パワープレーで戦況を打開
ある格闘漫画の中で「握力×体重×スピード=破壊力」という方定式が確立されている。これは常人離れした握力を持つケンカ屋が『握力』という特化した属性を前面に押し出すことで、技術の差を埋められることを表現している例だ。
これはもちろん漫画の世界ではあるが、バスケットボールという高さが有利に働くリアルな世界の中で、『高さ<パワー』を体現する選手が実際に存在する。それが宇都宮ブレックスのジェフ・ギブスだ。
ギブスは188cm110kgのパワーフォワード兼センター。最低でも2mを超える選手が並ぶフロントコートを主戦場とする選手としては圧倒的に小さい。それでも、ギブスはその圧倒的なパワーでBリーグを席捲する。
2月9日、宇都宮は川崎ブレイブサンダースと激突。前日は72-74と惜敗したが、この日は76-67と前日のリベンジを果たした。この結果に大きく寄与したのがギブスだった。
宇都宮は前半で2桁のビハインドを背負ったが、後半を42-23と圧倒し逆転勝利を挙げた。前半はペイントエリアでの得点が12点だったのに対し、後半は28点とインサイドを攻略したことが勝因となった。
そんなに得点できるのであれば、なぜ前半からそうしなかったか。だが、話はそう簡単ではない。川崎のゴール下を守るのは210cmのニック・ファジーカスと、高さに加え跳躍力もある208cmのジョーダン・ヒース。ギブスにとっては20cm以上も身長差がある相手だ。
「強さがないと押し込めない。強さは重要」
インサイドで得点できないとなれば、アウトサイドシュートに活路を見いだすしかない。だが前半はアウトサイドシュートに固執することで、オフェンスのバランスが崩れていた。すなわちインサイドへのアタックが必要だったが、それでも身長が小さい選手が単純にインサイドを攻めれば、20cm以上の身長差がファジーカスとヒースにブロックされるのが必然であり、そう考えればアタックを躊躇してしまうものだ。
だが、ギブスは「ブロックされてしまうこともあるけど、それは仕方がない。シュートを打つことをやめてしまうことが一番良くない」と話し、インサイドへのアタックを貫いた。
「どんな選手でも自分は押し込めるので、自分が不利だとは思っていない」と話したように、フィジカルの強さを前面に押し出し、得点を量産してチームに勝利をもたらした。
バスケットボールにおいて、高さの利は試合の展開を大きく左右する要素だ。実際、日本代表を指揮するフリオ・ラマスも身長が高い選手を集めてサイズアップを図ることで、21年ぶりとなるワールドカップへの自力出場を成し遂げた。それでも、期待されたワールドカップでは世界レベルでのフィジカル差を露呈し、5戦全敗という結果に終わった。
ギブスに「高さとパワーはどちらが重要か?」と問うと「パワーと言わないといけないんだろ?」と、こちらの意図を軽快にかわしたが、「強さがないと押し込めない。強さは重要だよ」と、持論を展開した。
日本はワールドカップで惨敗し、フィジカルのレベル差を痛感した。アメリカンフットボールで鍛えた肉体と長いウイングスパンを武器にでBリーグで活躍を続けるギブス。フィジカルの大切さを最も表す存在であることは間違いない。