文・写真=鈴木栄一

大阪との『最終決戦』でチームを連勝に導くエースの働き

5月7日、琉球ゴールデンキングスは大阪エヴェッサに80-72で勝利。この結果、逆転で西地区2位となり、チャンピオンシップ最後の切符をつかんだ。レギュラーシーズン最終節を前に琉球がチャンピオンシップ出場を果たすには、1ゲーム差で追う大阪に連勝することが条件だった。そんな中、6日の試合では第3Q終盤に20点の大量リードを許してしまうが、この絶体絶命の危機から追いつき延長戦に持ち込んで勝利を収める。

そして7日の試合、琉球はこの劇的勝利の勢いを持ち込み第1クォーターで26-14とリードを奪い、試合の主導権を握る。途中、第3クォーターに追い付かれる場面はあったが、試合全体を通して見ると終始、琉球ペースで進んだ試合であり、第1クォーターでの2桁リードが効いた試合となった。その第1クォーター、琉球を牽引したのが岸本隆一で、このクォーターだけで11得点。試合を通しても18得点5アシスト5リバウンドの活躍で勝利の立役者となった。

試合の勝因について、岸本はこのように振り返る。「昨日の良いイメージのまま試合に入れました。僕自身、第1クォーターから気分良くプレーできました。その分、相手のマークを引き付けて仲間を生かそうと思いましたし、出だしからイニシアチブを取れました。そして試合を通してうまくいかない時、チームとしていかに次のプレーで良くすることに集中できたことが良かったと思います」

また、第3クォーターに入り、なかなか点数が入らない膠着状態を乗り越えた部分については、試合中に的確な状況判断ができたと語る。「シゲさん(金城茂之)、マック(アンソニー・マクヘンリー)とゴール下へのアタックを強調して攻めているのが、うまくいっていると見ていて思いました。自分も外が当たっている分、中へのアタックを意識。試合中に何が良いのか、悪いのかをしっかり判断しながら攻めることができました」

お客さんの喜んでいる姿を見られたのが何よりも良かった

岸本が強調するのは、ホームの圧倒的な声援に代表されるファンのサポートだった。「ホームで戦えたことこそ、僕らがチャンピオンシップに行けた一番の理由だったと思います。会場に来てくれた方だけでなく、いろいろな場所で応援してくれた方々のおかげで勝てました。チャンピオンシップ進出を決めてうれしいですが、それ以上にお客さんの喜んでいる姿を見られたのが何よりも良かったです。」

昨季まで琉球はbjリーグで勝率8割以上を続ける圧倒的な強さを誇っていた。しかし、Bリーグとなり旧NBLチームとも対戦する中、予想されていたこととは言え、これまでのように勝てない日々が続いた。

「勝率も5割以下ですし、厳しいシーズンでした」と岸本も語るように、チャンピオンシップ出場こそ果たしたが、成績自体は満足できるものではない。だが、「勝率以上にバスケットボールを通して人を巻き込む。一人ひとりのワンプレーで、いろいろな人にいろいろな感情を与えられる。これは今年、Bリーグとなってより感じたことであり、キングスの選手でいられることをすごく誇らしく感じます」と、どんなに大差で負けていてもブーイングではなく、声援を送り続けてくれた周囲のサポートについて改めて感謝の思いを強くしたシーズンであった。

そして、苦しい時期を乗り越えられたのは、どんな時でも自分たちの信じるバスケットボールをブレずに貫いたことが大きかったと振り返る。「強いていえば、うまくいかない時は何を信じて続けていくのかいいか、それぞれ迷いがあった中で低迷していました。しかし、結果が伴わなくても自分たちが培ってきたことをやり続けることの大切さをここに来て実感しました。今日の時点でも、もっと良いバスケットができる。続ける素晴らしさをシーズンを通して感じています」

スランプ脱出は「その時のベストを尽くした結果」

チームだけでなく岸本自身にとっても、シーズン中盤まではBリーグになってより高く、強くなった相手のマークに苦しみ思うようにシュートが入らず、持ち味である得点力を発揮できない試合も少なくなかった。オフェンスがうまく行かないと焦ってより外からの単発なシュートを打ち、それが入らずに相手に速攻を許してしまう。これは琉球のチームオフェンスが悪い時に陥る典型的なパターンだが、それは岸本のプレースタイルにも当てはまっているところがあった。

しかし、シーズン終盤にかけて復調。それは4月以降の13試合において1試合平均13.4得点、3ポイントシュート成功率42.6%を含むフィールドゴール成功率44.9%という数字にも出ている。この成績アップは、シュートや得点に直結するパスではないアシストの前のアシストとなるゴール下へのアタックなど、フィニッシャーではない部分でのプレーを効果的に出せることによって導かれたものだ。

「もちろん簡単に勝負できるわけはないと思っていましたが、『ここまで厳しいか』というのが最初は正直ありました。もっとできると思っていました。でも、苦しい時期もその時のベストを尽くした結果が今につながっていると思います」

「自分がラストパサーにならなくても、不思議とチームのためのプレーをしていくと自分に返ってくるという感覚が、ここ最近はすごくあります。良い意味でこだわりを持たない。得点、アシストに執着するわけではない、その時その時に必要なプレーを選択することが今の自分にとってベスト。そこをすごく学べましたし、プレーオフでも続けていきたいと思います」

このように語る岸本は来るべきシーホース三河とのクォーターファイナルについて「ここからは順位は関係ない。どれだけ僕らがチャレンジできるか。とにかく攻めの姿勢を持って戦っていきたい」と意気込みを語る。プレーの多彩さを増したスコアリングガードがこの2日間のように躍動できるのか。そこが琉球がジャイアントキリングを起こす鍵となってくる。