文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫

「2部に落ちたことも経験に」

Bリーグ初年度の昨シーズン後半戦、特別指定選手として秋田ノーザンハピネッツに加わった中山拓哉は、同期で最も印象に残る活躍を見せた。特別指定選手の多くが『お試し』の数分間しかコートに立てない状況で、中山はきっちりローテーション入り。22試合に出場し、うち5試合では先発も務めた。

秋田を選んだ理由を中山はこう言う。「最初に声をかけてくれたのが秋田でした。それと、入った時点から試合に出たいという思いもありました。Bリーグになって注目される中、ブースターさんの存在も大きくて、プロ選手になるからには応援してもらえるチームはすごく良いと思いました」

試合に出ることで経験を積みたい中山と、即戦力を求める秋田。どちらにとっても好都合な加入だった。しかし秋田は残留争いを強いられ、最終的にはB2へと降格している。それでも中山は自分の選択を後悔してはいない。

「他の特別指定選手よりもたくさん試合に出て、絶対にみんなより良い経験ができた。2部に落ちましたが、その経験もみんなができることではないと思って。またここから頑張らないといけないぞ、と言われているような感じです。だから降格が決まってショックでしたが、次の日から練習を再開しました」

今夏を筋トレに費やした中山は、一回り身体を大きくして今シーズンを戦っている。「昨シーズンは数字も思っていたより出せたのですが、それは僕だけ対策されていなかったからです。だから、できていた部分は、次のシーズンになったらできなくなる。そういう気持ちで夏のトレーニングをやりました」

「ドライブをしなくなったら空気になっちゃいます」

中山の武器は一瞬の加速で相手を抜き去るドライブだ。フィジカル強化はこの面にも大きくプラスに働き、スピードだけでなくパワーでも相手を圧倒できるようになった。「ドライブは僕の強みだし、ゴールまでしっかり行けています」。そう言い切るだけの自信がある。

プロの世界でも全く躊躇することなくガンガン攻める強気の姿勢はどこから生まれているのか。そう質問すると中山は「僕がオフェンスで貢献できるのはそこしかないので」と笑った。「僕がドライブをしなくなったら空気になっちゃいます。行けると思ったら絶対にレイアップまで持っていくつもりでやっています。それに、シュートまで行けなくても相手のディフェンスは収縮するのでシューターが空いたり、何らかのプラスにはなりますから」

そのドライブは東海大で磨いたもの。「これまでドライブで抜けないと感じた相手は?」との問いへの答えは田中大貴だった。ただ、それはアルバルク東京との対戦ではなく、中山が東海大に入学してすぐ、当時4年の田中とのマッチアップだ。「当時からめちゃくちゃうまかったです。ドライブに行っても身体でドンと止められちゃいました。ディフェンスだけじゃなく、何をやっても一番できるんです」という存在だった。その田中がトヨタ自動車のスタープレーヤーとして活躍する姿を見ながら、中山は「あのレベルまで行けばプロでも通用する」と努力を重ねてきた。

その結果が今のドライブ。「フィニッシュがあまり良くなかった試合はありますけど、ドライブで何もさせてもらえなかった試合はないです。レイアップまでは行けます」と、やはりドライブに関しては自信満々だ。

課題の外角シュートも「これから強みになる」

そして今シーズン、そのドライブはさらなる進化を遂げようとしている。秋田の新たなヘッドコーチ、ペップ・カナルスからはピックプレーの際に「ワンドリブルでレイアップまで行くことを意識するように」とアドバイスされている。「今まではピックを使う時に相手を見て行かない時もありました。でも、そこは僕のドライブを買ってくれていると思います。日本のコーチだったらピックを使ってワンドリでレイアップに行けとはまず言わないです。その面でより積極的になりました」

一番の武器であるドライブを磨き、より効果的な使い方もマスターする。それと同時に、課題を克服して完璧なプレーヤーに近づくための努力も怠らない。「オフェンスの面ではいくらドライブがすごくても、もっとシュート力を付けないと止められてしまうので、そこは改善する必要があります。外角のシュートはあまり試合で入っていないので。でも、そこは練習でどうにでもなるところですから、今はただの練習不足。これから強みになると思って練習します(笑)」と心強い。

ディフェンス面では「1番から3番まで付けるように。僕より10cm大きい相手を止めるにはフィジカルで押し込まれないような身体作りが必要です」と言いつつも、「スティールやリバウンドで数字も残せるようになってきたので、入った頃よりは良くなっています」と早くも収穫を得つつある。

中山が考える『一流のプレーヤー』とは、常にチームに必要とされる選手だ。「このプロの世界で僕がずっと秋田にいられるか分からないし、ヘッドコーチもいつ代わるか分からないです。でも、どこのチームでも誰がヘッドコーチでも必要とされる、そんなプレーヤーが一番価値が高いと僕は思っています。そういうプレーヤーになっていきたいです」

中山は今の自分を客観的に見ることができている。絶対的な武器があるから自信がブレないし、弱点を理解し改善に努める。明確に描く『理想のプレーヤー』に一歩ずつ近づいているのだ。