大河正明

1958年5月31日、京都府生まれ。2015年にサッカーのJリーグから新リーグ創設を目指すバスケ界へと舞台を移して組織再編を手掛け、川淵三郎初代チェアマンの後にチェアマンに就任。現在は「BREAK THE BORDER」をキーワードに、新たなプロリーグの盛り上げに尽力している。日本バスケットボール協会の副会長も兼任し、立ち遅れたバスケットボールの環境整備、強化に邁進する。高校生までバスケ部。

「世界に通用する選手やチームの輩出が僕らの一番の夢」

──外国籍選手の起用ルールが来シーズンから変更になり、新たに『アジア特別枠』が設けられます。導入に際してのメリット、リーグとしての目論見はどのようなものですか。

今はベンチに入れない外国籍選手の試合エントリーを認め、3人で80分をシェアできるようにします。もう一つは帰化選手がいないチームがアジア特別枠を使えるようになります。もともと外国籍選手の試合エントリーを2名としたのは、その2人に資源を集中して、レベルの高い外国籍選手を2人揃えてほしいという思いがあったのですが、ケガのリスクを考えると、特にB1ではどのチームも3人目の外国籍選手を取りました。そうなると、シーズンの大半でベンチに入れない選手が出てきます。これではモチベーションが保てないだろうと考えました。

アジア特別枠は、近隣の中国、韓国、チャイニーズ・タイペイに加えて、2023年のワールドカップの共催が決まっているフィリピンとインドネシアの5カ国を対象としてスタートします。目的はビジネスの展開と競技力の向上です。ビジネス面では、ここに出てくる国はある程度インバウンドが盛んなので、アジア市場のマーケティング、特にアジアの放映権の獲得を見込んでいます。

競技力の向上では、先日のワールドカップでも分かったように、4番5番のポジションは帰化選手であったり、八村塁選手やシェーファー・アヴィ幸樹選手のような存在が出てきています。海外にルーツがあるとか、海外で育った選手も含めてやっていくことができる。すると今度はガードの選手が日頃から日本人同士のマッチアップしかできないのを変えたい、となりました。

今回のルール導入で、日本人ビッグマンや帰化選手でインサイドをまかなうことのできるチームには、是非ポイントガードとかシューティングガードのポジションで優秀な外国籍選手を取ってもらいたい。その意味でも外国籍選手が3人ベンチ登録できるようにしました。Bリーグ初年度にはディアンテ・ギャレット選手が活躍しましたよね。ああいう優れた外国籍のガードが何人も来て、比江島慎選手や田中大貴選手、富樫勇樹選手や篠山竜青選手と競うようになれば、日本のバスケのレベルは必ず上がります。

──それでも、日本人ビッグマンがこれまでそうだったように、日本人選手の出場機会が限られたものになってしまうという懸念もあります。

もちろん、日本人選手のプレータイムの問題は議論されました。しかし、ここで日本人が優先的に試合に出るシステムは過保護であって、ここを勝ち抜く日本人選手に出てきてほしい。そうやってBリーグでレベルアップした選手と、海外のNBA、NCAAで活躍している日本人、帰化選手を組み合わせたチームが日本代表であるべきだと考えています。

国内リーグでそれぐらい勝ち抜けるタフさがないと、世界では通用しません。東京オリンピックで終わりではなく、その次の2023年、2024年を考えて、世界に通用する選手やチームの輩出が僕らの一番の夢ですから、「日常を世界基準に」という言葉そのままに、スタンダードを上げていきたい。それでこのルール変更を決めました。

大河正明

「オーストラリアは是非やりたいと言っていた」

──一つ懸念されるのが、やっぱり外国籍選手はビッグマンに偏って、ガードの選手を取るチームは出てこないのではないか、という点です。3番4番5番を外国籍選手が占めて、それぞれ38分出るようなチームがスタンダードになると、それは目論見とは異なりますよね。

今でも外国籍選手をタイムシェアして使うチームもあるし、京都や新潟のように強力な外国籍選手を使い続けるチームもあります。ルールの中で一つでも多くの勝利を求めるのが彼らの仕事ですから、チームの戦術や方針はあるべきです。そこの方針は分かれますが、リーグが強制することではありません。ただ、少なくとも3番では競争が出てくるし、そこを勝ち抜いていく日本人も出てきてくれると思っています。

川崎を例に挙げて考えると、ニック・ファジーカス選手は帰化選手ですから、そこで外国籍選手をもう1人ベンチ入りできるようになれば、外国籍のガードがいても良いと考えるかもしれません。あるいは竹内公輔選手がいる宇都宮、竹内譲次選手がいるA東京は、外国籍選手を3人ともビッグマンにするのがベストなのか。全体的なチーム強化を考えた場合、1番2番3番に外国籍選手を入れるべきだと考えるチームが出てくるんじゃないかと思っています。

──もう一つの疑問は、アジア特別枠の国の優秀な選手がBリーグに来てくれるのか、です。外国籍選手にしても、以前はアジアだと中国CBAのチームが提示する年俸が一番高くて、次が韓国、その次が日本。日本のチームが良い外国籍選手を取ろうとしても、彼らは中国と韓国のオファーを待ってから比べていたと聞きます。今では日本のチームも予算が増えたと思いますが。

外国籍選手の年俸で言えば、中国はまだ高いですね。韓国は今シーズンがオン・ザ・コート1なので、予算を1人に集中できる強みがあります。年俸全体で見れば、Bリーグも遜色ないレベルに来ていると思います。ただ外国籍選手で言えば、まずはアメリカでプレーしたい、次がヨーロッパ、それでも無理なら東アジアで、という考えを変えたい。彼らがBリーグを踏み台にして、アメリカやヨーロッパでの良い契約を勝ち取れるようなリーグにしたいんです。ハッサン・マーティン選手は大卒で琉球に来て、NBAサマーリーグで活躍してドイツリーグに行きました。ニック・パーキンズ選手もNBAには行けなかったけど、そこで新潟を選んでいます。そういう選手にとって魅力を感じられるリーグになることも大事です。

──アジア特別枠の話が出た時に、個人的に最も気にしたのは「オーストラリアも?」でした。

オーストラリアとニュージーランドも議論はされました。オーストラリアのNBLとは、昨年12月にアジア特別枠についての話をしています。年俸も日本と同じぐらいだし、彼らは是非やりたいと言っていました。今回は見送りましたが、検討の枠には乗っていたんです。NBLにはニュージーランドのチームも参加していて、それがニュージーランド代表の強さの秘密だそうです。その強さはワールドカップで思い知らされましたから、やはりリーグの国際連携は大事だと思います。

──昨シーズンのBリーグファイナルの際に、韓国KBLのコミッショナーを招いて、両リーグの提携が発表されました。アジア特別枠の話はこの時から出ていましたが、それからKBLとはどんなコミュニケーションを取っていますか?

今は国際関係を強化していて、JBAとBリーグをまたぐ形で葦原一正が国際担当として各国を飛び歩いています。韓国で言うと、開幕前の夏の時期には結構来日して、Bリーグのチームと練習試合をしているんです。ああいう取り組みを強化できないかと考えています。トップ選手を相互に送ることができれば、という話もあったのですが、なかなか現実的ではないので、ユースの交流とかそういったところから始めていきたい。ただ、アジア特別枠ができれば韓国のトップ選手がBリーグでプレーすることは当然考えられます。

目論見としては、日本代表がこれからオリンピックやワールドカップに出ようと思ったら、結局は中国、韓国、フィリピンに勝たないといけない。今はまだ、アジアの強豪との試合となれば、戦う前から飲まれている部分があると思います。それは経験のなさから来るもので、日頃から対戦していれば力量が分かります。強みも弱みも分かれば苦手意識がなくなります。そういう意味で言うと、日本代表の強化にも繋がるんじゃないかと。

大河正明

「日本代表強化の重要な一環をBリーグが担うつもり」

──八村塁選手、渡邊雄太選手といった『海外組』は、これからアジア予選にはほとんど招集できない可能性がありますから、『国内組』の日本代表でアジアを勝ち抜くことが必要ですね。

その通りです。国際試合の登録枠は12で、帰化選手を1人使うと考えて残るは11人です。八村選手と渡邊選手も入ると想定すると残るは9人ですよ。今、B1でプレーしている日本人選手が170名から180名です。ここからどれだけのレベルの選手を選べるか。そこはBリーグに問われる部分です。

──日本人選手にとっては競争が厳しくなりますが、甘やかすことには意味がないという考えですね。むしろ、チーム内競争のレベルを上げて、練習からマッチアップさせたいと。

そう思います。我々は2026年を目指し『NBAに次ぐリーグとしての地位確保』を掲げています。日常のレベルを上げる、1番から5番まですべてのポジションで、交代要員も含めてレベルを上げていかなければいけない。4番5番は外国籍選手と切磋琢磨して、プレータイムを勝ち取る選手もいれば、それが難しいからポジションアップする選手もいます。宇都宮の橋本晃佑選手は3番ポジションで通用する選手になりましたよね。203cmある彼がこのままレベルアップしていけば、タイプは異なりますが日本代表で渡邊雄太選手と1セットで考えられる戦力になるかもしれない。張本天傑選手もそうだし、アメリカで頑張っている馬場選手も1番2番に行くのが理想です。そうなれば日本代表のサイズ感はだいぶ変わりますよ。

Bリーグでも190cmの中村太地選手のようなポイントガードが出てきています。新潟の今村佳太選手、滋賀の高橋耕陽選手、佐藤卓磨選手にしても、190cmを超えてシュートもドライブもできる若い選手が出てきた。彼らがもっと経験を積んで成長していけば、比江島慎選手や田中大貴選手が安泰ではなくなります。そういうリーグ、そういう日本代表にならなきゃいけないんです。

来年のオリンピックだけを考えれば、どこまで間に合うかは分かりませんが、その先を考えればサイズアップは絶対に必要です。もういい加減、国際大会から帰って来て「世界との距離を知りました」みたいな話は終わりにしなきゃいけない。

サッカーの日本代表も昔はそうでした。今、彼らの強さを支えているのは選手層です。日本代表を2.5チームぐらい作れる選手層があります。バスケもそうなれるように、日本代表強化の重要な一環をBリーグが担うつもりです。