「このバスケットで宮永ヘッドコーチを勝たせたい」
佐賀バルーナーズは、ディフェンスのチームだ。B1に昇格した2023-24シーズンはリーグで4番目に良いディフェンシブレーティング(100ポゼッションあたりの平均失点)を叩き出し、29勝31敗で昇格クラブの最高勝率を記録した。
ところが今シーズンは、中断期間までの18試合を終えてこの数字がリーグで3番目に悪く、7勝11敗と苦戦している。ディフェンス力のあるウイングとして期待され新加入した阿部諒は、「自分たちらしくないディフェンスになってしまっているのが勝利に繋がらない要因です」と話す。
ディフェンスが上向かない要因について阿部は、「ケガ人も多くなり、ローテーションが組めなくてアグレッシブにできない時があった」とレイナルド・ガルシアが2試合、井上諒汰が11試合の出場にとどまるなどケガ人が多いチーム状況を挙げた。ただし、それがすべての要因ではないと続ける。「ケガ人を言い訳にせずに、それぞれがもっとできることがあります。僕自身もアグレッシブに前からプレッシャーかけられてない時もあります。コミュニケーションや意思疎通も含めて、細かいところをもっと突き詰めていかなければなりません」
悪い試合ばかりではない。11月8日に行われた大阪エヴェッサとの第1戦は、第3クォーター中盤に22点のビハインドを背負ったところからディフェンス強度を上げて、逆転勝利を収めた。「あの試合は本当に連動したディフェンスができて、立て直せました。どの試合でも、あれを40分間やり続けないとですね」と、阿部は連携したディフェンスを継続してする重要性を口にした。
新加入の選手にとっては、システムにアジャストし、ディフェンスの連動を高めるまで時間がかかることもある。初めて経験する宮永雄太ヘッドコーチのバスケットに対して、阿部はやりにくさを感じていないと話し、「勝てていないのは戦術的なことよりも、自分たちのミスです。それはみんな同じように思っています」と全幅の信頼を寄せている。
「大枠は宮永ヘッドコーチが決めてくれますが、細かい部分は僕たちに委ねてくれます。そこにはやりやすいですね。しっかりと役割をもらっているので、このバスケットで宮永ヘッドコーチを勝たせたい気持ちは強いです」
「金丸さんにパスすればボーナスタイム」
オフェンスに目を向けると、チームでの3ポイントシュートがリーグ3番目(平均31.3本試投)にもかかわらず、成功率はリーグ22位の32.0%と伸び悩んでいる。
「3ポイントの確率が悪い試合は、試投数が多くなっています。そういう試合で共通しているのはペイントタッチが少なくて、外で回して時間がなくてシュートを打つみたいな……。ペイントタッチの改善は求められることですね」
より効果的に3ポイントシュートを打つために、ペイントへのアタックは不可欠である。阿部が「そこは僕の1番の役割だと思っています」と話す通り、阿部のドライブにより良いクリエイトがかかっている。
今シーズンは、阿部に加えて内尾聡理も加入し、アタックを仕掛けられる選手が増えた。外国籍ガードのガルシアはインジュアリーリストに登録されているが、昨シーズンまで一手に担っていた角田太輝も含めて、ドライブからのキックアウトができるロスターを築いている。
「どのチームも角田を抑えにくるので、僕や内尾がアタックすれば角田もドライブやシュートがやりやすくなります。ここまでは彼に負担をかけてるので、もっと減らしてあげたい気持ちがあります」と阿部はボールシェアする意識を持つべきだと考えている。
このような役割は数字にも表れている。阿部のアシスト数は平均5.4本を記録しており、キャリアで最も高い。阿部は「僕がドライブしたときにチームメートがスペース見つけて合わせてくれるので、みんなのおかげです」と語り、今シーズン平均51.6%で3ポイントシュートを決めている金丸晃輔の存在も大きいと言った。
「1番は金丸さんのおかげです。ボールを渡せば決めてくれるので、めっちゃくちゃ安心してます。トランジションでも逆サイドの45度まで走ってくれるので、そこにパスすればボーナスタイムと言いますか(笑)。 金丸さんのおかげで僕はスペースがある中でプレーさせてもらってます」
ただし、アシストが増えている以上に反省点もあると続ける。「アシストが増えた分、ターンオーバーも増えてしまっています。もったいないですし、申し訳ないです」
「もう1度CSに挑戦できる位置に持っていきたい」
中断期間を終えると、アルバルク東京、シーホース三河、琉球ゴールデンキングスと上位チームとの対戦が続く。「僕らが上に行くためには勝たなければいけない相手です。このバイウィークで自分たちのバスケットを取り戻せば、上位とも引けを取らないバスケットができると思います」と阿部は兜の緒を締める。
強豪に勝つために何が必要かと問うと「アグレッシブなディフェンスとリバウンド、ポジションバトルで負けないことが重要です。オフェンスは文句なしに良い選手がいるので」と返ってきた。やはりチームのアイデンティティであるディフェンスを始めとしたハードワークがカギとなる。
黒星先行とはいえ、レギュラーシーズンはまだ42試合残っている。チャンピオンシップ(CS)進出はまだまだ現実的だ。阿部は島根スサノオマジック所属時にCS出場経験があるが、直近3シーズンはその舞台に立てていない。だからこそ、CS出場への思いは強い。
「CSは2度出場してファイナルまで届かなかったですが、やはりあの場所は特別です。もう1度、選手として挑戦できる位置に持っていきたいなと。そのためには、僕が貢献して勝たせていかなければと改めて思っています。もっと出来るんだぞというのを練習からしっかり出していきます」
佐賀はホームでB2ファイナルを開催したことがあるが、B1のCSを経験して佐賀を盛り上げたい気持ちが強いと阿部は続ける。「島根も佐賀も地方のチームで、CSをホームでやることは地域の活性化になり、街が元気になります。試合の熱量もお客さんの盛り上がりも、レギュラーシーズンとは全然違うと島根の時に感じたので、佐賀でCS開催して最高の舞台を感じてほしいです」
阿部は攻守でチームを引っ張る存在として佐賀に来た。力を発揮できる試合もあるが、想定以上に勝利まで遠い。しかし、誰よりもアグレッシブにコートを駆け回る阿部であれば、チームの未来を切り開いてくれるだろう。
「まだ42試合あるので、ここから一つひとつ成長しながら戦っていきたいので、ファンの皆さんには後押しをしていただけるとうれしいですね」。阿部の言う通り、まだまだ序盤戦。ここからの佐賀の巻き返しに期待だ。


