「ホームラン狙いではなくシングルヒットで少しずつ」

ヒートはティップオフの瞬間からアクセル全開だった。アンドリュー・ウィギンズが躊躇なく放つジャンプシュートを連続で決めると、ノーマン・パウエルもこれに続く。タイラー・ヒーローはドライブからユーロステップでバスケット・カウントをもぎ取る。試合開始から3分とたたないうちにヒートは15-0のランを決めた。マジックはタイムアウトを取り、アンソニー・ブラックがようやく最初の得点を挙げるも、パウエルがすぐさま3ポイントシュートを決め返して18-2とする。

オーランドの観客は戸惑ったが、マジックの選手たちは慌てていなかった。指揮官ジャマール・モズリーは「最初の展開はシュートを決めたヒートを称えるべきだ。我々は強烈な一撃を浴びて目を覚ました。そして、自分たちのやるべき仕事をやり始めた」と言う。

結論から言えば、マジックは第2クォーターの半ばには追い付き、第3クォーターに逆転。第4クォーターを通してリードを守り続け、117-108での勝利を収めた。「ホームラン狙いではなく、シングルヒットで少しずつ点差を詰めるという意味で素晴らしい仕事をしてくれた」とモズリーは言う。

立ち上がりのヒートの猛攻はすさまじかったが、ジャンプシュートが当たっただけだったとも言える。マジックはまず自分たちの攻めが終わった時の守備への切り替えを早め、ヒートのトランジションを遅らせた。それでヒートのシュートタッチは鈍くなっていった。

フランツ・バグナーが足首を痛めて戦線離脱となり、パオロ・バンケロとジェイレン・サッグスもケガ明けで万全のコンディションではない。その状況での2-18のスタートが厳しかったのは間違いないが、モズリーが言う「勝利への道を見つけ出すことをあきらめなかった」ことで試合の流れを変えた。

バグナー不在でオフェンスを牽引したのはデズモンド・ベインだ、途中でファウルトラブルになりながらも踏ん張り、37得点6リバウンド5アシストを記録。しかし彼は、「チーム全体で取り組んだことで、僕一人ではやれなかった」と、その功績を個人のものとはしなかった。

「誰かがいないから、誰かがいるからってわけじゃなく、常にアグレッシブなマインドセットを心掛けている。ただ正しく、アグレッシブにプレーするんだ。そしてチーム全体に『ネクスト・マン・アップ』の精神があった。パオロはディフェンスを引き付けて効果的なパスを出した。ゴガ(ビタゼ)のリムプロテクトはすごかった。コートに足を踏み入れた全員がそれぞれ勝利に貢献したんだ」

これでマジックはNBAカップの準決勝進出を決めた。「シーズン序盤のこの時期に、勝敗に大きな意味を持つ試合ができるのは楽しみだ」とベインは言う。この大会は創設から数年を経て、NBAに定着した。ラスベガスに行き、ビッグマッチを戦い、勝ってトロフィーを掲げるのを誰もが楽しみにしている。

そして、賞金という楽しみもある。「賞金はデカいよ。僕は3万5000ドル(約530万円)を失ったばかりだから取り返さなきゃね」とベインは笑った。

2日前のニックス戦の途中、プレーが途切れたタイミングでベインは対戦相手のOG・アヌノビーの背中にボールを思い切り投げつけた。アウト・オブ・バウンズを狙ったプレーではあるが、背後から荒々しくボールをぶつける必要はなかった。両チームの選手が一触即発の状況となり、ベインには反スポーツマンシップ行為として罰金3万5000ドルが科された。

闘争心が悪い形で出て、高額の罰金を科された。それも今のベインにはモチベーションになっているのかもしれない。