日本バスケ界を代表するファンタジスタとして、多くの後進たちに影響を与えているファイティングイーグルス名古屋の並里成は、小学5年生の息子を育てるシングルファーザーとしての顔も持っている。第一線で活躍するバスケットボール選手であり、ひとり親であることの苦労と喜び。愛息について話すとき、並里の瞳は一気に輝きを増した。
オフの過ごし方は身体のケアと父親業
──ちなみにオフシーズンはどのように過ごされましたか?
今年は食事をがっつりとって、ウエイトトレーニングもしっかりやって積み上げました。あとは後輩を連れてあちこちのバスケットボールキャンプに行ったりして、とにかくバスケ尽くしでした。
──息子さんの夏休み中は大変だったのではないですか?
夏休みは自分のルーティンに息子を巻き込めるので楽なんですよ。彼もバスケットをやっているので、僕がシューティングしたいときは一緒に連れて行ってシューティングをするとか、一緒に行動できるので。逆に学校が始まってからのほうが、宿題とか下校時間とかバスケの送迎とか、細々した予定が入ってくるので忙しいですね。自分の練習がない日は、息子が学校に行っている間に身体のケアをして、帰ってきたらお父さんをしています。
──広報さんから「去年の開幕前よりも身体が仕上がっている」とうかがいました。新たに考え方やアプローチを変えたのですか?
「今年から変えた」というより「いつも通りに戻った」という感じです。去年は引っ越しも含めて忙しすぎて、バスケをしたりトレーニングする時間があまりとれなかったんです。
──昨シーズンはレギュラーシーズン全60試合に先発出場し、平均23.12分出場、7.9得点、2.5リバウンド、4.3アシストと素晴らしいスタッツを挙げています。ベテランである並里選手が、開幕前に十分にコンディションを整えられない状態でこれだけのパフォーマンスが出せたのはなぜだったと思いますか。
年々、自分のできることとできないことがクリアになってきたからですかね。「まだできる」というものも見えてきて、もっともっとバスケットを追求したいという気持ちになっています。あとは息子が自分と同じような練習メニューに取り組めるくらいのレベルになってきているので、息子に良い背中を見せたいという思いも強まっています。
──Bリーグの島田慎二チェアマンと並里選手が対談されている動画で、お子さんの将来も視野に入れてFE名古屋に移籍したとお話しされていましたね。「将来」にはバスケットボールの環境も含まれますか?
そうですね。名古屋は小学生年代のバスケレベルがすごく高いので、オファーをもらった時に決め手の一つとなったところもあります。
自信を持って「子育てとバスケを両立している」と言える
──私事で恐縮ですが、私にも小学生の子どもがいて、習いごとの送迎、宿題のチェックなどで自分の仕事の時間を制限されることによくストレスを感じています。並里選手はこういうことをポジティブにとらえられていますか?
あ~、正直とらえられていないです。
──安心しました(笑)。
ただ、最低限のことはできていると思うので、そこをクリアすることへの達成感はすごくありますね。「忙しいけど暇よりはマシだし」と思いながら。なんて言うんですか、自分に酔っているというか、そういう感じになってしまうんですよね。「忙しい自分も悪くないな」と思いながら(笑)。
──「あれができていない、これもできていない」と考えるよりも気持ち的に楽かもしれませんね。
今年からスケジュールカレンダーを作って、2週間分くらいのスケジュールを1時間刻みで書くようにしているんです。この時間はお迎え、この時間はごはん、この時間に息子をバスケに送って、その間にケアを入れて、と。これをやっておくと、頭で考えなくてもスケジュールを見ただけで「あ、次はこれだ」って行動できるので、生活がものすごくスムーズになりました。
──若いころの並里選手はなかなかに「うちなータイム」だったと聞いています。細かくスケジュール管理をしながら生活しているご自身を想像できましたか?
それをやらなかったら、子育てもバスケットも仕事も全部中途半端になるので。そこは自分の中で言い訳にしたくないですし、今は本当に自信を持って「子育てしながらバスケットをやっているぞ」って言えます。『ベストファーザー賞』とかないんですかね(笑)。
──『バスケット・カウント』で良ければ喜んで贈呈させてください(笑)。
はい、本当にください(笑)。「こんなお父さん、絶対他にいないでしょ」って思うんですよ。
──ぜひこの記事を通して世に広く伝えさせていただきます!子育てと仕事を両立する秘訣は何だと思いますか?
なんでしょうね。情熱ですかね。息子のことも好きですしバスケットのことも好き。2トップなので、ここだけは妥協できないっていうところですね。それが自分を常にプッシュしてくれますし、夢中にさせてくれますし。子育てに関してはいつもバタバタしているんですけど、全然ストレスになっていないんです。というのも、息子が自分と同じバスケをしているっていうことが自分にとって一番の助けになっているから。やっぱり男同士でやること全部を見せられるっていうところは大きいです。
昨日は風呂上がりにストレッチを教えました。「最近サボってるでしょう。ストレッチしなかったらケガするよ。ケガしたらうまい選手でも生き残れないよ」って話しながら。そういうふうに常にバスケットボール選手としてのマインドセットを教えながら生活しています。