林咲希

「毎試合で打つという自分の仕事を、責任を持って」

バスケットボール女子日本代表を率いるトム・ホーバスは、若い選手に多くのチャンスを与えてきた。オリンピックイヤーの今年も代表合宿に新たな選手を招集しており、その『人材発掘』の意欲は相当に強い。しかし、若手であれば誰でも使うわけではなく、自分が求める厳しい基準をクリアできなければ外されていく。結局、チームの半数は2006年のリオ五輪で経験のある選手で、年齢や経験を問わずサバイバル競争は熾烈を極める。

リオ後に台頭した選手の代表格がポイントガードの1番手となり昨年にはアジアカップMVPとなった本橋菜子であり、それに続くのが林咲希だ。リオ五輪の時にはまだ大学生。2017年にはユニバーシアード、2018年にはアジア競技大会と、日の丸のユニフォームを着てエースとして活躍はしていても、A代表でのプレー経験はなかった。

昨年春の代表合宿に呼ばれた際、林は「Aに漏れた人がBになるという感じ。落ちた感じでした」と、前年にアジア競技大会に回った悔しさを忘れず、A代表定着へと強い意欲を見せていた。どのポジションにも3ポイントシュートを求めるのがホーバスのバスケットだが、そのスペシャリストであるべきシューティングガードには特にシュートの確率、打つまでの動きの精度を問われる。そこで林は結果を出し、代表へと定着した。

JX-ENEOSでは3シーズン目を迎えたが、いまだに先発ではなく、セカンドユニットとしてプレータイムを少しずつ伸ばしている状況。それでも代表では、先発ではないにせよ自分の立ち位置を固めたように見える。実はホーバスは、日本代表のヘッドコーチを引き受ける前にJX-ENEOSの指揮官として林の獲得を決めている。勝負度胸と冷静さを兼ね備えた林の能力には以前から注目したというわけだ。その林が期待通りに競争の激しい2番ポジションで頭角を現してきた。

昨年のアジアカップ決勝の中国戦では、ビハインドを背負っての途中出場で3本の3ポイントシュートを立て続けに決めて重苦しいムードを払拭。3ポイントシュートを打つだけでなく、相手の警戒を集め、意識的なオフボールの動きでスペースを作ることでチームオフェンスに流れを生み出すことで、劇的な逆転勝利に貢献した。

林咲希

「課題が分かったことで次に進める」

その林は、今回のオリンピック予選にもメンバー入り。昨夜のベルギー戦は敗れはしたものの終盤の追い上げはチームにとっては大きな収穫であり、終盤の猛反撃で主役を演じたのが林だった。20分の出場で3ポイントシュート8本成功の24得点。「後半に出た時は小さいメンバーで出て、3ポイントを絶対に打ってほしいというトムさんのメッセージが伝わりました。自分の仕事なので、キャッチしたら打つことを決めて出ていました」と林は自分のパフォーマンスを振り返る。

「前半も打つと決めてたんですけど、メンタルの部分で決めきれていなかった。やっぱり迷いがちょっとあって、一瞬の迷いで入る入らないが変わってくるので、毎試合で打つという自分の仕事を責任を持って頑張りたい」

今大会では自分の感覚としてシュートタッチがあまり良くなく、それで初戦のスウェーデン戦とベルギー戦の前半は迷いがあったと林は言う。「点差が離れて自分の仕事ができるというのでは、まだまだ足りない。それは自分でも分かりました。でも課題が分かったことで次に進めるので、明日も迷いなくやっていきたい」

林にとっての『迷いなく』とは、「離れていても遠くても迷わず打つ」こと。もともとシューターとしての自分については「無で打つことがポイントで、それができている時は入ります」と語っている。

それでも、自分の仕事ぶりに一定の手応えは感じても最後は「勝ちたかったです」という総括になる。5点ビハインドでの残り30秒、タイムアウトを取った後の攻めで日本代表は当然のように林の3ポイントシュートをデザインした。だがこれがリングに嫌われてファウルゲームに。結局、詰め寄りはしたものの逆転には至らず、84-92で敗れている。

林は試合後の取材をこんな言葉で締めくくった。「相手が誰であっても自分の仕事ができることは感じました。でもどの人にも勝ちたいです。日本は3ポイントシュートが大事で、それを仕事としてやっている分、もっと結果を残して勝ちたい」