。

『誰からも応援されるチーム』

神大は高さの不利をチーム一丸のディフェンスとフィジカル、全員リバウンドの意識で補った。オフェンスではボールと人が連動し、イージーシュートのチャンスを生み出して、個々の能力に頼らないチームバスケットで好勝負を演じた。

拓殖大学戦では203cmの留学生ゲイ・ドゥドゥに23リバウンドを許したにもかかわらず、46-47と総リバウンドでは互角だった。また順位決定戦の青山学院大学戦では37-50とリバウンドでアドバンテージを取られるも、オフェンスの質で上回り接戦を演じた。

いずれの試合も6点差以内の惜敗と、サイズがなくても戦えることを神大は示した。小さなチームが大きなチームに果敢に挑み、接戦を演じる姿は観客から支持された。彼らが掲げた『誰からも応援されるチーム』という目標は達成されていたのだ。

日本が目指す『スタイル』が持つ可能性

先日行われたワールドカップ1次予選のオーストラリア戦、日本は善戦したものの最終的に24点差の大敗を喫した。リバウンドで21-48と圧倒されたことが最大の敗因だが、問題はそれだけではない。

例えばメンタル面だ。国際試合の独特の緊張感やアウェーの雰囲気によって、積極性が欠けていた場面が多々あった。普段であればシュートにいくシーンでもパスを選択したり、コミュニケーション不足を招いてイージーなターンオーバーを犯すなど、流れを明け渡すミスで自滅した面も大きい。

またオフェンスを見ても、ボールと人が動き常にズレを作って効率の良いイージーシュートの機会を多く作ったオーストラリアに対し、日本は合わせのプレーやノーマークでシュートを放つシーンは数えるほどだった。

フリオ・ラマスヘッドコーチは日本の目指すスタイルとして「全員リバウンドの意識」と「ベストなプレーを選択しシュートチャンスを作る」ことを大事にしていると話した。それは体格で劣る神大がインカレで体現したスタイルと一似している。

大学とA代表のレベルが違うことは重々承知だ。それでもインカレを席捲した神大のスモールバスケットは日本代表が目指すスタイルが通用することを証明した。強いメンタルと全員リバウンド、緻密なセットオフェンスが噛み合った時、日本代表の世界への扉が開けるのかもしれない。