文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

『消化試合』とは無縁、新潟の誇りに満ちた戦い

新潟アルビレックスBBの五十嵐圭が、最終節になって『リーグ開幕以来最高』の劇的ブザービーターを決めた。

横浜ビー・コルセアーズをホームのアオーレ長岡に迎えての第1戦。横浜は残留プレーオフ行きが決まっているが、富山を上回ってホーム開催を勝ち取るという目標がある。逆に新潟は目標のない『消化試合』だった。

残念な話ではあるが、このリーグ終盤に明らかにコンディション調整をするチームが散見される。最終的な目標を達成するための『プロフェッショナル的な判断』と言えば聞こえはいいが、公式戦で目の前にいる観客を二の次にする行為は、決して気持ちの良いものではない。

新潟にチャンピオンシップはない。だが、ただ目の前の試合を必死に勝ちに来た。それは『日本初のプロバスケットボール』としての誇りなのか、残留に向けた可能性を少しでも高めようと必死になっている横浜の闘志に触発されたのか──。第3クォーター以降はほとんど点差の離れない大接戦となったこともあり、終盤まで全力の攻防が繰り広げられた。

そんな中、新潟のポイントガードである五十嵐の動きは際立っていた。第4クォーター残り1分19秒の時点で、守備陣の間をスルスルと通り抜けてイージーレイアップを決めている。周囲がよく見えており、身体のキレもあったのは、このプレーから見ても分かった。

その後、横浜のエース、川村卓也にポイントシュートを決められ逆転を許すが、ダバンテ・ガードナーがバスケット・カウントをもぎ取り、ワンスローも決めて突き放す。だが横浜も負けられない。自分に注意を引き付けた川村からパスを受けた細谷将司が、フリーのチャンスを逃さずジャンプシュートを決めて同点に追い付いた。

残り2秒からの劇的弾「打った瞬間、軌道も良かった」

72-72の同点、残り2秒。横浜の選手たちは延長戦に意識が向いていた。プレー再開でボールを受けた五十嵐へのプレッシャーは弱く、難なく前を向くことができた。自陣のフリースローラインあたりから、軽いステップとともに勢いを付けて放ったボールは、ブザーが鳴り響く中そのまま真っ直ぐリングへと吸い込まれた。

劇的な決勝ブザービーターに新潟ブースターは総立ち、そして横浜のベンチ裏を占めた多くの横浜ファンは静まりかえった。

「ブザービーターは久しぶりです。打った瞬間、軌道も良かったし、入って良かったです」と試合後に語った五十嵐。「チャンピオンシップ進出がない中で、これだけ多くのファン・ブースターの方に来ていただいたので、勝利を届けたいと思っていました」と、『消化試合』に集まった3594人の観客への感謝を口にした。

庄司和広ヘッドコーチは決勝ブザービーターについてこう語る。「内容は良くない試合でしたが最後は圭の劇的な得点で勝利できました。決めた圭もすごいが、何より会場のブースターの皆さんが作る雰囲気、選手の気持ちを高める声援には本当に感謝しています。皆さんの気持ちが乗り移ったシュートだと思っています」

リーグ最終節、どのチームも事情を抱えながら戦っているが、目の前の観客に対して真摯にプレーすることはプロとしての大前提。明日のレギュラーシーズン最後の試合で各チームがどれだけのパフォーマンスを見せるか、Bリーグの成熟度が問われると言っても過言ではない。