
Bリーグで女性コーチが指揮を執る先駆者への道を歩む
三遠ネオフェニックスは、10月3日と4日に行われた佐賀バルーナーズ戦で大野篤史ヘッドコーチと清水太志郎トップアシスタントコーチ、前田浩行アシスタントコーチが体調不良で欠場。この緊急事態に指揮を執ったのは綾部舞アシスタントコーチ兼通訳だった。
綾部は2014-15シーズンにライジング福岡の通訳としてキャリアをスタートさせ、Wリーグのトヨタ自動車アンテロープスを経て2018-19シーズンに千葉ジェッツに加入。その時にヘッドコーチを務めていたのが大野で、そこから現在に至るまでともに仕事をしている。千葉Jでは通訳兼アシスタントマネージャーという立場からステップアップを続け、2022-23シーズンに三遠へ移籍すると翌シーズンからコーチを兼任し、2024-25シーズンから現在の役職に就いている。
元々はプレーヤーとしてNCAAディビジョン1のハワイ大でプレーした経験もあり、生粋のバスケットボールホリックでもある綾部は千葉Jで通訳だった時から、外国籍選手がプレーの確認をした時に、コーチを介さずダイレクトに指示する姿も見受けられていた。これは大野ヘッドコーチも了承済みで、当時から戦術の理解度に長けていた綾部はコーチ陣から全幅の信頼を得ていたからこそ許されていた。
そして三遠でアシスタントコーチに就いてからは主にオフェンス部門を担当し、大野ヘッドコーチの片腕としてチームを支えている。綾部が北郷謙二郎ゼネラルマネージャーからヘッドコーチ代行として指揮を執ることを伝えられたのは試合の2日前だったと明かす。「『そうなったらどうしよう』と構えていたところで声をかけられました。でも、篤史さんはいつも『準備は努力』とおっしゃっていて、コーチングスタッフも含めて常に試合への準備はしていたので、選手に体現してもらうことにフォーカスしていました」と、全く物怖じをするそぶりはなかった。
それはコートサイドに立って指示する姿が裏付けていた。冷静に戦況を見つめ、良いプレーが出れば拍手をして選手を褒め、オフェンスからディフェンスの切り替えを早めるように指示を出す。アシスタントコーチ陣とも積極的にコミュニケーションを取ってチームを指揮する姿は、ヘッドコーチそのものだった。3日の試合を97-61と快勝に導くと、今日の試合は第3クォーターに追い上げられ、第4クォーターのオフィシャルタイムアウトまで7点差を追いかける苦しい展開になるが、見事にカムバックして93-89と接戦をモノにした。
「アウェーで2連勝する大変さはもちろん、(試合内容の違う)この2試合を経験できたこと、選手の今日のパフォーマンスの良し悪しを見極めて起用方法を決める大変さは、実際にヘッドコーチをしてみないとわからなく、自分にとって財産になりました。こうやって勝てたことは、もちろん私だけの力ではなく他のアシスタントコーチ陣や、選手の力があってこそです」と、チームに感謝を示しながらも、貴重な経験を得たと語る。
将来はヘッドコーチとして活躍したいという綾部は、代理とはいえ巡ってきたこのチャンスを見事にモノにした。この経験が個人の中長期的な目標達成のために大きな一歩になったことは間違いない。「今はアシスタントコーチですが、ヘッドコーチとしての目線と考え方を持って将来の準備をしていきたいです」
ヘッドコーチの主な仕事はチームをまとめ、勝利に導くことだ。綾部もそれを理解している。それでも今回の代え難い経験については、白い歯を見せてこう語った。「しっかり連勝できたこともありますが、楽しかったと言えますね」。そう遠くない将来、彼女がヘッドコーチとしてフルシーズンを戦う姿が見られるかもしれない。