林咲希

流れを一変させた3本の3ポイントシュート

女子日本代表はアジアカップ4連覇を手土産にインドから帰国した。

決勝の中国戦は71-68のスコアが示すように、簡単な試合ではなかった。序盤から追いかける展開が続き、第2クォーターにはオフェンスが全く機能せず、約6分半で1点しか奪えずに2桁のビハインドを背負った。

この停滞ムードを打開したのがシューターの林咲希だった。途中出場の林は放った3本の3ポイントシュートをすべて沈め、一気に反撃ムードを演出。林はその時をこのように振り返った。「予選は試合勘がなく本当にヤバいと思っていて、とにかくこのままじゃ帰れないと思い、トム(ホーバス)さんの期待に応えたい思いでやりました」

林の活躍もあり、日本は1点差まで詰め寄って前半を終えることができた。ホーバスヘッドコーチは「第2クォーターに追い上げた林の3ポイントシュートはすごく大きかった」と認めている。

また、林がもたらした恩恵は得点だけではない。それまでの日本は、「動いてないなって。トムさんがやってほしいことと一致してなかったとは思っていました」と林が言うように、ボールと人が連動するオフェンスができずにリズムを失っていた。そこで林は「止まっていたら何もできないので、意識してカッティングをしました。そのほうが攻めやすいと思ったし、スペースを空けて流れを作ろうと思いました」と、意識的なオフボールの動きを加えることでオフェンスを活性化させた。

林咲希

「右脳を使って『無』で打てれば、ほぼ入ります」

林は5月末に行われたベルギーとの親善試合で鮮烈な代表デビューを飾った。だが、ケガのためその後のチャイニーズ・タイペイ戦には招集されず、実戦から遠ざかっていた。結果的に大役を果たした林だが、前述のとおり、グループリーグでは試合勘が戻らず苦労したという。

「気持ちでは頑張ろうとしているんですけど、身体が言うことをきかなかったというか、気持ちと身体がマッチしていなかったんです。どうしようって思いながらやってたのでグループリーグは全然ダメでした」

林はそう反省するが、グループリーグ3試合はスタッツだけを見れば、3ポイントシュートの成功率は50%(8本中4本)と決して悪くない。だが、シューターとして打つべきところで打てず、ホーバスヘッドコーチにも「シュートを打ってほしい場面で出したのに、そこで打たなかったからお前の仕事ができてない」と叱責されたという。だが結果的に、このやり取りが決勝でのパフォーマンスに繋がった。

林は練習で平均70%から80%の確率で3ポイントシュートを決めているという。実戦ではその確率は下がるものだが、結果的にチームハイとなる50%(16本中8本)の3ポイントシュート成功率を残した。

「アース(宮澤夕貴)も言ってましたが、メンタル面がすごく大事です。自分は右脳を使って『無』で打つことを心がけていて、それができれば、ほぼ入ります。身体とメンタルが一致すればやれる自信が今大会でつきました」

試合勘が戻らずに苦しんだ林だが、シューターとしての自信を手にするアジアカップとなった。この自信をWリーグでさらに高め、強固なものにして、来年の東京オリンピックを目指す。