
「みんな足が攣っていて、回りきれない部分があった」
インターハイでの八王子学園八王子は、準々決勝で福岡大学附属大濠を、準決勝で北陸を破り、決勝へと駒を進めた。夏に得た自信はチームをさらに強くし、ウインターカップでもベスト8まで勝ち進んだ。
12月27日に行われた準々決勝の相手は東山。立ち上がりから縦へのスピードで東山を押し込み、思い切り良く放つシュートも決まって11-0と最高のスタートを切る。大会No.1留学生との呼び声も高いニャン・セハ・セダトは、203cmの長身に加えてスキルもバスケIQも高く、八王子の走るバスケに合わせてきっちり走り、ポストアップから自ら攻めるだけでなくチャンスメークもこなした。また周囲の選手たちもセハに任せきりではなく、彼に良い形でボールを持たせ、キックアウトのパスを引き出す動きを繰り返し、スピーディーかつ流れのあるオフェンスを作り上げた。
またディフェンスでは、東山の中心となる佐藤凪から左右に展開するパスをギャンブル的に狙う。すべてが決まるわけではなかったが、スティールはそのまま速攻での2点に繋がるために東山はこれを警戒せざるを得ず、攻撃は停滞して良いリズムが生まれなかった。
立ち上がりのリードを生かして前半で45-38とリードすると、第3クォーターにはさらに守備の圧力が増して14-12とロースコアの展開に持ち込む。八王子もずっとトップギアで走り続けるわけにはいかず、速攻のキレは鈍ったが、セハが粘り強くゴール下で得点を奪った。
第3クォーターを終えて59-50で八王子がリード。点の取り合いで打ち勝つスタイルの東山をロースコアの展開に持ち込み、佐藤を4アシストに対してターンオーバー5と、得点は許しても攻めの起点として機能させないディフェンスが効いていた。
伊東純希コーチは「出だしは非常に足も動いていましたし、気迫もありました。 我々のプレースタイルである『守備からリズムを作るバスケット』が、非常に良い形で体現できていた」と、良かった時間帯を語る。
しかし、第4クォーターに入ると試合の流れは一変する。攻守にスプリントを繰り返すバスケをメンバーを固定して続けてきたことで、限界が来た。
「アグレッシブに守ればファウルを伴います。脚力の限界で守りきれず、ローテーションが遅れてファウルになってしまった」と伊東コーチが振り返る第4クォーター最初の1分半でチームファウルが4つ。それまで出足の鋭さで止めていた相手のドライブで突破を許すようになり、遅れて当たるためにファウルが重なった。しかも、頼みのセハが個人ファウル4つに。八王子がディフェンスの鋭さを失っていく一方で、東山は息を吹き返した。

「決めきるつもりでもう一度コートに立ちました」
八王子のアグレッシブなスプリントを象徴するフォワード、花島大良はこう語る。「インターハイで自分たちのディフェンスが通用すると分かり、練習でもディフェンスメニューを多めにやってきました。インターハイでは1-3-1のゾーンでしたが、ウインターカップに向けてマッチアップゾーンを採用しました」
『マッチアップゾーン』と言うが、花島によれば「実は明確なルールはなくて、とにかく全員で動き回る。それだけです(笑)」とのこと。しかし、メンバーを固定してずっと戦ってきた中で、「練習から、あいつが次にどこへ動くか、見なくても分かるぐらいのレベルで噛み合っていました。それは今年の3年生の強みです」と言い切れるほどの連携が出来上がっていた。
しかし、そのディフェンスに限界が来た。「守らなければいけないという意志はありましたが、みんな足が攣っていて、回りきれない部分がありました。佐藤選手に簡単に打たせてしまい、そこを止められない甘さがありました」と花島は唇を噛む。
残り4分半、花島はシュートを打った際に足を攣ってベンチに下がったが、すぐに戻ってプレーを続けた。夏のインターハイ、準々決勝の大濠戦でも同じようなシーンでコートに戻り、チームを救う得点を決めている。「僕は3年生ですし、これが最後の舞台です。自分がやらないとダメだ、という強い思いで、決めきるつもりでもう一度コートに立ちました」
71-77と突き放された残り8秒からの攻め。花島はディフェンスの前から強引に放った3ポイントシュートをねじ込んでいる。「残り時間もわずかで3点を狙う場面で、コーチからも行けと言われていたので打ちきりました」と花島は言い、「自分でもちょっとびっくりしました」と笑った。
しかし、八王子は勝つチャンスを手離してしまい、東山はそれをがっちりつかんだ。最終スコアは74-77で、八王子は一歩及ばず敗退となった。
「悔いが残る試合でした」と花島は言う。「去年のような圧倒的な個の力がない分、チーム力で勝負してきました。誰か一人が点を取るのではなく全員がバランス良く得点できる良いチームになれたとは思いますが、やはり最後は勝ちたかったです」
昨年は十返翔里という絶対的なエースを擁していた。今年のチームは花島が言うようにタレントとしては小粒だったかもしれないが、ひたむきに前に走り、なおかつ連携の取れた好チームだった。