架空取引の企業はなぜカワイに契約料を払ったのか
カワイ・レナードを巡るクリッパーズのサラリーキャップ回避問題は、1巡目指名権5つの剥奪という厳罰で決着したかに見えた。しかし、ニューヨーク州東部地区の連邦検察が、この件で刑事捜査に着手したことで、また騒がしくなっている。
誰が対象なのか、具体的にどんな容疑での捜査なのかは分かっていない。それでもNBAの内部調査と連邦当局の公的な捜査では全く次元が異なる。
NBAは競技運営団体として、自分たちが定めるサラリーキャップの規定に対して違反があったかどうかを調査し、クリッパーズに非があったとしてペナルティを科した。一方、連邦検察当局が関心を持つのは、カワイへの報酬に絡むアスピレーション社を介した一連の取引が違法なものではないか、という犯罪捜査だ。
NBAの調査では、クリッパーズのオーナー、スティーブ・バルマーがアスピレーション社を通じてカワイに報酬を支払い、サラリーキャップに算入すべき金額を回避したかどうかが争点となった。だが、連邦当局はここに関心がない。
アスピレーション社の創業者は、すでに2件の電信詐欺で有罪となっている。実際には現金保有高が100万ドル(約1億5000万円)にも満たなかったにもかかわらず、架空の取引先をでっち上げて「2億5000万ドル(約380億円)の資金がある」とする公文書を偽造し、巨額の融資を引き出していたことが判明している。
アスピレーション社は存在しない資金をあるように見せかけることで、投資家を騙して出資を募った。しかし、カワイへのスポンサー料は契約通りに支払っている。ビジネスの実態のない企業が、カワイへの報酬だけは滞りなく支払ったというのは不自然だ。
しかも、それはクリッパーズのオーナー、スティーブ・バルマー本人がアスピレーション社に入れた資金だ。バルマーはアスピレーション社に騙された被害者だと主張しているが、自分の投じた資金が、自分が払いたい相手であるカワイに届いているとなれば、その主張には矛盾が生まれてくる。
嘘だらけのアスピレーション社が、この取り引きだけは狂いなく実行した。そこにバルマー自身の関与があるのだとしたら──。それが今回の捜査の核心になっていると考えられる。もしこれが立証されれば、バルマーは「詐欺会社に騙された」のではなく、「投資家を欺く仕組みに関与し、自分の望む結果だけは得ていた」との立場に立たされる。
NBAの処分は、指名権と罰金という『事業のペナルティ』で片が付く話だった。しかし連邦検察が、バルマーがカワイとの『闇取引』のためにアスピレーション社を利用し、さらに投資家を騙すスキームにも関与していたのだと判断すれば、話は指名権の剥奪どころではなくなる。証券詐欺や電信詐欺といった連邦犯罪としての立件に発展すれば、バルマー個人が直面するリスクの重さは全く別次元のものになる。
NBAがクリッパーズへの処分を発表した時点で、カワイには少額の罰金のみが科され、凍結されているラプターズとのトレードは正式に決定すると見られていたが、1週間が経過した今もトレードは止められたままだ。異様な事態が解消されないまま、トレーニングキャンプの開始、そしてシーズン開幕が近付きつつある。
