ニコラ・トピッチ

「こうしてコートに立ってプレーできることに感謝」

2024年のNBAドラフトで、サンダーは1巡目12位指名権を使ってニコラ・トピッチを獲得した。セルビア出身の18歳のポイントガードは、この時点で左膝の前十字靭帯断裂のケガを負っていたが、若いタレントが揃うサンダーには即戦力ではない逸材の復帰を待つ余裕があった。トピッチは2024-25シーズンを全休し、今シーズンのデビューに向けて準備を進めていた。

その彼のデビューは、精巣がんにより再び遅れることとなった。この時、サム・プレスティGMはこれが完治する病気であり、復帰を急かすつもりはないことを明らかにしている。

しかし、18歳から20歳にかけての時期を、バスケ選手のパフォーマンスにかかわる膝の手術、さらには病気で放射線治療で過ごすのが精神的にキツいのは間違いない。プレスティGMは昨年10月の時点で「治療とリハビリは決して簡単ではない」と語り、こう続けた。「しかし、トピッチは驚くべき男だ。彼とかかわった者なら誰もが知っているが、あの年齢とは思えないほど成熟し、落ち着いていて強靭だ。この試練に立ち向かい、打ち勝つための資質をすべて備えている」

膝の手術はロサンゼルスで、精巣がんの診断はヒューストンで、治療とリハビリはオクラホマシティでと、サンダーは各分野で最高の環境をトピッチに提供した。そして精巣がんの告知から3カ月で、彼はコートに戻って来た。

最初はサンダー傘下のGリーグチーム、ブルーでの試運転で、16分の出場で7得点7アシストを記録。放射線治療は3度に及び、髪はまだ生え始めたばかりだが、そのプレーに実戦から2年間離れていたブランクは感じられなかった。ドラフト同期のアジャイ・ミッチェルが応援に駆け付け、ファンから拍手で出迎えられた彼は、ピック&ロールを駆使し、なおかつ自分で行けると判断すればリムアタックも見せた。その積極的な姿勢がディフェンスを引き付けてアシストに繋がる好循環を生み出していた。

オールスターブレイク前の現地2月12日にはNBAデビューを果たす。バックス戦の途中でコートに入る彼は、ペイコム・センターのファンからの拍手に応えるようにユニフォームの胸の『オクラホマシティ』の文字を手で叩いた。この時、コート上ではジェイリン・ウィリアムズとボビー・ポーティスが小競り合いを起こしていたのだが、サンダーはもちろんバックスの選手も諍いを止め、コートに入るトピッチを出迎えた。そして彼は、最初のポゼッションでジェイリンの得点をアシストした。

このバックス戦では12分間の出場で2得点1アシストを記録。オールスターブレイク明けのネッツ戦では11分の出場で9得点2アシストと調子を上げた。「試合から長く離れていたので、最初は感覚を取り戻すのが難しかった。無意識のうちに以前はやらなかった動きをしていることに気付いたりして、その修正にちょっと苦労した」とトピッチは語る。

「それでもGリーグの1試合目から2試合目でかなり良くなったし、NBAでも初戦から今日でかなり良くなった。これからどんどん良くなっていくと思う」

「膝の大ケガから回復する過程で多くを学んだし、今回もまた多くのことを学んだ。特殊な状況だったけど、自分の身体と向き合い、様々な刺激にどう反応するかが分かったのは前向きな発見だ。こうしてコートに立ってプレーし、皆さんの前で話せていることに心から感謝している」

ボールを持ってコートを駆け上がる彼を見る時、人々はどうしても『若くしてがんを患った選手』との意識を持ってしまうが、彼にとってケガも病気ももはや過去のもの。長い忍耐の時を経て、これからNBA選手としてのキャリアを切り開くことしか考えていない。

1年半遅れのNBAデビューとなったが、セルビアでプロ経験のある彼は自分らしく堂々とプレーしている。会見でそのことに触れられた時、トピッチは初めて20歳らしい初々しい表情を見せた。「僕はポーカーフェイスが得意なだけで、実際はめちゃくちゃ緊張していたんだ。自信があるように見えたのなら良かったよ(笑)」