藤井貴康

広島皆実はインターハイ6年連続21回、ウインターカップは今大会で6年連続15回目の出場と、全国大会の常連となっているが、県立の公立校。特待生はおらず、もちろん留学生プレーヤーもいないが、広島県のトップであるだけでなく全国大会でも上位に食い込む力を有している。今大会は特に、1年生から主力を務め、U18日本代表でもある三谷桂司朗が最上級生として臨むウインターカップで、躍進が期待される。『公立の強豪』を率いる藤井貴康監督に話を聞いた。

「勉強とバスケを両立させたい地元の子が集まる」

──まずは藤井先生の自己紹介からお願いします。

広島市立井口中学校でバスケを始め、広島県立広島商業に進みました。1年生の時は先輩がインターハイでベスト16まで進み、2年はインターハイ初戦敗退。3年生の北海道インターハイではベスト4になり、教員を志望していましたので千葉の順天堂大に進みました。世代で言うと、ゴールデンエイジと呼ばれる佐古賢一さんや折茂武彦さんの1つ上になります。

大学卒業とともに広島に戻って、教員生活のスタートは特別支援学校、その後は広島県教育委員会、県立三原高等学校、そして広島皆実高等学校に赴任して現在に至ります。この皆実の男女バスケット部を強豪に育ててくださり、現在の礎を築いてくださったのが、私の広島商業時代の恩師である杉原繁先生です。

──全国大会に出るチームの大半が私立高校ですから、公立高校は大変かと思います。

この夏のインターハイではベスト8のうち公立高校は能代工業と広島皆実だけで、あとは私立でした。広島皆実は選手を集めるにも広島県の入試を受けてもらわないといけない。純粋に勉強して、受験しないといけないんです。それでも、ウチにはありがたいことに、勉強とバスケットを両立させたい地元の子が集まってくれます。

──その状況で広島皆実が全国大会の常連になり、結果も出せている要因は何でしょうか。

そういう意味では広島の小中学校の全体的なレベルが上がっています。U12の指導者と選手、U15の指導者と選手の皆さんの努力があって、高校でさらにしっかり鍛えるのが今の広島のスタンダードになっています。その繋がりは本当にありがたいですね。

藤井貴康

「選手たちの心に火をつけるようなアプローチを」

──高校生年代の選手たちを指導し、チームを作る上で大事にしていることは何ですか。

基本的には人づくり、人材育成を基盤としたチーム作りを念頭に置いています。まずは皆実高校の高校生だということで、特別扱いすることなく勉強と部活の両立をするところからです。自分自身を振り返ると、杉原先生との出会いが大きく、高校生であることをベースに毎日の練習をしっかりやることが一番です。365日のうち公式戦や遠征は一握りですから、やはり日頃の練習で緊張感を持ち、ゲームライクにやっていくのが大事です。

以前は私も若かったですから、徹底的にやらせていました。それでも、私も少しずつ成長しながら待つことも大事だと思うようになったんですね。最終的にはその局面その局面で選手が判断してプレーするわけですから、日々の練習の中で、あるいは練習試合や公式戦の中で、考えさせることが必要だと感じます。指導のスタイル自体は若い頃とそんなに変わらないと思います。今も求める時は求めます。そのタイミングだったり緩急だったり、そこは意識します。

男子の選手は特に、小手先ではなく王道を行ってほしいと思います。ほとんどの選手が大学に進学してもバスケットを続けて、選手を続けないとしてもバスケットにかかわりますから、高校で燃え尽き症候群にはならせたくありません。少し足りないぐらいにして、選手たちの心に火をつけるようなアプローチができれば理想だと思います。そうなれば練習にも役割にも自分の目標が持てますし、チームの目指すところも明確になります。

私自身、千葉インターハイでいきなりベスト16になりましたが、県では勝てても全国大会では勝てない時期が続きました。2012年の広島ウインターカップ、2016年の広島インターハイは大声援をいただきながら初戦敗退。そんな中でいろんなことを考えながら、いろんな指導者やチームに出会って学ばせていただいています。

──コート上では何を優先して選手に求めますか?

守ることですね。広島皆実の選手は決してすごい身長者や能力があるわけではありません。だから選手の成長を重視してスキルをつけていく。レベルが上がるほどディフェンスはハードになりますし、こじ開けられなくなっていくので、やはり全国で点の取り合いとなると難しいです。

バスケットではオフェンスとディフェンスが両輪ですから、まずは全国レベルのディフェンス力を持つこと。そこからその年の選手の特性を生かすことを考えます。ウチの選手は大きくても190cm前後ですから、全国に行けば留学生プレーヤーも含めて自分たちより大きいチームと必ず当たります。そこで勝つにはまずディフェンス、攻守のスピードが必要です。

広島皆実

「初戦がすべて、一戦必勝で積み上げたい」

──現在はU16日本代表のアシスタントコーチでもあります。これも良い経験になりますか?

月に1回、あるいは2カ月に1回というペースの合宿で佐古ヘッドコーチをサポートする役割ということで、力不足かもしれませんが良い経験をさせていただいています。私がU16を見ている間は、教え子のコーチがチームをしっかり鍛えてくれています。そこは申し訳ない気持ちもあるのですが、私自身が中国ブロックの男子の強化チーフでもありますから、全国9ブロックの先生方と連携を取りながら研鑽して、チームや広島県、中国ブロックに発信する役割も果たさなければいけない思いもあります。

U16は早生まれの選手もいますが、中3から高1になった世代ですので、人間的な成長も支えてあげる必要があります。当然、バスケットも指導しますが、将来の日本バスケを背負って立つ選手たちに対して、そのために何が大事なのかを私なりにアプローチしています。この年代は高校だと上に3年生がいて出場時間が短い選手もいます。そういう中で良い経験をさせてあげたいです。

──広島皆実に話を戻します。ウインターカップにはどのような思いで臨みますか?

昨年はインターハイもウインターカップも初戦敗退でした。今の3年生にとっては、1年生の時の先輩がインターハイとウインターカップでベスト8に入っていますから、その先輩たちを超えることを目標に掲げています。三谷桂司朗を中心に、代表活動や3×3の活動を通して彼もチームも成長しています。

今年のチームは春先まではケガもあって苦しみましたが、5月の中国大会で優勝し、6月の県総体を6連覇してインターハイに臨みました。インターハイでは3回戦で実践学園に何とか粘り勝ったのですが、準々決勝で留学生を擁する報徳学園に敗れています。高さを意識しすぎてフィニッシュが決まらず、高さとパワーに押し切られました。ウインターカップでは留学生への対策もしていますが、とにかく初戦がすべてですから、一戦必勝で一つずつ積み上げたいと思います。

今のフル代表の活躍は本当に高校生年代の選手のエネルギーになっていると感じます。この世代から育った選手がいずれBリーグや日本代表で活躍するわけですから、このカテゴリーを指導することに私自身も魅力を感じています。

地方の公立高校ではありますが、選手一人ひとりが努力を積み重ね、チームを輝かせています。指導者としての私は選手たちの努力に助けてもらっていると感じます。バスケットにも勉強にも一生懸命打ち込んでいる選手たちが、全国大会で一つでも上位に食い込むことを目指していますから、実際に結果を出して存在感を示したいというのが率直な気持ちです。ウインターカップには全国各地の素晴らしい指導者、素晴らしいチームが集まりますから、そういったチームと切磋琢磨して、挑戦させていただきます。