文=泉誠一

心臓破りの階段を登った後には美しい景色が

駅から徒歩5分圏内の好立地にあるB1クラブのホームアリーナは以下の通りである。

レバンガ北海道(北海きたえーる)豊平公園駅から直結
新潟アルビレックスBB(アオーレ長岡)長岡駅から徒歩3分
サンロッカーズ渋谷(青山学院記念館)表参道駅から徒歩5分
富山グラウジーズ(富山市総合体育館)富山駅から徒歩5分
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(愛知県体育館)市役所駅から徒歩5分
横浜ビー・コルセアーズ(横浜国際プール)北山田駅から徒歩5分
アルバルク東京(代々木第二体育館)原宿駅、明治神宮前駅から徒歩約5分
※すべてBリーグ公式WEN参照、代々木第二は現在改修工事中のため不使用

北海きたえーるとアオーレ長岡は、寒冷地だけあって駅から外に出ることなく直結しており利便性が高い。一方、横浜は徒歩5分ではあるものの、駅を出ると高台にあるアリーナまでには『心臓破り』の長い階段がそびえ立つ。一瞬ひるんでしまうが、それを登り終えて振り返れば、見晴らしの良い景色が広がっており気持ち良い。日曜日の昼間のゲームが終わった後は、夕陽がキレイだ。思わずスマホで写真を撮ってしまいたくなる『インスタ映え』する景色、これもまた一つの価値である。

横浜のケースを考えると、アリーナまで続く苦しい階段と、登り終えた後の美しい風景も含めて、ホームゲーム観戦に取り込んでしまった方が良いのではないか。階段が何段あるかを数えたり、階段の途中に選手の写真等を貼り、それが何段目にあったかをクイズにしたり、フォトジェニックな風景を撮影したフォトコンテストを開いたり……アリーナの周りにこそエンターテインメントの種は溢れている。

アリーナの行き帰りでホームタウンを活性化

秋は行楽シーズンであり、冬になればウォーキング大会やマラソン大会と身体を動かすイベントが活発になる。アリーナまでの道のりを楽しく歩くことができれば、集客を増やすきっかけになるはずだ。

川崎ブレイブサンダースとJリーグのフロンターレ川崎の本拠地は隣同士であり、同日開催になると武蔵小杉駅ではバスを待つ長蛇の列ができる。駅から川崎とどろきアリーナまで歩いてみると30分もかからない。バスを待つ時間を考えれば、実は歩いた方が早い。実際、フロンターレサポーターの流れに身を任せながら歩いてみたら、美味しそうなお店を発見したり、いつもとは違う街並を感じることができた。長谷川技と藤井祐眞が登場する防犯意識向上の啓蒙ポスターを見つけるのも楽しい。これも駅から遠いからこそ気付けたこと。ならば、この悪条件を売りにできないものか!?

各クラブは多くのスポンサーを集めており、その中には地元のお店も多い。最寄駅からアリーナまでのオリジナルマップを作り、そこにスポンサーの店舗を載せて紹介しつつ、クーポン発行を協力してもらえばスポンサーとファンの両方にメリットが生まれる。スタンプラリーのようにお店に立ち寄った回数によってクラブ側がプレゼントを用意するのも良いだろう。

逆に、ファンが歩いてアリーナへ向かう時(または帰り)に立ち寄ったお店を紹介する参加型ガイドマップを作れば、思わぬ発見があるはずだ。地図アプリなどを使って共有すれば膨大な情報量になる。毎試合2000人以上、場合によっては5000人近くの集客力があるわけだから、その力は大きい。そして何より、試合帰りにファン同士が誘うでもなく自然に集まり、勝利を祝う場がいくつもあるとしたら、それはホームタウンとして理想の姿だ。地域活性化に一役買うのもプロクラブの大きな役割である。

駅から遠いからこそアクティビティで絆を強く!

オリエンテーリングというスポーツをご存じだろうか? 地図とコンパスを使って、チェックポイントを目指すアウトドアスポーツである。その楽しさをかいつまみ、駅までの道順を複数紹介する地図を配布またはネットで公開。その道のりにポスターを張り、そこにキーワードを盛り込むなどのゲーム性を高めれば、長い道のりだってあっという間に感じられる。

着替えとなるTシャツ付きチケットを売るのもいいだろう。『水の都松江』と呼ばれる島根スサノオマジックならば温泉パックを用意しながら、ウォーキング大会を実施。一人だったり、いつも同じメンバーでマンネリ化しているアリーナまでの道のりを、同じチームを愛する同志と一緒に歩けば仲間が増える。それにより、これまで静かに見ていたファンも一緒になって声を出し、歓声が大きくなる。

どんなに良い設備や立地が良く、客席が埋まっていても、スピーカーから出る音量だけがけたたましいアリーナではバスケットを見る環境としては乏しいと言わざるを得ない。大きな声援で活気づいているアリーナの雰囲気こそ、選手たちのモチベーションを高め、チームの勝利を後押しするホームコートアドバンテージになるのだ。

アリーナが最寄駅から遠い。これは間違いなく悪条件なのだが、頭をひねれば楽しいメリットはいくらでも生み出せるはず。アリーナ内のエンタテインメントだけではなく、アリーナへ誘う道のりをアクティビティに変えて、さらなる集客につなげられないものだろうか。『ピンチはチャンス』、これはコート内に限った話ではない。