昨年大会でファイナル進出を果たした中部第一。インターハイは8年連続13回出場、ウインターカップは今回で5年連続8回の出場となるが、全国制覇はまだ成し遂げていない。それでも、もともとは県大会レベルのチームは、常田健監督とともに全国で上位を狙えるまでに一歩ずつ成長してきた。Bリーグで脚光を浴びる宇都直輝や張本天傑を育てた指揮官は、ウインターカップ優勝を目指すとともに、「大学に行って鳴かず飛ばすのプレーヤーになっていいのか」と問いかけながら選手を育てている。
「高みを目指さない子に、その必要はありません」
──前編では指導のポリシーについてお話をうかがいましたが、ここからはチームについての話を聞かせてください。今、部員はどれぐらいいて、どんな環境で練習をしていますか?
部員数は47名です。体育館は2面を使えることが多いです。ただ、これは私自身のジレンマなのですが、どんなに練習しても試合に出なかったら絶対に上手くならない。どれだけ環境を整えても公式戦に出る人数は限られています。どれだけ練習をしても使える機会は限られているわけですから、誘われて中部第一に来たのに試合で使われない、という負の連鎖は避けたいです。
だからこそ、どの選手を試合で使うかはチーム練習以外のところをフォーカスしています。今はやりたいと思った時に練習できる環境です。今日はオフだと言っても練習しに来る選手はいます。朝練の時間があって、その1時間前に来る選手、ギリギリで来る選手、遅刻して来る選手には差があるわけで、そこを指導者が判断してあげれば選手の成長に繋がります。
うれしいことに、中部第一の選手は大学に行っても努力し続けます。それは私がやれと言ったからじゃなくて、そういう環境さえ用意しておけば利用する選手がいるからです。利用しない子にやれとは言いません。高みを目指さない子にその必要はありませんから。でも、高みを目指す選手に対しては、私は高いところにチャレンジするよう求めます。
Bリーグでも同じ問題があると聞きます。外国籍選手のレベルが上がり、若い日本人ビッグマンは練習をどれだけやっていても使えない。使わないから伸びない。これは育成としては問題ですよね。時間をかけて育てなければいけない選手がいて、育成に走れば勝てないのですが、育成すれば将来の日本の宝になるかもしれない。
小さい選手がダメというわけではありません。ただ、小さい選手ならば河村勇輝君のようなスーパースペシャリストにならなければいけない。サイズがなくても特別な選手が出てくることは、日本のバスケの発展に繋がります。でも、そのレベルに達しない選手だと、ダメではないけど日本バスケの強化かと言えば多分違います。だから私は宇都が190cmあってもガードとして使い続けたし、天傑にもアウトサイドのプレーをやらせました。
──例えば宇都選手の場合、もう少しインサイド寄りに置いた方がチームの勝ちに直結したかもしれませんね。
そう思います。そういう意味で、彼らのような選手に思い切った起用法ができるのは、留学生のいるチームに多くなります。日本人プレーヤーをナチュラルポジションからスタートさせて次第に上げていくことは、絶対に必要です。日本代表もセンターは帰化選手になると考えると、日本のビッグマンをインサイドだけで育てる必要性は限りなく少ない。だったら大きい選手でも外にトライさせるべきです。
2メートルある選手に3ポイントシュートだけ打たせていたらチームは勝てません。でもその選手にインサイドのプレーだけをやらせていたら、上のカテゴリーでつまずきます。チームとしても上を目指し、選手も上を目指す。都合の良い理想論かもしれませんが、私は並行してやっていきたい。そこにチャレンジできるのは誰なのかを見極めることが大事だと思っています。
大きい選手は時間がかかります。だけど、そういう選手もこれから自分がどういう方向に進むのかを理解して、勝ち負けの緊張感のあるところに立たないと、大きくは変わりません。指導者として、そこから目を背けないようにしなければいけないとおもいます。
「楽に勝ち上がってもトーナメントは勝てない」
──中部第一のチーム作りで大事にしている部分はどこですか?
どんな選手が集まっても、堅守から速い展開に持って行く意識はあります。大きくて走力がない選手がスタメンにいたとしても、そこは時間をかけてでも育てたいです。去年もサイズのあるチームでしたが、堅いディフェンスから走るバスケットをやっていたし、今年も同じです。
参考にするチームはたくさんあります。私が一番影響を受けているのは明成の佐藤久夫先生で、バスケットに対する取り組み方をいろいろ教わっていますが、久夫先生は最後は必ず自分のオリジナルを作り出しなさい、と言います。福岡第一も走るバスケットで参考になりますが、真似をしてもそこには勝てません。福岡第一の、明成の良いとこ取りをしながら、自分のチームのオリジナリティを作り上げたいと考えています。
──堅守速攻と言っても実際は千差万別です。その中で大事にしている部分はどこですか?
ウチはライン取りを大事にしています。ガードは、ウイングは、センターはどのラインを走るかをしっかりすることが基本的なアーリーオフェンスに繋がります。単純なレイアップに行けなかった時に、次はどのラインを走ってどのポジションに入るのか。ここが明確になれば次のオフェンスがスムーズになるので、そこは強調しています。
──間もなくウインターカップが開幕します。組み合わせも決まりましたが、注目している対戦はありますか?
1回戦から大事に入ることが何より重要です。今年のチームには弱さもあるので、特にそういう部分を気にしないといけない。東海大諏訪と明成の勝者が来るであろう準々決勝まではまず勝ち上がりたいですね。そこが一つの大きなヤマになると思います。
──予想されるのは、2回戦で広島皆実、次が明成と東海大諏訪の勝者、さらには北陸、開志国際。とんでもなく厳しい組み合わせになったのではありませんか?
楽に勝ち上がってもトーナメントは勝てないと思っています。トーナメントを勝ち上がっていく中で勢いがつく組み合わせの方が良いです。そういう意味でも3回戦がヤマですかね。
「選手が判断して守って攻めるバスケを見せたい」
──去年はファイナルに駒を進めました。自信を持ってウインターカップに臨むと思うのですが、話を聞いていると強さの中にも弱さがあるような感じが気になりました。
3年生に甘えん坊が多いんですよ。能力が低いわけじゃないんですけど、チームを引っ張っていくような気持ちの強さがあまり見られない。それが問われるのは本当にチームとして苦しい時で、そこでリーダーシップを取る選手が出てこなくて競り合いに負けてしまう。インターハイもそうだったし、そんな負け方が続いていました。
だから、このタイミングではとにかくリーダーシップを取ることをテーマにしています。プレーを成功させるために必要な声を出すこと。それができている時は強いのですが、できていない時は弱い。そこがはっきりしているチームです。
でも、それじゃダメですよね。福岡第一を見させていただいていると、完璧な試合ができた時は100%勝つとして、そうじゃない試合、例えば思ったことの半分ぐらいしかできていない試合でも多分勝っていると思うんです。それが本当に強いチームなんだと思います。
ベストゲームに持っていく力も必要ですが、そうでなくても負けない力。それはリーダーシップを取る選手がコート上で今何をすべきか、ここはやらなきゃいけないぞ、という感覚をしっかり持っていることだと思います。強豪校を見ていると、そういう選手が必ずいます。だから負ける展開のゲームになっても負けないんじゃないかって。裏を返してウチはそういうチームなのかと考えた時、チームの中心選手が自分のやりたいプレーを伝えられなかったり、苦しい時に引っ張る姿勢を出せなかった、というのがありました。そこを変えられるかが非常に重要だと思います。
──最後になりますが、ウインターカップで中部第一のどんな部分を見てほしいですか?
去年はファイナルの舞台に立って、あの環境の中でバスケットをするすごさを肌で感じました。今年もあの舞台で中部第一高校の1年間練習してきたバスケットを見せたい、それに尽きます。そこまで何とか勝ち上がっていきたいです。今年もオールラウンドに動ける選手が多いので、型にはまったバスケットではなく、選手が判断して守って攻めていく、スピーディーなバスケットを見せたいと思います。そのための最後の調整を頑張っていますので、期待してください。
──ちなみに編集部では「常田先生が怖い」と評判ですが、実際はそんなことありませんね。
勘違いです。本当に極悪だったら47人も部員はいませんよ。外見で損しています(笑)。