モーディ・マオール

「システムが良かったから勝てたとは思っていない」

長崎ヴェルカは、Bリーグチャンピオンシップファイナル第3戦で琉球ゴールデンキングスを72-64で下し、初優勝を果たした。

B1初年度の昨シーズンにヘッドコーチに就任し、創設5年目という若いクラブを一気に頂点にまで導いたモーディ・マオールは、優勝記者会見で次のようにスピーチした。

「私たちがチャンピオンシップを勝ち取った瞬間は素晴らしいものだった。一度にこれほど多くの人が泣いているのを見たことがない。とても誇りに思っているし、とても感謝している。この組織にいる人々はみな、ステップを飛ばすことなく一歩ずつちゃんと踏んでいた。5年前からこの組織にいる全員が本物のビジョンを持って、そこに対してしっかりコミットしていたのが非常に素晴らしいことだし、全員が誇るべきことだ。私たちは年間を通してベストチームだった。チャンピオンシップでも『三強』と言われる素晴らしいチームをしっかり倒した」

マオールがこう語るように、長崎はレギュラーシーズンを47勝13敗(勝率.783)の全体首位でフィニッシュし、チャンピオンシップはクォーターファイナルでアルバルク東京、セミファイナルで千葉ジェッツをいずれも2連勝で撃破。ファイナルは初戦こそ琉球にとられたが、そこから連勝してひっくり返した。

マオールが作り上げたスタイルは、ビッグマンの支配力が勝敗を握る傾向が強かったBリーグで、大きく異彩を放つものだった。最たるものは身長やポジションで役割を固定しない『ポジションレスバスケ』。198cmのスタンリー・ジョンソンや201cmのジャレル・ブラントリーがボールを運び、173cmの熊谷航がスクリーンをかけ、183cmの松本健児リオンがインサイドに飛び込む。

ただ、マオール自身はこれが躍進の最大の要因とはとらえていない。ポジションレスバスケの手応えについて問われた彼は次のように答えた。

「システムももちろん大切だが、システムが良かったから勝てたとは思っていない。やりたかったことを高いレベルで遂行できたから勝てたのであって、たとえ別のシステムであったとしても勝つことができただろう。このチームには素晴らしい人材と才能が揃っている。彼らがシステムを良く見せてくれたのであって、その逆ではない」

モーディ・マオール

伊藤GM兼社長が語ったマオールの魅力

イスラエルでコーチングキャリアをスタートし、2019年からはニュージーランドを拠点としていたマオールを長崎に招聘した経緯について、社長兼ゼネラルマネージャーの伊藤拓摩は、以前の取材で次のように話していた。

「ヘッドコーチには5人ほど候補者がいて、一番最初にモーディをインタビューしました。1時間ぐらいのオンラインミーティングを予定していたんですけど、結果的に3時間以上かかりました。というのも、彼はこの日のために綿密な準備をしていて、ヴェルカが今Bリーグでどういうチームなのか、そして勝つためにはどういうことが必要なのかということを2時間くらい話したんです。すごかったのは、『Bリーグに何年いたの?』っていうぐらいのBリーグの知識。(馬場)雄大からリオンから狩俣(昌也)から、当時ウチにいた選手全員のディベロップメントプランを説明する。そこでもうグッときて、1人目の面談でほぼ決まりでした」

アリーナで試合を観戦すれば、マオールがいかに情熱的な人物であるかはすぐに分かる。響き渡るビッグボイス、そして一見すると「口論をしているのでは?」と思うほどに激しい選手とのコミュニケーション。伊藤はそのコアにある彼の人間性と、それがチームにおよぼした変化についても教えてくれた。

「モーディが素晴らしいところは、自分もワーっと言うけれど、逆に相手に言われても受け止めること。スタンリーやJB(ブラントリー)もそうですし、最近は日本人選手も自分の意見を言うようになりました。モーディがあれだけの迫力でくるので当初は聞き入ることが多かったんですが、今は英語で『いや、ここは違うでしょ』『俺はこうしたいんだ』というようなことを言い合い、1分後にはお互い次のことに集中しています。コーチと選手とが意見を戦わせる文化がクラブの中で育ってきたのは良いことじゃないかと思います」

創設時から伊藤や狩俣が作ってきたクラブカルチャー。マオールの情熱と知性。そしてチームに関わる一人ひとりのコミット力と成長。すべてが足し算でなく掛け算で積み上がった結果、Bリーグが開幕した10年前には存在しなかった新興クラブが頂点に立った。