「簡単に勝ち星を重ねていけるとは思っていない」
10月11日、秋田ノーザンハピネッツは敵地での横浜ビー・コルセアーズ戦に60-75で敗れた。秋田は大阪エヴェッサとの開幕戦こそ81-58で快勝したが、翌日の試合、そして今回の横浜戦と連敗で黒星先行。2試合とも後半にオフェンスが失速して突き放されるパターンでの敗戦となっている。
アーリーカップでの鼻骨骨折からフェイスマスクをしてプレーする期待の新戦力、古川孝敏はチームの現状をこう語る。
「そんなにうまくいくものではない。簡単に勝ち星を重ねていけるとは思っていないです。だから落ち込まないというわけではないです。プレシーズンでは勝ちましたけど、いろいろとできないこともあった。こうなってもおかしくない感覚はありました」
今シーズンの秋田は、前指揮官のジョゼップ・クラロス・カナルスがチームに導入した前から激しくプレッシャーをかける守備スタイルを前田顕蔵新ヘッドコーチの下でも踏襲。激しい守備から自分たちのリズムをつかむのが戦い方だ。しかし、その根幹となる守備においても、まだまだと古川は指摘する。
「守備も見ても、一番やられたくないやられ方をしています。相手のシュートがたまたま入ったのではなく、スカウティングで止めようと言ったところでやられている。点数は簡単に取れるわけではないので、今日のように後半になってオフェンスがうまく行かない時は、まずはディフェンスで我慢しないといけない。それがああいう形でやられるのは辛いです。僕を含めてみんながただ激しいだけでなく、賢くプレーする必要があります」
「今までのいろいろな経験を、このチームで伝えていきたい」
今オフ、古川の秋田への加入はリーグ全体においても大きな驚きを与えた。振り返れば2年前、栃木ブレックス(現・宇都宮)から琉球ゴールデンキングスに加入した時も栃木でリーグ優勝を果たし、ファイナルMVPを受賞した直後の移籍で衝撃だった。そして琉球も加入2年目の昨シーズンは、セミファイナルでアルバルク東京に1勝2敗で敗れ、ファイナルまであと一歩に迫っていたが、古川は自分が主力を担い上り調子にあるチームを離れて新天地を再び求めた。
この決断に「周りから何で?と言われたこともありました」と古川は語る。だが、そこには愚直にバスケットボール選手としての進化を追い求める譲れない信念がある。
「現状に満足したくない。新しく自分がステップアップするために何があるのかを求める中で、今と昔では見方が変わってきました。常に自分の技術をあげて代表でも活躍したいと思っています。でも年齢とともに、吸収できる量は変わって来る。今からいろいろなプレーを練習してどんどんできるかという歳ではないです」
年齢を重ねるとともに自分が置かれている状況も変わっていく。そこで秋田を選んだ理由の一つにチームを勝てる組織へと成長させることへの貢献が、自分の成長にもつながるという考えがある。
「その思いは少なからずあります。今までなんだかんだとJBL時代のアイシンで勝たせてもらい、栃木で勝ち、代表でも試合にも出させてもらって、琉球でも西地区優勝といろいろな経験をしてきました。リーグ優勝を2回して、天皇杯でも優勝して自分は恵まれています。そういった経験を、このチームで伝えていきたい」
「今は自分の経験を伝えて、みんなと一緒にチームを作っていきたい。そうすることで、僕の選手としての深みも増して、いろいろなところでうまくなれる。そういったところからも秋田を選びました。だから3年というところもあります」
この3年とは今回の秋田加入時に発表された契約年数のこと。これこそ、秋田も勝てるチームへと変貌させる、この挑戦にかける古川の思いの強さを何よりも証明している。
「ファンの方たちとは一緒に戦ってもらっている意識です」
古川にとって国内のチームを移籍するのは今回で3度目となるが、宇都宮、琉球、秋田と共通しているものもある。それはリーグ屈指のファンの熱狂的な応援だ。そこについては、「ファンの熱さは一つの要因です」と理由に入っていると認める。
「ああいう環境でできることは恵まれています。みんな言いますけど、やっぱりファンの方々があっての僕らであることは間違いない。ファンの方たちに応援してもらえるというよりは、一緒に戦ってもらっている意識です。声援の力は大きいですし、この秋田のホームの空間でやれることは幸せです」
今オフの秋田は、古川を含めて積極的な補強を行った。とはいえ開幕1勝2敗のスタートが示すように、すぐに結果がついてくるわけではない。古川も「辛いし、しんどいし、簡単に勝てるとは思わない」と言う。
しかし、その顔に悲壮感はない。「このチームでやることが自分のためになる。僕の求めるものが秋田にあります。今、シンプルに楽しいです」と言い切る。
始まったばかりの新たなチャレンジで古川が自身の納得する成長を遂げられた時、秋田はB1残留ではなく、B1で勝てるチームへと進化しているだろう。