「絶対に入ると思って打ったシュートでした」
「勝ち切るだけの力がなかった。そういうことだったと思います」
岐阜女子を率いる安江満夫コーチは、潔く負けを認めた。強力な留学生プレーヤーのオコンクウォ・スーザン・アマカを軸に、各ポジションのタレントの力が噛み合う桜花学園のバスケットに押されながらも、第2クォーター半ばと第4クォーター最後に強烈な追い上げを見せて最後まで相手を苦しめたが、逆転には至らなかった。
特にラスト3分40分、52-64で敗色濃厚だった終盤にオールコートプレスから怒涛の反撃を見せ、残り25秒で67-69と2点差まで迫っている。「あれも練習の中ではやっていました」と安江コーチは言う。「でも最後に林(真帆)がポンと打って外してしまったのがもったいなかった。まだ時間はありましたが、あそこで状況を見据えられなかった。ちゃんと形を作って、しっかり崩して3点を取りたかった」
それでも40分間走り続けて24得点を挙げ、キャプテンとしてチームをまとめた林の働きを否定するつもりはない。「夏以降、林と藤田(和)がしっかりしてくれてウチは良いチームになりました。どの選手も自分たちの目標を見据えて、ひたむきに毎日努力をするのを私は見てきました。その点では手前味噌になりますが、ウチの選手のことを本当に誇りに思っています。自信を持って次のステージに送り出せます」
しかし、当の本人である林は自分を責めた。「インターハイで負けてから練習してきたことは出せたと思います。でも、最後のシュートの場面とか、自分に甘さがありました。最後のシュートを決めていれば同点にできたのに、外したことで相手の流れにしてしまいました」
その場面を思い出し、言葉を絞り出しながら涙がこぼれる。「自分では絶対に入ると思って打ったシュートでした……」
「最後のシュートが入らなければ意味がない」
「インターハイでもこの試合でも桜花学園に粘り強く戦ったんですけど、勝たなければ意味がありません。相手ディフェンスが自分にベッタリついてきて、簡単にはプレーできなかったですが、そこで消極的になってしまいました。ボールをもらえない時間帯にも自分からもっと点を取りに行けば離されなかったと思います」
そして再び、話は決まらなかった最後のシュートに戻る。「最後のシュートが入らなければ意味がありません」
林の高校バスケは悔し涙で幕を閉じた。3度のウインターカップ出場を、彼女はこう振り返る。「1年生はウインターカップも全国の舞台も初めてで、自分のことしか考えられませんでした。試合で使ってもらったんですが、上級生のために勝ちたいとか、支えてくれた人たちのために良いプレーをしたいとか、そういうことを思ったのは大会が終わった後でした」
「2年生のウインターカップは優勝できたんですけど、決勝でスタートで出してもらったのにすぐファウルをしてしまい、私は何もできていません。3年生になって、個人としてリベンジする時だと思いました。でも、インターハイでもウインターカップでも先生や周りの人を勝たせてあげられなくてすごく悔しい。勝たせてあげたかった」
「皆さんに応援してもらえるチームを作りたい」
試合終了から約1時間後、安江コーチは穏やかな表情でスタッフや関係者をねぎらっていた。心の奥底では悔しさを抱えているに違いないが、すでに意識は切り替えられていた。
「ファイナルで勝つこともあれば負けることもあります。そこまで行けないこともあります。それをもう何年もやっていますから。なかなかのんびりできる時間はないので、一息ついたらまた来年この場所に戻って来るためにチームをどう持っていこうか考えます」
毎年入れ替わる選手をコツコツと育て、一つにまとめてチームを作る。この作業をずっとやり続けているのが強豪校のコーチだ。どのコーチもタイプは異なれど、負けず嫌いであることは同じ。全国優勝をあと一歩で逃した直後でも、また次のチームをどう作るかを考えている。
「今朝、ホテルでの朝食の時に、ある女性から声を掛けられました」と安江コーチは言う。「京都から来られて、もう何年も岐阜女子を応援してくれているそうです。こうやってウチの子供たちを応援してくれている人が全国にいるのは、指導者としては本当にうれしいことです。私は皆さんに応援してもらえるチームを作り、バスケットがこんなに面白いんだと伝えていきたいです」
若い林には、恩師のような切り替えは難しいかもしれない。しかし、選手は時期が来れば自動的に次のステージへと移る。「高校最後になれなかった日本一に、次のステージでなれるように。自分の力で日本一になれるように頑張りたい」と林は言う。中学では県大会にも出ていなかった林が、岐阜女子のキャプテンとしてファイナルのコートで活躍した。岐阜女子での3年間で、彼女は日本一を本気で目指せる位置まで成長した。次のステージでの活躍を楽しみにしたい。