本橋菜子

ヴィッキーズを背負う覚悟で代表サバイバルに挑む

吉田亜沙美が引退した後、日本代表のポイントガードを誰が務めるのか。2016年のリオ五輪では吉田が圧倒的な存在感を見せたが、2017年はケガもあって控えに回り、2018年には代表活動自体を回避。その中でリオ五輪で2番手だった町田瑠唯、JX-ENEOSサンフラワーズでも吉田の薫陶を受けて2017年のアジアカップで大会ベスト5になった藤岡麻菜美、そして2018年に台頭した本橋菜子の3人が日本代表のポイントガードに定着した。それでも、いまだ吉田の存在感を埋めるには至っていない。ここから誰が一歩抜け出して先発の座をつかむのだろうか。

今年の代表活動は始まったばかりだが、ヘッドコーチを務めるトム・ホーバスは今週の代表合宿で「今の時点では先発は本橋」と名前を挙げている。スピードを生かしてドライブで中に切り込み、自ら得点を狙える攻撃的な本橋について「判断する力が素晴らしい」と指揮官は称えた。

この言葉を聞けばさぞ喜ぶだろうと思いきや、当の本人は「うーん……」と考え込んだ後に困ったような笑みとともに「実は、感触は全然良くないんですよねえ」と明かす。「練習が始まったばかりで、今回はオフ期間が2カ月ぐらいと長かったので、バスケットの感覚が取り戻せていなくて、シュートタッチも良くないし、判断力もまだまだ。なんでそう言ってもらえたのか……。私としてはベルギー戦に向けてちゃんと戻していかないといけないな、って感じてます」

本橋菜子

細部へのこだわり「練習でやったことが結果に表れる」

本橋はポイントガードとしての序列にもあまりこだわっていない。自分が先発で出るというイメージは「ないんです(笑)」と素っ気ない。むしろ、先発でゲームを組み立てるとか、ベンチから出て流れを変えるとか、そういう想定をしていないと話す。

「先発とかベンチスタートとか、あまりそういうことを考えていなくて、自分が出た時間に自分のプレーを全力で出すこと、やれることをやりきりたい、そういう思いが強いです。結果はその後についてくるものなので。『先発になりたい!』って強い気持ちも大事だと思うんですけど、私はそこのこだわりより、自分が出た時間に自分のプレーで貢献できればと思っています」

だからこそ、全力でやるべき『自分のプレー』に対するこだわりは強い。「自分のチャンスを逃さないことを一番にやりたいです。空いたらシュートを打つ、そこで出てきたらドライブ、行けるならそのまま行くし、カバーが来たらキックアウト。それをシンプルにやっていきたい」

もう一つは細部への徹底ぶりだ。メディアに公開された練習では、ボックスアウト、ピック&ロールの守り方と守備のメニューが続く中、本橋のプレーの強度や精度の徹底ぶりが目立った。バンプやシュートチェックの一つひとつにこだわる姿勢がある。「そういう細かいところは自分でもこだわっているつもりなので、見ていてもらえるとうれしいです」と本橋は言う。

ポイントガードに対しては、日本の速い展開、パッシングを作り出す部分ばかりを見てしまうが、世界と戦う上ではプレーの強度や遂行度は確実に求められている。164cmの本橋が代表に定着できたのは、ここでサイズの不利を補っていることが大きい。

「そこはトムさんも絶対見ているし、絶対に試合に繋がってきます。もともとこだわっていたつもりだったんですけど、去年の代表合宿に参加して『ここまでやるのか』と衝撃を受けました。その練習でやったことが結果にも表れたので、それは個人としても自信になったし、ここまで細かいところを徹底することがチームの強さにも繋がっているんだと分かりました」

本橋菜子

「日本の皆さんに日本代表のバスケットを見せたい」

もう一つ、日本代表でプレーする上で本橋のモチベーションになっているのが、東京羽田ヴィッキーズを背負って日本代表に来ている、という責任感だ。「去年、私が代表に選ばれた時に『羽田からも選ばれるんだ』と見られたと思います。私自身も『私を選んでくれるんだ』という驚きが正直ありました。でも、下位のチームからでも一人の選手としてちゃんと評価されるのはうれしいですし、だからこそ『できるんだ』と見せたい気持ちは強いです」

「チームはもちろん、応援してくださるファンの思いも背負っているつもりです。羽田から代表選手が出ることはチームにとっても大きいので、そこに責任はあると思っています」

コート外では飄々としているが、いざバスケとなれば大きな責任を背負って闘争心を前面に押し出し、細部まで徹底したプレーを貫く。「私、切り替わるんです」と本橋はコート外でしか見せない笑みを見せる。「バスケは本当に本気でやっているから、そうじゃない時はスイッチが切れてます。『どっちがホントなの?』って言われるんですけど、どっちも私です(笑)」

では、最後はスイッチを入れた状態で、今年の代表活動と来年のオリンピックに向けた抱負を語ってもらおう。「自分の持ち味はアグレッシブに得点に絡んでいくプレーです。バランスを見るのも大事ですが、第一に求められるのは積極性なので、空いたら迷わず狙っていきます。個人として昨年よりレベルアップしたいですし、日本の速いバスケットを展開するためにはパッシングも大事なので、そこのバランスも取っていきたいです」

昨年のワールドカップはベスト8進出を逃したが、日本代表が見せたスピードとスキル、IQを兼ね備えたバスケットは高い評価を得た。そこに本橋は強い自信を持っている。「ベルギー戦では日本の皆さんに、日本代表のバスケットをしっかり見せたい気持ちが強いです。そこでポイントガードとして自分らしいプレーも見せられるように頑張ります」

まずはベルギーを迎える三井不動産カップで、本橋の徹底ぶりを是非見てもらいたい。