文=鈴木栄一 写真=野口岳彦

「攻撃回数自体を増やして多くの点数を取っていく」

9月11日に行われた『Bリーグティップオフカンファレンス』では、B1全18チームからそれぞれ代表者が集い、シーズン開幕に向けて意気込みを語った。その中で最も印象的なコメントを発したのは、シーホース三河の比江島慎だった。

「今年は早い展開のバスケットボールをどんどん仕掛けていきたい」

NBLなど企業リーグ時代から何度も頂点に立ち、昨シーズンもチャンピオンシップのセミファイナルに進出。日本バスケ界屈指の常勝チームである三河だが、その基盤となっているのは桜木ジェイアールを起点とした安定のハーフコートオフェンスだ。比江島、金丸晃輔というスコアラーの持ち味を生かしつつも、桜木やアイザック・バッツなどビッグマンにゴール下でボールを預けるオードソックスなスタイルこそが、三河に数々の栄光をもたらす原動力となってきた。

それだけに、早い展開を仕掛けていくとなれば、これまでとは正反対のスタイルになる。

新スタイルについて比江島はこう説明する。「NBAでもウォリアーズのようなアップテンポな展開が主流になっていますし、そこを目指していると思います。自分で自陣からボールを運んで、どフリーならどんどん打っていっても全然怒られません。相手にシュートを決められた後も、素早くボールを持っていきノーマークの選手がいたらどんどん打っていく。攻撃回数自体を増やして多くの点数を取っていくことは、僕らに合っていると思うのでやっています」

「注目度が高い中で2連勝していけるように」

三河にとってシーズン終了の舞台となった栃木ブレックスの本拠地、ブレックスアリーナで新シーズンの開幕戦を迎えることになったが「悔しい負け方をした場所で開幕戦をできることを光栄に思います」とコメント。

そして雪辱を果たすべく、開幕2連勝への強い決意を見せる。「栃木はメンバーも監督も変わってまた違うバスケになると思いますが、去年の悔しい負けを僕らは誰一人忘れていない。しっかり去年のディフェンディングチャンピオン相手で注目度が高い中で2連勝していけるように準備をしていきます」

さらに警戒するポイントとして「すべての攻撃が田臥(勇太)さんから始まるので、そこにしっかりプレッシャーをかけることで少しでもオフェンスを狂わせていきたい。ディフェンスの要の遠藤(祐亮)さんに対しては、ファウルトラブルでベンチに行かせるように僕も積極的に攻めていきたい」と語る。

新スタイルはオフェンスに優れたタレントを生かす試み

ハーフコート主体の三河が、オールコートで外からどんどんシュートを打つオフェンスに移行すれば大きな驚きだが、一方で今オフの補強を見るとそれも妥当な流れだ。アルバルク東京から3ポイントシューターの松井啓十郎、レバンガ北海道からランニングプレーに優れた西川貴之、京都ハンナリーズから高速ドリブルが魅力の村上直。このように補強した選手は新たなスタイルへの相性抜群。また、「4番ポジションがジェイアールしかいないのもあるので、そこで西川だったりが4番になったりして、早い展開にしようと常々言っています」(比江島)と新シーズンのメンバー構成に合った戦い方とも言える。

もちろん桜木とバッツは健在で、慣れしたんだ重量感のあるハーフコートオフェンスはいつでも展開可能。「最後の4クォーターの勝負どころまでは、言い方は悪いですがガチャガチャやっていい。時には一人で持っていって、そのまま一気にシュートまで攻めきるくらいのイメージでやっていこうと思っています」と、両方の持ち味をうまくミックスさせたいと比江島は語る。

当然、変化には痛みも伴う。このアップテンポスタイルの完成に向けては困難も出てくるだろう。だが、少なくとも比江島を始め三河の選手たちは新たなチャレンジを歓迎している。「ワクワクしていますか?」との問いに、「それはめっちゃあります。みんなも面白いとか、楽しいとか思っています。三河にはオフェンスに優れたタレントが揃っているので、良い試みだと僕は思います」と力強く答えてくれた。

新シーズンの三河が果たしてどんなオフェンスを展開するのか、開幕に向けて大きな楽しみがまた一つ増えた。