文=丸山素行 写真=B.LEAGUE、鈴木栄一

「やるしかない」気持ちで迎えた第2戦の第4クォーター

シーホース三河とのセミファイナル第3戦は、最後の最後までどちらが勝利を手にするか分からない展開だったが、残り5.9秒からの攻めでライアン・ロシターが決勝点を奪い栃木ブレックスが競り勝った。

渡邉裕規は第2戦に26分半プレーし、第3戦はほとんどプレータイムがなかったが、いつもと変わらず声を出し、大きなリアクションで心身ともに限界に近付きつつあったチームメートを鼓舞し続けた。

試合後に話を聞くと、勝利が決まったブザーの瞬間を「あまり覚えていないです」と言う。ブレックスアリーナの雰囲気に彼も飲み込まれ、スタンドと一体となって『戦って』いた。「こういう雰囲気でバスケットができるのはブレックスだけです。簡単にはいかない相手だとは分かっていましたが、最終的にはホームコートで戦えたことが良かった。勝たせてもらった試合なのかなと思います」

渡邉がコートでその能力を遺憾なく発揮したのは第2戦の後半、特に25-8と猛烈な追い上げを見せた第4クォーターだ。この10分間、第3戦を見据えて田臥勇太はベンチに。渡邉が10分間フル出場し、追い上げを演出した。「千葉との試合でもまくることができたので『やるしかない』という気持ちでした」と渡邉は言う。チームとしては第3戦を含めたトータルでゲームプランを考えるが、コートに立っている5人は『今』だけに集中して全力プレーを続ける。そのブレない精神が反撃のベースとなった。

「ビハインドだったので、なるべく早い展開でシュートを打てれば」と渡邉は第4クォーターのゲームコントロールを振り返る。ゾーンに入っていた熊谷尚也、足を残していて誰よりも走れた須田侑太郎をうまく生かし、渡邉は猛攻を作り出した。

結果、後がないシーホース三河は比江島慎や金丸晃輔を使い続ける羽目に。これが第3戦の最後で三河のブラックアウトを呼ぶことになった。「結果的にそうなって良かったと思いますね。あれだけファンの方が応援してくれる中で追い上げられて、負けてましたけど気持ちが良いというか、やっていて楽しかったです」と渡邉は言う。

シックスマンの誇り「途中から出て流れを変えたいです」

この前日には川崎ブレイブサンダースが同じくアルバルク東京を破りファイナル進出を決めていた。「あっちもゲーム3まで行って、激戦を制して勢いに乗ってくると思います。僕たちは千葉を倒して、三河を倒してという自信を一発勝負のファイナルで表現できれば。ブレックスアリーナではできないですけど、僕たちにはたくさんのファンがいるので、それを武器にして。代々木でもああいった歓声が聞けるようにしっかりやっていきたいと思います」

川崎のイメージはやはりニック・ファジーカスと辻直人だ。「最後はやっぱりファジーカス選手やアウトサイドの辻選手がカギになると思いますが、僕たちは今日で言えば比江島選手や金丸選手を抑え、その前の試合で言えば富樫(勇樹)選手や(タイラー)ストーン選手を抑えてきたと。それを自信にするべきだし、コートで出していくだけです」

ファイナルへの意気込みを、「僕自身は途中から出て流れを変えたいです」と語る。シックスマンとして、チームに良い流れが来ていれば継続させ、悪ければ食い止めてひっくり返す仕事をする自信と覚悟が渡邉にはある。「僕は自分の仕事をするだけです」

レギュラーシーズン60試合という長丁場を経て、チャンピオンシップでは千葉と三河という強敵を撃破して、ようやくファイナルの舞台に立つ。渡邉は言う。「あと一つ勝つだけですし、今日は本当にドキドキしたし盛り上がりましたけど、これでやっと去年のハードルを越えただけなので。ラスト1勝は代々木でしっかり栃木の皆さんと喜べるようにしたいですね」

試合中と同じように、取材の場でも渡邉はファンを煽った。「代々木にもたくさん来ていただけると思います。またこういった雰囲気を作り出していただければ、僕たちもそれに応えるだけなので、死力を尽くして頑張ります!」