ヨキッチの控えで「倒れるぐらい全力を出し尽くす」

ヨナス・バランチュナスは33歳のベテランで、キャリアの大半を先発センターとして過ごしてきた。しかし昨シーズンはウィザーズとキングスという勝てないチームを渡り歩き、活躍の場も限られた。どちらのチームからも中長期の構想に含められず、モチベーションを保つのが難しいシーズンを経て、彼は13年のNBAキャリアに区切りを付け、ギリシャのパナシナイコスに移籍する決意を固めていた。

しかし、そのキャリアプランをナゲッツが変えた。ダリオ・シャリッチとのトレードをまとめ、バランチュナスを獲得したのだ。

ラプターズ、グリズリーズ、ペリカンズと渡り歩いたバランチュナスが、優勝を現実的な目標に掲げるチームに所属するのは初めてのこと。ユーロバスケットでリトアニア代表をベスト8に導いた後、ほとんど休暇を取らずにデンバー入りしたバランチュナスは言う。「2週間も休めば十分だ。優勝のチャンスがある以上、それをつかみ取るために何だってやるつもりだ」

こうして始まったNBAキャリア14年目。加入当初に「標高に慣れないとひどい姿を見せるかもしれない」とジョークを飛ばしたが、『マイル・ハイ・シティ』(デンバーは標高1600メートル)でも力強いプレーを見せている。とはいえ、彼の役割はNBA最強のポイントセンター、ニコラ・ヨキッチの控えだ。開幕から9試合すべてベンチからの出場で、出場時間はキャリア最少の平均12.6分。スタッツも軒並み落ちている。

ヨキッチの控えは、今のNBAで最も難しいポジションだろう。これまでにも多くの選手が挑戦してきたが、誰も定着できなかった。メイソン・プラムリーやボル・ボルのようにヨキッチのスタイルを真似てアシスト能力を磨く者もいれば、ディアンドレ・ジョーダンのように自分のスタイルを貫く者もいた。しかしナゲッツが求めるのは「ヨキッチが安心してベンチで休めるレベル」であり、誰もその基準を満たせなかった。

昨シーズン、その役割を担ったシャリッチは攻守のシステムを理解できず、開幕早々にローテーション外となった。その後任としてやって来たバランチュナスは、ヨキッチのプレーを模倣するのではなく、自分らしい持ち味を生かすことで、限られた出場時間でも最大限の結果を残そうとしている。

「ナゲッツに来られて本当に良かった。僕は勝つチャンスを求めていたし、このチームは才能ある選手たちが一丸となって勝利のために努力している。単純なことのようだけど、こうした環境はそう簡単に見つからない」とバランチュナスは語る。

今の彼は、目標を持たないチームで30分プレーするよりも、優勝を狙うチームで10分プレーすることにモチベーションを見いだしている。

「だからこそ、全員が自分の役割を理解しなければいけない。誰もが30分プレーできるわけじゃない。僕はプレータイムが5分でも、倒れるくらい全力を出し尽くすつもりだ。スタッツには残らないような小さな仕事かもしれないが、それがどれほど重要か、このチームの選手たちは理解している。目の前の試合に全力を注ぎ、すぐに心身をリセットして次に臨む。そうやって長いシーズンを戦えばものすごく疲弊するだろうけど『勝てるチーム』とはそういうものさ」

試合展開によって彼に求められる役割は変わるが、チャンスが巡って来た時には確実に結果を残す。サンズ戦では13分で12得点7リバウンド、ウォリアーズ戦では16分で16得点6リバウンドと、スタッツを残すべき状況であれば「倒れるぐらい全力を出し尽くす」姿勢でスタッツを残す。プレータイムの長短にかかわらず、彼は与えられた役割を喜んで受け入れ、コートに立つたびに信頼を積み重ねている。

「20歳でNBAにやって来た時、13年後もプレーしているとは思っていなかった。でも、そのために必要な努力はしてきたつもりだ。だからこそ14年目にナゲッツに来られたと思う。今はキャリアで最大のチャンスを迎えている。この競技がチームスポーツであり、エゴを脇に置くことが成功への道だと学んだ。時には自分の活躍より、仲間を支えることが勝利に繋がる。そうした小さな振る舞いが最高のチームを築き上げるんだ。出場時間は気にしていない。もしコートに立てなくても、ベンチから誰よりも大きな声でチームメートを支える。それが僕の役割であり、勝利への貢献だと思っている」