フリオ・ラマス

東京オリンピックを控えたバスケットボール日本代表が、2月に入って始動した。今回の代表活動は2月末に行われるアジアカップ予選で、アメリカで活動する八村塁、渡邊雄太、馬場雄大の『ビッグ3』は不在となる。しかし、国内組みの底上げなくして代表のレベルアップはあり得ず、今回の活動もオリンピックへと繋がる大事な過程の一つだ。東京オリンピックで世界の列強を相手に価値ある1勝を挙げられるか、そのために日本代表には何が必要なのか。2019年の戦いを振り返りつつ、大舞台に向けて始動する意気込みを、ヘッドコーチのフリオ・ラマスに聞いた。

「帰化選手が誰だろうとチームのスタイルは変わらない」

──まずは2019年の代表活動を振り返っての総括をお願いします。

2019年はすごく濃い一年で、いろいろな出来事がありました。2月にはワールドカップ予選突破という大きな目標を成し遂げました。また予選を8連勝で終えたことで、我々の成長を肌で実感できました。

やはり(八村)塁、(渡邊)雄太、ニック(ファジーカス)が加わったことが大きかったです。雄太が3番、塁が4番、ニックが5番に入ったことで課題だったサイズ面のアップグレードができました。オフェンスリバウンド、2ポイントシュートでの得点能力が向上し、チーム全体の得点力が一気に上がった。彼らと、もともとの主力選手である(馬場)雄大、田中(大貴)、比江島(慎)、富樫(勇樹)、(竹内)譲次がうまく融合して、我々の今までやってきたことの質が一段階上がりました。

──それでもワールドカップでは5戦全敗と厳しい結果に終わりました。

日本にとっては久しぶりに臨む世界大会でした。ドリームチームのアメリカ代表、そしてヨーロッパの強豪であるチェコとトルコと、すごく難しい相手でした。ワールドカップで1勝を挙げるべく頑張ったのですが、目的は達成できませんでした。その後の順位決定戦では塁の離脱と(篠山)竜青のケガにより、チームとしての競争力が一気に下がってしまった。それがすべてではないにせよ、我々がワールドカップで1勝も挙げられなかった理由の一つです。

ワールドカップは厳しい結果に終わりましたが、同時に新しいチャレンジのスタートとなりました。我々の成長した姿で、アジアとオセアニア相手に戦えることは確認できました。ただ、世界の強敵と戦うための力はまだ不足しています。我々の新たな挑戦は、もっと成長してオリンピックのような世界の舞台で戦えるレベルになることです。

──全面的なレベルアップが必要だと思いますが、特に足りないのはどの部分ですか。

まずはディフェンスの底上げです。もちろん成長はしていますが、これを続けていく必要があります。中でも一番の問題がフィジカルです。ファウルにならない範囲での相手の激しい当たりに負けてはいけない。またその逆もあって、我々がリーガルコンタクトの強度を上げてディフェンスを高めていくことも必要です。

もう一つは、世界レベルのプレッシャーに慣れることです。日本は長らく世界の舞台から遠ざかっていた一方で、相手は百戦錬磨のチームで、世界の厳しいプレッシャーに慣れていました。簡単に言うと『場数の違い』は大きかったです。日本は去年のワールドカップに出て、今年のオリンピックがあり、2023年のワールドカップは開催国になります。この3つの世界大会の経験はすごく大きなものになります。これからチームの中心になっていく塁、雄太、雄大が揃ってこの3大会を経験できれば日本代表の大きな成長に繋がります。

フリオ・ラマス

八村、渡邊、馬場には「チームを引っ張るのが義務」

──その八村、渡邊、馬場は今、それぞれアメリカで奮闘しています。代表の柱であるべき彼らの様子を視察しいて、ここまでのプレーをどのように評価していますか。

塁はNBAで素晴らしいスタートを切り、良い経験を積んでいます。順風満帆にいっているところにケガでストップがかかりましたが、これも経験です。彼はゴンザガ大で年間30試合ほどプレーして、そのうち彼らと同じレベルの相手との対戦は5試合くらいでした。それがNBAでは1週間に3試合、常に高いレベルの試合をこなさないといけない。その中にはカワイ・レナードやヤニス・アデトクンボといった世界最高の選手たちとの対戦も含まれます。これは素晴らしい経験です。

ケガは残念ですが、塁はどんな状況でも時間を無駄にしません。欠場している間、ゆっくりと落ち着いて周りを見渡せることができたと思います。復帰してからこれからシーズン終了まで、さらにステップアップするための良い準備になります。

NBAとGリーグの差はすごく大きく、全くの別世界です。その中で雄太に関しては所属チームでほぼ中心選手として活躍し、リーグでも1、2を争う選手になっています。すごく良い内容のプレーをしていることも私も確認しており、彼が次のステップ、NBAに行くための準備はできたと思っています。彼は大学時代を含めアメリカで6年以上を過ごし、アメリカで自分のキャリアを作ってきました。NBAがどういう世界であるかは、しっかりと理解できています。

雄大は今回、すごくワクワクしてアメリカに渡りました。もちろん厳しいチャレンジですが、選手としてのプレー面だけでなく、英語などいろいろなところで結果を出すことにやりがいを感じています。今年に入ってプレータイムや得点が大きく伸び、2019年とは全く違うものになっています。これはGリーグに慣れてきたからで、挑戦1年目では良い評価を得ていると思います。彼自身も大きく成長しています。

──彼らにチームリーダーとして期待する部分はありますか。

3人ともまだ若いですが、彼らには代表チームを引っ張ってほしいですし、それが義務だと思います。彼らは海外で活躍したいという願望を持ち続けています。その彼らのチャレンジ精神が、チームに合流した時には周りに良い影響を与えてくれることを願っています。

──Bリーグの選手たちのパフォーマンスについてはどう見ていますか。

Bリーグは年々、全体として成長を続けています。日本人の課題であるフィジカルコンタクト、アスレチック能力の面でも成長しています。だからといって世界で秀でているわけではないのですが、フィジカルトレーニングの重要性と、日々の栄養管理へのより高い意識を植え付けるトレーナーやフィジカルコーチの取り組みが徐々に結果になっています。

技術面で成長している選手もいます。この2年間で大きく変わったのはリバウンドを取る時のボックスアウト、スクリーンプレーでしっかりコンタクトをし、身体で相手の動きを止めることです。ただ、私が求めているのはレベルはもっと先にあるので、これからも成長し続けてもらわないといけないです。

フリオ・ラマス

「ファンの愛情やリスペクトを実感しています」

──東京オリンピックに向けたチームがどんなメンバーでどんなバスケットをするか、方向性はもう見えていますか。

今まで一緒に戦ってきた選手たちがベースになり、ワールドカップの結果と内容から何が足りなかったのかを考慮して、ある程度は固まっています。メンバーについては、6月の準備期間に入った時に最終ロスターまで確定すると思います。

ライアン・ロシターとギャビン・エドワーズの帰化申請が受理されたことで、帰化枠の選手について誰を起用するのか皆さん聞きたいことでしょう。ただ、過去を振り返るとニックは我々にとってすごく重要な選手で、ワールドカップに行けたのも彼の力あってこそです。チームが危機的な状況の時に合流して、流れを変えてくれたのは彼です。それに関して私は彼に一生感謝していくし、人間としてもすごく気に入っています。

勘違いしてほしくないのは、帰化選手が誰であろうとチームとしてのプレースタイルは変わらないということです。オリンピックのメンバーを決めるタイミングで、チームにとって誰がベストなのか判断します。ロシター、エドワーズ、ニック、誰になるのか今は分かりません。

──オリンピックまでまだ半年なのか、もう半年なのか。どちらの意識ですか。

その両方を思います。しかし、自分は長くコーチをやっているので、どちらかで言えば「まだ半年ある」と考えます。

──シビアに言えば、世界からは「日本がオリンピックで1勝を挙げるのも難しい」と見られています。

ワールドカップでは結果を出せませんでした。ですが、オリンピックという次の挑戦に向けた方向性は決まっていて、みんなが同じ方向を向いています。まず1勝を挙げるために、我々のスタイルを40分間変えずにやり続けられるチームにならないといけない。もちろん私はこのチームを信じていますし、今より成長できると思っています。

──今年の代表活動のスタートとなるアジアカップ予選は、どのような位置付けですか。

最優先事項はベストな内容で勝つこと。当然、オリンピックのメンバー選考にも影響を与えます。今回は、去年のワールドカップでスタメンだった選手の複数が不在となります。他の選手にとっては大きなチャンスとなります。一人ひとりが今より成長したいという意欲を強く持つのが大事です。何かが起きるのを待つのではなく、それぞれが自らつかみ取るために前に出ていくこと。周囲から期待されるチームでありたいですが、我々は何かを期待するのではなく、一人ひとりが欲を持つことを今まで以上に求めたいと思います。

──最後に、日本代表を応援しているファンへのメッセージをお願いします。

日本のバスケットボールはどんどんファンが増えていて、日本代表に対しての愛情やリスペクトを実感しています。我々が結果を出せるようになって、より多くの人たちに受け入れてもらえて、私はすごく感謝しています。ワールドカップでは全敗して帰って来ました。最悪の対応を受けるのではないかと思っていましいたが、実際は空港で温かく出迎えてもらいました。ファンの愛情をあらためて感じられてうれしかったし、私にとっては一生忘れない光景でした。

だからこそ、オリンピックでは最低でも1勝を挙げることを我々の義務としたい。ファンの皆さんに、日本代表を誇りに思ってもらえるような戦いができるよう、ベストを尽くすことを約束します。