ノースカロライナ大ウィルミントン校(UNCW)でNCAAディビジョン1デビューを飾り、昨シーズンを通して1試合平均30.8分のプレータイムを得て、8.8得点、7.8アシストを記録したテーブス海。彼が大学を辞めてBリーグへの電撃参戦を決め、宇都宮ブレックスと契約を結んだことは大きな衝撃だった。日本バスケの将来を担う21歳は、どんな考えからこの決断に至ったのか。プロ転向を果たして静かに闘志を燃やす彼に、その経緯と思い描く未来図を語ってもらった。
「もっと高いレベルでやりたい」の一心で
──UNCWでの1年目からチームの主力として活躍しました。これは自分では予想していた結果ですか?
いや、スカラーシップをもらってもディビジョン1で活躍できるとは正直思っていなかったです(笑)。入ることができたのはうれしかったんですけど、これから厳しい戦いになるだろうと覚悟はしていました。これまではディビジョン1に行けるかどうかのレベルの選手とやっていたのに、UNCWに来れば当然、ディビジョン1の選手と対戦するわけですから。実際に身体能力もバスケIQも高い選手ばかりで、そこで1年生から活躍するのは厳しいんじゃないかと思っていました。
でも一番最初に強豪のクレムゾン大とのエキシビジョンゲームがあって、ベンチスタートだったんですがすごく調子が良かったんです。入っていきなりノールックのパスが決まって、ピックを使ってレイアップを決めて、満員の観客がワーッと沸いて。この試合が一番レベルが高いと思っていたので、「ここで活躍できたんだから」という勝手な自信がつきました。
──それでも、2シーズン目の途中でUNCWを辞める決断を下します。辞めること自体はどういう理由からですか?
もっと高いレベルでやりたいと思いました。もちろんディビジョン1はレベルが高いですけど、カンファレンスによって大きく差があります。もっと良い大学に移ることも考えたのですが、そうなると1年間プレーできなくなります。21歳という一番成長できる時期に1年プレーできないのは、自分の成長に良くないと考えました。そこでBリーグに行くことを検討したんです。アメリカから見ていて、僕が日本にいた頃のリーグとは全然違うレベルになっているし、すごく盛り上がっていると感じていました。
その時は自分がプレーすると思って見ていたわけではなかったです。それはレベルとかじゃなく、自分がアメリカにいて、いずれはGリーグ、サマーリーグに挑戦したいと考えていたからです。でも、Bリーグの盛り上がりをポジティブに見ていたのは間違いありません。
──NCAAのディビジョン1でプレーする方がレベルが高いようにも感じますが、そうは思わなかった?
ディビジョン1でもレベルの差は激しくて、デューク大やノースカロライナ大のような強豪にいる選手はそう思わないかもしれませんが、僕だけじゃなく僕のチームメイトもBリーグには注目していました。ディビジョン1でプレーしている選手はみんなNBAじゃなくてもプロになりたいんです。Bリーグの外国籍選手全員がディビジョン1のハイメジャーな大学から来ているわけではないので、みんな「俺もここでやりたい」という思いは持っていました。
「今はまだNBAレベルの選手ではない」
──テーブス選手としては、NBAでプレーする夢をあきらめたわけではない?
「Bリーグに行くことでNBAの夢はどうするんだ」と周りが思うのも分かりますが、僕はそういうことではないと思っています。僕はアメリカにいてもNBAドラフトにかかる選手ではないと思っています。それはミッドメジャーの大学にいたこともあるし、プレーヤーとしてのタイプもあります。NBAに行くとしてもサマーリーグやGリーグを経由することになるので、それはBリーグでも一緒。最終的にNBAのコートに立ちたいという思いは変わっていません。
冷静に自分を見て、今はまだNBAレベルの選手ではないと自分が一番思っています。でも、そこにたどり着くための努力はやっていくつもりだし、そのためにBリーグでプレーすることにしました。
──では、ブレックスにはどんなイメージを持っていましたか?
バスケに熱心なファンがいて、チームとしてはバスケットIQが高い。『Winning Culture』があるチームだと思っています。宇都宮を選んだのは自分が見習うことのできる選手がたくさんいるから。例えば同じポイントガードの田臥勇太さんと一緒にプレーすることで、本当にたくさんのことを学べるはずです。それに、このチームが持つ『Winning Culture』はUNCWにいた僕にはなかったものです。僕はディビジョン1でアシスト数で結果を出したと言われていますが、チームを勝たせたわけではないので。
──宇都宮は今シーズンも好調で、ここにテーブス選手が入ることでいよいよ優勝の最有力候補と見られます。自分が入ることでチームの何かを変えてやる、という意気込みはありますか?
正直、全然ありません。僕が何をどれぐらいやるかとは考えていなくて、チームが必要とすることをやるつもりです。30分プレーすることが求められるなら僕はやるし、それが10分だったら10分やります。僕がいなくても勝っているチームですから、自分が入って何かを崩したくないという思いはあります。
僕は宇都宮の選手から学ばせてもらおうと思っているし、チームの何かを変えてやると言える立場ではありません。でも同時にBリーグでやれる自信もあります。他の選手たちを見習いながら、一緒に優勝を目指したい。宇都宮の目標は優勝だと思いますが、仮に準優勝を目指すのであれば僕もそれを目指します。チームと同じ目標を見ていないと意味がない、というのが僕の考え方です。
「今のスタイルは変えなくて大丈夫」
──Bリーグでプレーすることで、日本代表に招集しやすい存在になったと思います。今年は東京オリンピックもあります。代表やオリンピックへの思いはどんなものですか?
日本代表に入りたいし、オリンピックには参加したいです。でも、Bリーグに来たから代表に呼ばれやすいと考えたことはなかったですね。これまでも代表に呼ばれたことはあるし、去年のワールドカップに出るチャンスもあったと思います。それは僕がアメリカでプレーしていたから呼ばれなかったのではなく、そのレベルに自分がまだ足りていなかったからですよね。
オリンピックには出たいですが、そのためにこの半年間で何かをする、ということはないですね。もちろんオリンピックに出るほどの選手に成長できるのが一番ですが、自分の人生の決断がオリンピックに左右されるわけではありません。
やっぱり、自分のレベルを上げて行くのが一番です。Bリーグに来たからには日本で一番のポイントガードになりたいし、ポジションを問わず一番の選手になりたい。その次はアジアで一番。今のスタイルは変えなくて大丈夫です。パスファーストのポイントガードはNBAにもいますし、ヨーロッパにもいます。パスファーストは変えず、自分の穴をどんどん埋めていきます。得点力はもっと伸ばすけどパスファーストは変えない。決めないといけない時に決める、ターンオーバーは減らす、ディフェンスはもっと激しくする。スタイルはこのままで、全体的に次のレベルへと上がっていくことです。そうしないと日本のNo.1にはなれないし、アジアのNo.1にもなれません。
──バスケットを離れたテーブス海はどんな人ですか?
アウトゴーイングです。しゃべって笑って、結構ノリも良いと思います。
──久しぶりの日本での生活で、もう学生ではないし自由もあります。日本の何を楽しみたいですか?
とりあえず日本食が大好きなので、おいしいご飯を食べたいです。アメリカの食事は飽きました(笑)。
──ブレックスのチームメイトと練習場まで競争したりしますか?(笑)
それは車の性能で負けるんじゃないですかね(笑)。