写真=Getty Images

「僕は子供の頃、君のポスターを壁に貼っていたよ」

ネッツのジェレミー・リンは両親が台湾出身の台湾系アメリカ人。2010-11シーズンにNBAデビューを果たし、NBA2年目のニックスでは、初先発から5試合で合計136得点を挙げる活躍で、ニューヨークで時の人となり、尋常ではないという英単語『Insanity』から『Linsanity』という造語が生まれるほどの社会現象を起こした。ホーネッツとネッツに所属するここ2シーズンはケガに苦しめられているが、今は厳しいチーム状況にあるネッツの再建に尽力している。

そのリンはしばしば髪型を変えることで知られている。今シーズンはドレッドヘアで開幕に臨むつもりだが、これに噛み付く人物がいた。元オールスター選手で、ネッツでもプレーしたことのあるケニオン・マーティンだ。もともとSNSで乱暴な発言をすることの多いマーティンは、SNSにリンの写真とともに批判のコメントを掲載した。

「ネッツがこの愚行を許していることに失望している。自分のラストネームが『リン』だと、彼にわざわざ教えてやらなけれないけないのだろうか。あんなふざけた髪型、俺のチームでは絶対にダメだった。『お前は黒人になりたいのか』とあいつに伝えてやってくれ。気持ちは分かるが、お前の名前はリンだ」

アジア系のリンが黒人文化であるドレッドヘアをしているのが気に入らないのだろうが、これは明らかなアジア人蔑視で、許されるものではない。リンのファンを中心に批判が沸き上がる中、リンの反論は次のようなものだった。

「大丈夫、君が僕の髪型を好きになる必要はないし、自分の意見を正直に伝えてくれたことに感謝している。僕はドレッドヘアをしていて、君は漢字のタトゥーを入れていて、僕はそれをリスペクトの証だと思っている。我々マイノリティはお互いの文化を理解して、メインストリームにより影響を与えていくべきだ」

さらには「僕は子供の頃、君のポスターを壁に貼っていたよ」ともコメントしている。

子供の頃にあこがれたスター選手から理不尽な批判をぶつけられたら、どのように感じるだろうか。しかも、NBAでは特にタブーであるはずの人種差別発言なのだから、『愚行に失望した』のはリンのほうだ。それでもリンは批判に批判で返すのではなく手を差し伸べ、なおかつマーティンのタトゥーを『イジる』ことで、ささやかながらウィットに富んだ仕返しをしている。

残念ながら、人種差別的な考えはいまだに存在する。それは今回のケースが示すように、本来マイノリティであるはずのブラックアメリカンも例外ではない。リンは様々なものを背負い、他のプレーヤーとは別の『見えない敵』とも戦いながら、NBAで奮闘している。

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