文=丸山素行

「今で満足しちゃうと絶対ダメ」という向上心

U-16男子日本代表は今秋のアジア選手権が延期され、目指す大会が決まらない状況であるが、繰り返し合宿を行うことで強化を進めている。先日行われた第6次強化合宿で、14名の候補選手のうち唯一、中学生で参加していたのが坂本中(神奈川県横須賀市)の田中力だ。

身長は現在186cm。まだ伸び続けているとはいえ、高校生に混じってプレーする姿は特別大きく見えるわけではない。それでもジャンプ力、スピード、フィジカルといった身体能力は高校年代のトップ選手と比べても遜色ない。それどころか、田中が上回るシーンもしばしばあった。

それでも中学2年生で初めて代表合宿に参加した時は、レベルの高さに戸惑ったと言う。「みんなのレベルが高くて、自分がここまでできると思わなかったし、練習してても全然うまくいかなかったし、ダメかと思ったんです。でもトーステン(ロイブル)コーチが残してくれて、どんどん良くなっていきました」

コートで見せるダイナミックなプレーに似合わぬ弱気な言葉に少々面食らう。「もともと自信のない人なんです。自分のプレーが好きだとか、自分はうまいんだとか、ここが強いとか、思ったことがないですね。自分で自分を褒めることもないし、自信はないです」

だが、これらの発言は単にマイナス思考から出たものではなく、現状に満足しない向上心から出てくるものだ。「今で満足しちゃうと絶対ダメだと思っています。全然まだまだなので。もっとうまくならなきゃ、って思いが強いです」

ジュニアオールスターMVP受賞も「自分はまだまだ」

中学生年代でトップクラスの選手であることは疑う余地はない。今年3月に行われた都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会(ジュニアオールスター)では、神奈川県代表の一員として出場し、4年ぶり5回目の優勝に貢献した。特筆すべきはその得点力で、準決勝ではチームの68得点のうち43点を、決勝では59得点のうち34点を一人で挙げ、最優秀選手賞を受賞している。

そんな田中だが、小学校、中学では全国大会に出場していない。「ミニバスから全部ワンマンチームで、あとちょっとで全国というところまでは行くんですけど、やっぱり一人では無理でした。オールスターでは周りにフォローしてもらって楽でした。周りがある程度できてないとバスケは難しいなと感じたし、同時に自分はまだまだだと思いました」

個人で見た場合、その能力が突出しているだけに、同年代でライバルと呼べる選手はいない。それでも向上心を保ち個人練習を欠かさない理由を田中はこう話す。「応援してくれてる人たち、お母さんとか家族に感謝してるので、その人たちへの恩返しです」

また負けず嫌いであることも、田中の向上意欲を後押ししている。「中学生だからここでこういうミスをしても仕方ない、みたいに言われるのが一番嫌です。コートに立ったら年齢なんて関係ない。先輩とやって負けたら、それは年齢のせいじゃなく、ただ自分がダメだってことです」

「NBAに行きたい」という目標に向けて切磋琢磨

将来の目標を聞くと「NBAです」と即座に明確な答えが返ってきた。「中2のオールスターだったり、ナイキ(オールアジア)キャンプとかNBA(グローバル)アカデミーキャンプで高く評価してもらったので、それで目指すようになりました」

NBAアカデミーキャンプは世界で約50人しか参加することができない狭き門。田中は日本人で唯一参加を許された。そこで『世界』を体験したことが彼にとっては良い刺激になり、日々の練習に打ち込むモチベーションにもなっている。「NBAに行きたいという目標があって、自分はまだまだなんで常に練習しなきゃって思ってます。今は外のシュート力を上げること。あとはパスするときはパス、シュートを打つべきところでは打ちなさいと、判断力についてトーステンに言われるので、そういうところを意識して練習しています」

現在中学3年生、気になるのはその進路だが、日本で進学するか海外の学校へ行くか、慎重に考えている最中だ。

2004年に田臥勇太が日本人初となるNBAの舞台に立ってから早13年、NBA入りを期待される選手は少なからずいたが、その実現には至っていない。NBA入りがどれだけ難しいことかは分かっている、それでも田中はそのいばらの道を選び、目標に向かって歩み続ける。