文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

「簡単に言うとプレータイム、そして役割の問題です」

2010年から7シーズンをトヨタ自動車、そしてアルバルク東京で過ごした伊藤大司が移籍したことは驚きだった。レバンガ北海道へのレンタル移籍が発表されたのは開幕の3日前。安藤誓哉と小島元基、2人の若いポイントガードが加わったA東京を出たのはプレータイムを求めてのことだと想像はつく。それでも伊藤にとっては初の移籍で、その決断は相当に重かったに違いない。

10月25日の千葉ジェッツ戦を終えた伊藤に、今回の移籍と新天地レバンガ北海道について直撃した。「移籍の決め手は?」というストレートな質問に、「簡単に言うとプレータイム、そして役割の問題です」と、伊藤はストレートな答えを返してくれた。「アルバルクはすごく素敵なチームだし、強くて優勝も狙える。でも、個人で見た時にプレータイムのこと、その先のことを考えたら、移籍も選択肢の一つでいいのかなと」

「僕はずっとアルバルクでプレーさせてもらって、キャプテンもやらせてもらっていました。外国籍選手とのコミュニケーションやチームをまとめる役割はアルバルクに残っても発揮できたと思います。でも、それよりもチームに求められてコートに立ち、その役割を果たすことを考えました。選手たるもの、求められて発揮することに僕自身こだわりがあった。それが決め手です」

新天地での役割を「単純に楽しそうだと思いました」

新天地となるレバンガ北海道で自身が果たす役割を伊藤はこう語る。「北海道は今の東地区で1チームだけチャンピオンシップに出ていないチームで、若いメンバーもいます。そこで僕がリーダーシップを発揮して、アルバルクでの優勝経験や常に勝ち越していたメンタリティをどれだけシェアできるか。若手を引っ張り、コートで力を発揮できるか。そこにものすごくやり甲斐を感じたというか、単純に楽しそうだと思いました」

北海道には多嶋朝飛という絶対的なポイントガードがいる。さらには司令塔はチーム戦術とチームメートの個性を知る必要があり、慣れるまでには時間がかかる。開幕直前の移籍はリスクにも思えたが、伊藤はすぐさまチームに欠かせない戦力になった。開幕戦はアウェーの富山グラウジーズ戦。加入したばかりの伊藤は遠征に参加していなかったが、初戦でケガ人が出たことで急遽チームに合流。こうして出場した富山との第2戦で、第4クォーターに18点差をひっくり返す逆転劇を演出した。「結果で認めさせた」と言うべきだろうか。伊藤は新天地にシーズン初勝利をもたらす最高のデビューを飾った。

それから約1カ月、「僕自身は馴染ませてもらっていると感じています」と伊藤は言う。「一番タフな8月の練習に参加していない僕を、シーズンが始まるタイミングで迎え入れるチームは大変だったと思いますが、快く迎え入れてもらえました。そういう意味で『馴染ませてもらった』と思います」

「最後まであきらめない気持ち、戦い抜く姿勢がある」

最初の試合のインパクトが大きかったからか、伊藤は予想以上にスムーズにチームに溶け込んだように見える。最初は多嶋とのタイムシェアでの起用だったが、ここ数試合は多嶋と伊藤のツーガードで戦う機会も多い。ただ、ケミストリーは一朝一夕でできるものではない。「まだまだ慣れが必要です。プレーもまだ全部覚えているわけではないので」と伊藤は説明する。

「自分のポジションの動きは分かっていますが、そのプレーで他のポジションの選手がどう動くのかもポイントガードはすべて頭に入れておかないといけないのに、まだそこまで行っていません。その部分ではチームに迷惑をかけています。でも多嶋とツーガードをやる時には彼が気を遣って2番ポジションをやってくれるとか、僕がこのプレーしか知らないのならそれをやろうとか、どういう努力のおかげで僕はやりやすくしてもらっています」

これから伊藤はチームを理解していく。チームもまた伊藤のプレーを理解する。「まだフィットしているとは思わないですが、順調には行っています。これからフィットしていく分はチームの伸びしろになります」

開幕から6勝3敗とスタートダッシュに成功。「今シーズンの北海道は一味違う」との印象を与えるに十分な試合を見せており、伊藤も新しいチームに十分な手応えを感じている。「外国籍選手が2人入って、若い選手がいて、僕も加わりました。シーズンが始まって良い流れで入れています。富山戦、新潟戦が第4クォーターでの逆転勝ち。強豪の川崎相手にも1勝1敗で良い試合ができました。このチームには最後まであきらめない気持ち、戦い抜く姿勢があるので、これからが楽しみです」

激戦の東地区に属してはいるが、相手どうこうではなく自分たちの実力に自信を持って試合に臨めているのが今の北海道だ。『レバンガの伊藤』は言う。「今シーズンの目標はプレーオフ以上。『やれるんだ』と自分たちは思っています」

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