文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

敗戦から得た課題を消化し、第2戦での川崎撃破を実現

4月22日に行われた川崎ブレイブサンダースとの第1戦は、どう評価すればいいのか難しい試合になった。サンロッカーズ渋谷は最悪の立ち上がり。攻守ともにプレー選択が遅く、オフェンスではボールを動かすことができず、ディフェンスでは散々に崩された。やられ始めると積極性を失ってしまい、打てるチャンスでも打たずにオフェンスは停滞し、ディフェンスでも受け身に回り、第1クォーターを終えて8-28と20点差を付けられた。

その後は互角以上の攻防を繰り広げるも、川崎相手にこれだけのビハインドを背負うと挽回するのは容易ではない。アイラ・ブラウンは「出だしが非常に低調で、難しい試合になった」と振り返る。「戦術的にもメンタルの部分にも問題があった。川崎とは何度も試合をしているが、相手のほうが我々のプレーをよく研究して準備してきた。試合に入るという準備の面でも、相手が強いチームだということで緊張した部分があったかもしれない」

そう語る一方で「第2クォーター以降は僕たちも変化を付けて対応し、良い戦いができた。26点差からクロスゲームに持ち込んだのは我々の力、よく競えた部分だと思う」と自信ものぞかせた。

翌日の第2戦、アイラは自身が語った自信が虚勢ではないことをコート上で示した。戦術的にもメンタル的にも『準備』をしっかりと整えたSR渋谷は、開始約4分で15-3と見事なスタートを見せる。アイラは最初のポゼッションで3ポイントシュートでの先制点を挙げ、ディフェンスリバウンドを押さえて速攻の起点となり、アキ・チェンバースの3ポイントシュートをアシスト。スタートダッシュの原動力となり、チームはそのままリードを保ち続け84-71と快勝した。

「残り試合はまだあるので、そこでも進化できる」

2試合を通じてSR渋谷の武器である3ポイントシュートがよく決まった試合、ビッグラインアップの中でインサイドにボールを入れて相手守備陣の注意を引き付けたからこそ、多くのシュート機会を得ることができた。そしてアイラもサクレもスクリーナーとして3ポイントシュートを狙える機会をセットし続けた。

チームの進化は最初の想定よりも時間がかかっているのかもしれない。それでも、アイラとサクレの4番5番のコンビネーションが確立し、攻守に恐るべき存在感を発揮しつつある。インサイドに軸ができたことで、他の選手も持ち味を発揮しつつある。シーズン終盤ではあるが、川崎と互角の戦いを演じ、1勝1敗と結果を出したことには大きな意味がある。

アイラは言う。「ウチは昨シーズンからキープレーヤーが大きく変わっている。(竹内)譲次や(ジョシュ)ハイトベルト、木下(博之)が抜けて新しいチームになり、お互いを知る努力をしてきたけど、なかなか形にならなかった。後半戦になってそれぞれが自分のプレーを出し、僕たちが求める姿になってきた。残り試合はまだあるので、そこでも進化できると思っている」

長いレギュラーシーズンも残り5試合となった。SR渋谷は中地区2位の座を三遠ネオフェニックスと争っており、同時にワイルドカード下位のチャンスもあるが、いずれも予断を許さない状況だ。特に三遠が下位チームとの対戦しかない一方、SR渋谷や川崎戦を2試合、最終節に残している。先週の1勝1敗は自信になっただろうが、次は連勝が求められることになりそうだ。アイラが言う『進化』が、その時点でどのレベルまで進んでいるかでチームの明暗が分かれることになる。

母校ゴンザガ大の準優勝は「残念だけど誇りに思う」

余談ながら、NCAAトーナメント決勝に進出したゴンザガ大はアイラの母校だ。ノースカロライナ大に敗れて準優勝に終わったことについて「悲しかった。本当に優勝できるだけの力があるチームだと思っていたから」と彼は言う。「僕もできることなら会場に行って、優勝の喜びを分かち合いたかったぐらい。負けてしまって残念だけど、彼らはゴンザガ大の歴史の中でも大きなことを成し遂げた。その点では誇りに思える結果だった」

フレッシュマン(1年生)でプレータイムは短かったが準優勝に貢献した八村塁については「あの場所にいたことが大きな財産になる。彼には才能があるし、アメリカのカルチャーにうまく適応することでNBAも目指せる。頑張ってほしい」とエールを送った。

ゴンザガ大は連帯感が強く、卒業生も繋がりが強い。アイラもオフになればゴンザガ大に戻り、OBや現役生たちとともにワークアウトを行うのを通例としている。「今年ももちろん行くよ」というアイラ。八村にとっては心強い『先輩』になってくれそうだ。