ニコラ・ヨキッチ

若手育成とペイトン・ワトソン流出という決定的矛盾

『CBS SPORTS』は、今夏のナゲッツの編成について「これではニコラ・ヨキッチに愛想を尽かされる」と評した。ペイトン・ワトソンの放出はセカンドエプロン回避のためのサラリー削減で、戦力補強ではない。優勝した2023年にはブルース・ブラウンが、翌年にはケンテイビアス・コールドウェル・ポープが去った。昨年はマイケル・ポーターJr.を失い、そして今オフはワトソンだ。

ヨキッチを支えるべき戦力が4年連続で流出している。ブラウンは優勝の決め手となったシックスマンだが、絶対的な主力ではなかった。それがスタメンのコールドウェル・ポープ、生え抜きのポーターJr.と、ロスターに広がる穴は年々大きくなっている。ワトソンはブレイクしたばかりで、優勝に貢献した3人に比べると痛手は小さく見えるが、一昨シーズン終盤に若手育成に切り替えたナゲッツがその成果を引き留められないのは、中長期的なチーム作りの破綻を意味する。

その間、即戦力の補強としてレジー・ジャクソン、ラッセル・ウェストブルック、ディアンドレ・ジョーダン、ティム・ハーダウェイJr.にヨナス・バランチュナスと多数のベテランを獲得したが、今は誰も残っていない。毎年主力は抜けるが、それに代わる戦力は定着せず、ヨキッチ、ジャマール・マレーとアーロン・ゴードンも年齢を重ねていく。ヨキッチは欠場の少ない選手だが、昨シーズンは膝のケガで1月はほとんどプレーできなかった。ゴードンもハムストリングのケガが癖になり、離脱を繰り返すようになった。

クリスチャン・ブラウンがケガから復帰し、加入2年目となるキャメロン・ジョンソンがチームにフィットし、大物フリーエージェントとしてデマー・デローザンが加わる。それでも年々戦力を削ぎ落されたナゲッツは、3年前から大幅に弱体化した印象が拭えない。

31歳になったヨキッチは、このチーム状況をどう見ているのだろうか。彼はチーム内の不和を起こすような言動をするタイプではない。セルビア北部の田舎町出身で、シーズンが終われば真っ先に故郷ソンボルへと帰り、愛馬の世話に明け暮れる。SNSのアカウントすら持たない物静かな性格で、「自分の一番の喜びも一番の悲しみも、馬のレースの勝ち負けだ。バスケは自分がただ得意なことでしかない」と自分を語る彼が、移籍という『激震』を好むとは思えない。とりわけ「大都市で脚光を浴びたい」ような欲望とは無縁だろう。

ナゲッツとの契約延長を見送ってはいるが、それは不満の表れではなく、5年3億5950万ドル(約540億円)の契約ができる2027年オフを待っているだけ。ヨキッチは「デンバーに残り、キャリアを終えるつもりだ」と公言しているが、その言葉に裏はなさそうだ。

ただ、このヨキッチの謙虚すぎる姿勢こそが、ナゲッツのフロントが危機感を持たずに済む要因となっている。ヤニス・アデトクンボは長らくバックスと丁々発止のやり取りを続けてきた。ジミー・バトラーはヒートに常に要求を突き付け、最後はチームをぶち壊して去っていった。ヨキッチにそういう一面があれば、この3年に及ぶ『地盤沈下』は起きなかったはずだ。

いずれにせよ、『騒々しい夏』を好まないヨキッチの忠誠心はフロントにとって『甘えていい保証』にすり替わっている。ヨキッチがナゲッツを去る確率は限りなく低いが、ヨキッチがキャリアの円熟期にあるにもかかわらず、チームは静かに競争力をすり減らしている。ナゲッツのフロントが注視すべきは「ヨキッチが愛想を尽かすかどうか」ではなく、「彼に甘えて手を抜き続ける自分自身」であるはずだ。