並里成

ファイティングイーグルスの絶対的司令塔であり、小学5年生の息子を育てるシングルファーザーでもある。並里成は父の背中を追うようにバスケットを始めた我が子に、今度は背中を押されるようにして成長しているという。36歳で迎える今シーズン、そしてキャリアを通して追い求めたいものを聞き、全3編(前編中編)のインタビューを締めくくった。

父も一人の人間であるということを伝える

──お子さんが大きくなるにつれて、「息子には負けられない」というある種のライバル意識も生まれそうですね。

そうですね。小学生は3ポイントのルールがないんですけど、息子は外から打って良いクラブチームにいて、こないだは1試合で10本中8本くらい3ポイントを決めていました。もう数字的には僕を上回ってるなっていう(笑)。本当にステフィン・カリーみたいな感じで、冗談抜きでシュートの確率は僕より高いです。

──かつての並里選手とは真逆のプレースタイルです(笑)。

そうなんです。僕は小学生のころシュート練習をよくサボっていたので、息子にはそうなってほしくなくて。まだ試合をすることが一番楽しい時期ですし、地味なことはやりたくないとは思うんです。ボールハンドリングの練習とか、人が見えないところで地道に努力するのは簡単なことではない。だから「バスケがうまくなるためにはやらなきゃ」というマインドに変わるまでは僕がプッシュするしかないのかなと。あと数年したら自分で気付いてやると思うので、今はとにかく僕がバスケットに注いでいる努力をすべて彼に見せて、努力をうながしています。

──昨シーズンは3ポイントシュートの成功率が上がりました。息子さんの影響もありますか?

あります。僕は休日のほとんどを彼と一緒にバスケをして過ごしているので。「体育館に行く?」って言ったら「行く」って言うんで、一緒に行って、バスケをしたりシューティングをしたり。その積み重ねが結果に結びついてきているのかなと思いますね。

──お子さんに愛情を注ぐ中でも、「ここだけは自分のことを優先させる」というタイミングが当然あると思います。構ってあげられず、さみしい思いをさせるようなときにはどのような思いを伝えていますか?

さみしい思いもしているでしょうが、僕も1人の人間だということをすごくストレートに伝えます。「ここの時間は自分で使うから適当にやっておいて」とか、普通に言いますよ。最近はパーフェクトに子育てをやろうとせず、1人の人間として接しても良いのかなと思うようになりましたね。だから怒る時は怒りますし、「今は忙しいから」みたいなことも全然言います。それはそれで良いのかなって。彼も理解してくれていると思います。

──練習場にもよく顔を出しているし、アウェーの試合にも帯同して同じ部屋に泊まると聞きました。父親がどれだけ仕事に真剣に向き合ってるかを間近で見せられることは大きそうですね。

そうですね。そういうことをチームとして受け入れてもらっていることはすごくありがたいです。練習のミーティングにも入って話を聞いてますし、試合に行くまでのすべての過程を本人は見ている。彼にとって本当に素晴らしい機会だなと思っています。

並里成

「まだ何も残せていない気はしている」

──Bリーグにシングルファーザーの選手がどれだけいるのか把握していませんが、チームを移籍する際の契約交渉で、お子さんのサポート環境についても取り決めを行うというのは大多数の選手が経験しないことなのではないかと想像します。大変ではないですか。

そうですね。彼にとっても良い環境でなくてはいけないので、僕1人で勝手にチームを選べない。そこはすごく大変ですね。

──お子さんのサポート環境が整っていないチームには行けないわけですものね。

そうですね。少なからずそういうことを理由に声をかけないチームもあるんじゃないかなと思っています。シビアな世界なので、そこはもちろん僕も理解していますが。

──今日は貴重なお話をありがとうございました。今シーズン、並里選手はどんなプレーを見せたいですか?

昨シーズンよりもディフェンス力を上げられるかな。あとはアシストも得点も去年より増えると思っています。僕自身がゲームを支配する時間帯が増える気はしています。まあでも、一番は勝ちたい。チームを勝たせることが僕の個人の目標なので、そこを一番に考えてやっていきたいです。

──ベテランの年齢に差し掛かり、『残りの時間』を意識することもあるかと思います。どのようなビジョンを描いていますか?

プロ選手としてまだ何も残せていない気はしているので、何かを成し遂げるまでは現役を続けたいし、なんとか何かを成し遂げたいとは思っていますね。

──「何か」を具体的に言うとしたら、チャンピオンですか?

そこももちろんですし、個人としての賞でも。Bリーグが始まったころはアシストランキングとかも2位止まりのことが多かったんですよね。スタッツにこだわろうと思ってプレーしたら取れたかもしれませんが、バスケットに対するベースはやっぱり変えたくない。スタッツでなく勝ちにこだわるというところをベースにしながらも、結果が残せたらなとは思っています。そして『ベストファーザー賞』をください。本当にください(笑)。