『家族経営のお手本』は裏切りと足の引っ張り合いへ

レイカーズのジーニー・バスは、家族によるレイカーズの株式売却に異議を唱えている。彼女はNBA理事会でチームを代表して経営の最終責任を負うレイカーズのガバナー(球団統括者)だが、それには株式の最低15%の保有が要件とされる。家族信託で持つ17.8%の株式が売却されれば、ジーニーはその地位を失う。

一家の確執は突然始まったものではない。創業者ジェリー・バスの死後、10年以上をかけて積み重なったものだ。

ジェリー・バスは、最初の妻ジョアンとの間に4人(ジョニー、ジム、ジーニー、ジェイニー)の子をもうけた。ジョアンは2人の間に最初に授かった子供を生後すぐ養子に出した経緯から、「他の女性との間に子供を作らない」という約束をジェリーから取り付けていた。しかしジェリーは1980年代半ば、恋人カレン・デメルとの間にジョーイとジェシーをもうけ、この約束を破った。ジェイニーとジョーイの2人には21歳の年齢差があり、育った家庭環境も大きく異なる。

ジェリーはレイカーズを名門クラブへと育て上げると同時に、子供たちを自身のスポーツエンタテインメント業に絡ませた。ジーニーは大学生だった頃からスポーツビジネスの最前線に放り込まれ、そこで目覚ましい才覚を見せたことで1999年にレイカーズのビジネス面を取り仕切る『ビジネス運営担当副社長』を任され、父ジェリーの後継者と見なされるようになった。実際、ジェリーは「レイカーズのガバナーとしてNBA理事会に出席するのはジーニーとする」との遺言を残している。

2013年にジェリーが死去すると、66%の保有株は『家族信託』の形で6人の兄弟姉妹に相続され、ジーニーがレイカーズのガバナーに就いた。ほどなくして一家の対立が始まる。1999年の時点でジーニーが経営部門を任されたように、バスケットボール部門を任されていた2歳年上のジムが、編成で独断専行を繰り返すようになったのがそのきっかけだ。

ジムは父親が死去した後に「3年でレイカーズを優勝争いに引き戻す。そうでなければ身を引く」と大見栄を切ったが、ここからレイカーズは暗黒時代へと落ち込む。キャリア晩年のコービー・ブライアントはケガを抱え、焦ったジムが繰り出す補強は失敗続き。約束の期限が切れた2017年にジーニーから解雇されたジムは、長兄のジョニーを味方に引き入れてジーニーを排除するクーデターを画策するも失敗。ジーニーは兄たちをクラブ経営から引き剥がし、父ジェリーの愛弟子、マジック・ジョンソンをフロントの最高幹部に据えて、レブロン・ジェームズの獲得に成功。2020年に『自分の代』での優勝を勝ち取った。

かくしてレイカーズは完全にジーニーが掌握したのだが、他の兄弟姉妹がどんな気持ちだったのかは想像に難くない。2025年の買収劇で、レイカーズの株式の48.2%がマーク・ウォルターに10億ドル(約1500億円)で売却された。バス家には17.8%が残り、ジーニーは引き続きレイカーズのガバナーを担ったのだが、この時にジーニーとその側近に1億ドル(約150億円)規模のボーナスが支払われたことが明らかになり、父が築いたレイカーズ帝国から除外された兄弟姉妹は激怒したという。

異母弟妹のジョーイとジェシーは41歳と38歳とまだ若く、ジーニーと何度か衝突しながらもレイカーズで働き続けてきた。父ジェリーは若い2人にバスケットボール部門を任せる構想を明かしており、2人もその遺志を尊重してきた。それでもウォルターへの株式売却に2人が反対したのを機に、彼らが雇用していたスカウト部門のスタッフごと一斉に解雇する『粛清』の対象となった。

それから14カ月。ボブ・アイガーとジョシュ・クシュナーがウォルターからレイカーズを買収しようとしている今、兄弟姉妹がジーニーに反旗を翻した。主要オーナーの株式売却の際に、自分たちの持ち分も同じ条件で売却できる『タグアロング条項』という権利を根拠に、バス家の17.8%を売却すると表明したのだ。今回の買収劇におけるレイカーズの価値は120億ドル(約1兆8000億円)とされ、このタイミングで持ち株を売ればバス家は22億2500万ドル(約3300億円)を手にする。

ジーニー側は2017年の裁判所判断を根拠に、共同受託者であるジーニー、ジェイニー、ジョーイ3人の承認なしに売却は成立しないと主張している。しかし、当のジェイニーとジョーイは売却推進派で、ジーニーは一人で残る家族を敵に回している状態だ。現時点でどちらの主張が法的に正しいかははっきりせず、長い法廷闘争に持ち込まれる可能性がある。

「ボブ・アイガーとジョシュ・クシュナーには大きな敬意を持っている」とする5人の声明には、対立を穏便に収めたいという思いもうかがえる。それでも、解雇された兄弟姉妹の恨みと、たった一人残ったジーニーの孤立という構図は、問題の早期解決があり得ないことを示唆している。

ジェリーは自らの死に際して、子供たちが今後も長きに渡りレイカーズを保有し、協力してクラブを運営していくことを望んでいた。しかし、実際には真逆のことが起きている。ジェリーが率いた時代のレイカーズは、金儲け優先の企業論理ではなく『温かみのあるアットホームな家族経営のお手本』とされていたが、今では裏切りと足の引っ張り合いのドタバタ・コメディになってしまった。