ストーム・ファミリーの一員として完全に定着している
シアトル・ストームの2016年ホーム開幕戦は、予想を上回る盛り上がりでスタートした。
ストームの本拠地、キーアリーナには約1万人の観客が集まり、周辺は試合前から大混雑に見舞われた。今シーズン開幕から1週間が経ち、1勝1敗で迎えた前年度チャンピオン、ミネソタ・リンクスとの対戦。この試合を一つの軸としチームの現時点の仕上がり、今後の目標が決まってくる、とチームやファンが重要視する試合だ。
プレシーズンからすでに確立されているドラフト1位加入のブリアーナ・スチュワート中心の攻撃。試合開始と同時にチームの司令塔スー・バードの指示を得てオフェンス体勢に入りブリアーナのシュート。「話題のコンビ」を目にして客席からも大声援が飛ぶ。
スターティングメンバーに名前が挙がらなかったものの、試合開始7分で登場した渡嘉敷来夢。『Ramu Tokashiki!!』のアナウンスが会場に響くと客席からは「RAMU」の声が投げ掛けられた。
シーズン開始前のインタビューでヘッドコーチのジェニー・ボウセックが 渡嘉敷はチーム、ストーム・ファミリーの一員として完全に定着しているとコメントしたが、それを証明するシーンでだった。ゲーム中も終始チームメートと指示を頻繁に交わし、自ら指をさしながら積極的に位置を確認する姿も見られた。
コート全体を見回し、WNBA選手に引けを取らない渡嘉敷の体格とプレー。唯一の日本人選手でありながら、それに違和感を全く感じさせないことに驚く。長身のブリアーナと渡嘉敷が左右に動くと必然的に相手チームのディフェンスがつられるように左右に動き、そこを狙って前年度最優秀新人のジュエル・ロイドが真ん中を素早く割ってシュートを狙ってくる。注目のブリアーナを制しても後ろには渡嘉敷、ジュエル、スーが待ち受けているのだ。この形はストームの攻撃に厚みをもたらしている。
しかし今回の試合で目立ったのは渡嘉敷のディフェンス力だ。第3クオーター開始時点で渡嘉敷はベンチにいたが、渡嘉敷不在のディフェンスはミネソタ・リンクスの当たりの強い攻めに崩されかけた。たちまち渡嘉敷をコートに戻したボウセック監督には、渡嘉敷がディフェンスの要として欠かせない選手になりつつあると感じたのではないだろうか。
自分の役割に全力で立ち向かう渡嘉敷の熱意と努力
日本からストームに移転し、最初に渡嘉敷に出された大きな課題、それがディフェンス力の強化だった。日本では右に出る者はいないと言われた逸材。高さ、スピード、得点力、どれを取っても日本一、アジアでナンバーワンの選手ということを十分理解した上での、指揮官からの要求である。
またブリアーナ加入でチームの組織そのものにも大きな変化があった。渡嘉敷もその変化に戸惑いを感じる部分もあるだろう。ディフェンスに重点を置くことで得意分野のオフェンスとのバランスには変化が生じる。そのような環境の下、自分の役割に全力で立ち向かう渡嘉敷の熱意と努力にチームからの信頼も確実に芽生えている。監督自身も「日本バスケ界のスター選手である渡嘉敷が謙虚にチームのために尽くしている姿には尊敬を感じる」と称賛している。
若い選手が集まるシアトル・ストーム。女王ミネソタ・リンクス戦では相手の当たりの強さと集中力に押される部分もあり71-78と惜しくも敗戦となった。残り時間が少なくなった第4クオーターでは両手を叩き大きな声を出し喝を入れる渡嘉敷の姿があった。69-76と大差が付くのを阻止したシュートを決めたのは渡嘉敷。このプレーはストームが選ぶ週間トップ10プレーに選ばれる、まさに試合の流れを変えた一発だった。
大学4年連続女王のブリアーナ、日本で負け知らずの渡嘉敷、この2人がWNBA女王から学び、感じ取ったものは決して小さくないはずだ。勝利への執着心が強いこの2人が、敗戦の経験を通して今後どういった形で自分をプレーで表現し、チームに勝利をもたらしていくのか。これが今年のシアトル・ストーム、WNBAの見どころだと実感した開幕戦だった。