厳しい戦いが予想されるオリンピック最終予選

『FIBA女子ワールドカップ2026』で、女子日本代表はベスト8決定戦でハンガリーに敗れた。目標としていたベスト8に届かず12位で終えた。

12位という数字は、今の日本の世界における立ち位置を正確に示している。グループフェーズでは初戦でマリに競り勝ったが、続くドイツ戦は16点差、スペイン戦は20点差で敗れた。ただ、ドイツとスペインは今大会でベスト4に進出した強豪で、敗戦は致し方ないところはある。しかし、ベスト8決定戦の相手であるハンガリーは欧州の中堅国に留まっている相手だが、試合序盤からリードを奪われ続けて21点差の大敗を喫した。世界12位が現在地の今、開催国アメリカ以外の残り11枠の出場権を巡って2028年2月に予定されている『ロサンゼルスオリンピック最終予選』は厳しい戦いになることは明らかだ。

ワールドカップが終わったことで日本代表は、来年6月の『FIBA女子アジアカップ2027』まで大きな大会がない。それだけに今は、就任から1年半が経ったコーリー・ゲインズヘッドコーチ体制の再評価を行い、ロサンゼルスオリンピックに向けてのロードマップをテコ入れする最適のタイミングとなっている。

男子は伊藤拓摩が強化委員長に就任したことを機に、指揮官に良くも悪くも任せる従来の体制から、JBAが代表チームの強化方針をしっかりと策定する抜本的な路線変更を実施。その結果として、方針の違いからトム・ホーバス前ヘッドコーチと袂を分かつことを決断し、桶谷大を新たな指揮官に招聘した。新体制では、八村塁がNBA選手になってから初のワールドカップ予選Windowに出場するなど、『最強のメンバーで最高の一体感』というスローガンの実現に向け、着実に前進したチーム作りを行なっている。

一方、ここまでの女子代表は、男子のように強化委員会から方針について明確なメッセージが発信されたことはなく、ゲインズの意向が全面的に反映されたチーム作りが行われていたと思われる。だが、今大会の厳しい結果を受け、女子も男子と同様に強化委員会が主体となり、世界で勝つための体制作りを推し進めていくべきだ。

実際に、島田慎二会長も女子日本代表の今後についてこう語っている。「大事なことは今大会の評価云々の前に、長期的に結果を出していくためのビションを作り、それに向けてやるべきことを明確にしていくことです。立て付けとしては、伊藤強化委員長が最終的な決断を下します。ただ、萩原(美樹子)副委員長が、女子強化の責任者です。全体として伊藤さんがトップでありつつも、女子の専門家ではないので、萩原さんを中心に考えていくのがあるべき姿ではないかと思っています」

強化のトップがもっと現場にコミットできる環境作りを

萩原副委員長は日本代表の中心として活躍し、WNBAでのプレー経験もある女子バスケ界屈指のレジェンド。そして指導者としてもアンダー世代のヘッドコーチとして、日本を世界上位に導いており、女子強化の舵取り役として申し分のない実績と能力の持ち主だ。ただ、一方で気になるのは萩原副委員長が3月のワールドカップ最終予選、今回の本大会の両方とも女子代表に帯同していないこと。伊藤委員長が男子のワールドカップ予選Windowだけでなく、U17ワールドカップの現場にも訪れたことを考えると、あまりに対照的だ。

試合内容は映像で見れば判断できるが、チームに帯同するからこそヘッドコーチと選手の関係性について肌感覚でわかることもあり、コーチングスタッフや選手たちの生の声を聞くことで今後に生かせることは多々あるはずだ。特に萩原副委員長ほどの見識の持ち主なら、現場にいるからこそ感じ取れる情報は多岐に渡るに違いない。

これが予算的なものなのか、萩原副委員長が東京羽田ヴィッキーズの指揮官を兼務することからくるスケジュール的な問題なのか、原因をこちらからうかがい知ることはできない。ただ、少なくとも代表の方向性を決める中心人物が、現場に帯同していないのは健全な状況とは言い難い。もっと強化の中心人物が、現場にコミットできる環境にしていくべきだ。

そしてコーチングスタッフの拡充は必須事項だろう。今のスタッフがハードワークを厭わずチームに貢献しているのは間違いないが、男子に比べて純粋なマンパワーが不足していると言わざるを得ない。ゲインズがこのまま続投する・しないに関わらず、男子のライアン・リッチマンアシスタントコーチのように、トップカテゴリーでの指導経験が豊富で戦術に精通する参謀が求められる。女子には男子の八村のように、世界を相手に個で難なく打開できる選手はいない。だからこそ、オフェンスが停滞した時に、優れたセットプレーを練り上げられる戦略家の存在が重要となってくる。

日本代表が本来の力をしっかりと発揮できる体制作りへ

個人的には、ゲインズがどんなに劣勢でもタイムアウトをほぼ取らないスタイルをアップデートできるなら続投は妥当だと思う。田中こころ、今野紀花といった新たな選手たちを台頭させた育成能力に加え、何よりもモチベーターとして苦境に陥ったチーム、選手を鼓舞して引き上げる人心掌握術は高く評価するべきで、これまで積み上げてきたモノも大切にするべきだ。

とはいえ、続投にはチームコンセプトのテコ入れも必要だ。サイズが絶対的に劣る日本は、3ポイントシュートに活路を見出していかざるを得ないのは当然だとしても、「1試合40本が目標」とゲインズがよく語っていたことが示すように、長距離砲に固執していた。

「3ポイントシュートについて強調していますが、3ポイントに頼りきるわけではないです。3ポイントで脅威を与えることができれば、ディフェンスを外に引き出し、ドライブのスペースを作る助けになります」と指揮官は語っているが、3ポイントシュートを時には囮に使って効率よく攻める柔軟性がチームには浸透しきれていなかった印象だ。

ディフェンス面でいうと、日本は前から激しいプレッシャーをかけてミスを誘発することを志向している。このディフェンスがハマる場面もあったが、タイムアウトですぐに流れを切られるし、ハーフタイムで相手にアジャストされた後の打開策を打ち出せないことでで相手を混乱させるまでには至らず、ゲインズの目指す『組織化されたカオス』には程通い状況だった。

山本麻衣が、「日本が前からプレッシャーをかけてくるのは相手もわかっています。それでもプレッシャーをかけてフィジカルにいくのは当然のことですが、その中で最も賢くプレーする必要があります。前から行く時と行かない時など、状況判断能力を磨いていかないといけないです」と語るように、より賢いディフェンスの構築が求められる。

改善すべき点は多い日本だが、ドイツ、スペインの強豪相手に2試合続けて、第2クォーターに2桁ビハインドをモノともしない猛烈な追い上げで相手を圧倒したように、世界の列強にも渡り合える潜在能力は十分に持っている。だからこそ、今回のワールドカップでは、世界は遠いという絶望感よりも『もっとできるのに』というもどかしさをより感じた。

強化委員会が主導となり、日本の持っている力を発揮できるための正しい方針作りができるのか。今、女子日本代表はロサンゼルスオリンピック行きに向けた大きな岐路に立っている。