取材=古後登志夫 構成=鈴木健一郎 写真=古後登志夫、B.LEAGUE

先週末に行われた宮崎県の中学生向けクリニックに、ベンドラメ礼生の姿もあった。福岡県出身だが、高校は宮崎県の延岡学園に進学。3年次には高校3冠の快挙を成し遂げ、東海大を経てサンロッカーズ渋谷に入団。アーリーエントリーの2015-16シーズンこそプレータイムを得られず悔しい思いをしたが、Bリーグ初年度のシーズンにはルーキーらしからぬ強気のプレーを貫き、Bリーグ最初の新人王にも輝いた。

強気でトリッキーなプレーが魅力のベンドラメだが、その土台には学生時代に身に着けた『バスケットの基礎』がある。クリニックでは中学生プレーヤーにその基礎を教え、ミニゲームや練習試合になればプロの技術を存分に披露。ユニバ代表に招集されたベンドラメにとって今年のオフは非常に短いものになるが、その貴重な一日を有意義に使うことができたようだ。

そのベンドラメに、Bリーグ新人王に輝いたシーズンと自身の現在地を語ってもらった。

「毎日うまくなることを意識してシーズンを過ごした結果」

──落ち着いてシーズンを振り返ることのできる時期だと思いますが、Bリーグの1年目はどんなシーズンでしたか?

すごく楽しかったです。その前にアーリーエントリーのシーズンがありましたが、そこでは試合にほとんど絡んでいませんでした。初めて本格的に試合に絡んで、Bリーグになって環境も変わりました。毎日が勉強で、楽しいことばかりでした。すごく良い1年だったと思います。

新人王になることができたのも、毎日うまくなることを意識してシーズンを過ごした結果だと思っています。新人王は他の選手のケガだったり、いろんなことを含めてタイミングと運が良かったとは思いますけど。

リングにアタックするドライブについては、これから自分の武器になっていくものです。ドライブはできると思っていて、あとはフィニッシュまで決めきること、止まるべきところで止まってパスを出したり、視野を広げることですね。リングにアタックするだけで相手にとっては嫌だと思いますが、そこから先のこと、点数を取ったり、ドライブからアシストに展開していければいいなと思っています。

──ベンドラメ選手は序盤戦から活躍して評価を高める一方で、チームは勝てない時期もありました。そこに葛藤はありましたか?

どうなんですかね、まだ僕は1年目です。もちろん、1年目でもチームに対する責任はあって、ポイントガードが試合を作る中で、勝てそうで勝ち切れない試合、僅差で負ける試合はポイントガードの責任だと思っています。その部分で責任を感じたところはすごくありました。でも、チームとして結果が出ない時に「個人的にこういうプレーができていたら」とマイナスには考えないようにしています。あまり考えないというか、ポジティブです。

そんな中でも落ち込んだ試合もあって、栃木ブレックスとの試合で最後に田臥(勇太)さんにスティールされたことや、川崎ブレイブサンダースとの最終節の1試合目、10点以上のリードから逆転負けした試合では、すごく責任を感じました。落ち込んだというか、ブルーな気分になりましたね。でも、今振り返ってみると、1年目からそんな経験ができることはなかなかないし、それが今後10何年バスケをやっていく自分にとっては貴重な勉強であって、良かったと受け止めています。

「ミスが少なくて点数の取れるガードが一番です」

──ポイントガードではありますが、組み立てるよりも自分で切り開くプレースタイルだと思います。そのスタイルはいつ確立されたものですか?

中学校までは基本的にポジションがなくて、身長もそれほど変わらないので、みんな1対1でドライブでした。高校も2番ポジションで、積極的にリングにアタックして点を取るタイプでした。それをずっと武器にしてやってきたので、点数に絡むことが自分の長所だと思っていました。大学になるとポイントガードをしながら、ポイントゲッターも自分でやる感じです。基本的には小学校からのスタイルでここまで来ていますね。

日本のポイントガードはゆっくりコントロールするイメージですが、僕はそれに向いていないというか、まだ勉強の途中です。正直、なかなか理解しようと思ってもできないです。NBAだとアレン・アイバーソンやデリック・ローズが好きで、ずっと見ていました。自分も点数に絡むことのできるポイントガードでありたいと思っています。もちろんゲームコントロールも大事ですが、得点が欲しい時に取ってくれるガードは心強いです。自分もマッチアップして嫌なのはそういうタイプのガードですし。

ミスが少なくて点数の取れるガードが一番です。ポイントガードはミスしてはいけないポジションで、状況によっては命取りになる怖さもあります。そこで自分がドライブというリスクの高い選択をしていく中で、ミスを少なく抑えるのは難しいですが、それをやっていかないと上には行けないので、ここを乗り越えて次のレベルにステップアップしたいです。

チームにも(清水)太志郎さんや伊藤(駿)さんというガードがいて、例えば太志郎さんがコートに入ると、何となくですがチームが落ち着いた雰囲気になるというのをすごく感じます。それは自分が真似しようとしても、なかなかできないのですが、何とかやっていかないといけないところです。

他のチームだと栃木の渡邉(裕規)さん、川崎の(篠山)竜青さんですね。渡邉さんはピックの使い方がうまく、点の取れる選手です。竜青さんはピックを使った後の動きがすごく勉強になります。そういうのを見ると「いいなあ」とは思うのですが、正直まだ自分はピック&ロールでの判断が微妙です。

──新人王になりましたが、あまり素直に喜んでいるわけではないと聞きました。開幕前から新人王を狙うと宣言していたことを考えると意外なのですが……。

結果的に目立っていたおかげで新人王になれたと思っているんです。満場一致で「新人王はベンドラメだ」というわけじゃないというか……。他の新人はプレータイムは少ないかもしれないけど、確実に仕事をこなしているイメージが僕にはあります。ミスなく2本決めてベンチに帰る、みたいな。僕はプレータイムが多い分、得点を決めるシーンが多くて印象には残ったかもしれませんが、ミスも含めたプレーの質を考えると、まだまだかなと思っているので。果たして他の新人が同じだけのプレータイムをもらった時、自分はこれだけの評価をしてもらえるのか、という不安はあります。

京都ハンナリーズの小島(元基)の開幕からの活躍はすごく気にしていました。自分の中で新人王は「あいつか俺か」という意識だったんです。でも彼がケガをしてしまったので、新人王を取ることだけを考えれば正直ホッとした気持ちがあった反面、素直に喜べないというか悔しいというか……。同世代で言えば僕と彼は同じポジションだし、大学の時からお互いを意識する存在で、そうやって高め合っていく仲だと思っています。

「何か問題が起きても、気にしていたら前に進めない」

──チームは勝ったり負けたりと、シーズンを通してなかなか安定しませんでした。

60試合もある長いシーズンなので、どうしても波はあるものです。結果が出ないことで雰囲気が悪くなってしまうことも、人間であれば仕方ないことだと思います。僕はルーキーなので、チームをまとめる部分は上の人に任せていた部分があって、コートに出してさえもらえれば自分が結果を出すことで状況を変えようと考えていました。結局のところ、試合は試合なので、出ている5人はネガティブなものをコートに持ち込んではいけないと思います。ずっとポジティブな環境でやってきて、それだけでは済まないプロの環境を感じた部分です。ただ、その長いシーズンをチームがどういう流れで動いていくのかを学ぶことができて、それも経験になったと思っています。

すべての試合に勝てるはずもないし、悪いことだって起こります。そう考えれば何か問題があっても、それはいずれ起きることで、乗り越えていくだけです。いちいち気にしていたら前に進めないので。その点、僕はポジティブだと思います(笑)。

──確かにそうですね。でも、そのメンタルはどうやって培ったものですか?

高校の時に寮生活をしたことだと思います。一人でいろんなことをしなければいけないようになって、寮生活をしていると問題も起きます。僕はあまり争いごとは好きじゃないタイプです。争ってもいいことはないので。そこで一歩引くところから前向きに考えられるようになったと思います。大学に行くと陸川(章)先生がすごくポジティブな人だったので、僕のポジティブさも増したと思います。

──最後に新シーズンに向けた意気込みを教えてください。

昨シーズンはチャンピオンシップ出場を果たしましたが、勝てる試合をいくつも落としてしまいました。簡単な試合を落とさなければチャンピオンシップに向けて良い雰囲気ができるはずです。僕個人としてもチームの中心になって、積極的にアタックしながらもミスを少なくして、チームを引っ張っていきたいと思います。