文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「オフェンスよりもディフェンスからしっかり入らないと」

栃木ブレックスにとって千葉ジェッツとの2連戦は『チャンピオンシップ前哨戦』の色合いが濃く出ていた。このままの順位でシーズン終了を迎えれば1回戦で激突する相手であることはもちろん、オールジャパンで準々決勝敗退の煮え湯を飲まされた相手であることが大きい。レギュラーシーズンのうちに悪いイメージを払拭しておく必要があった。

ところが第1戦では競り負けた。インサイドでのリバウンド争いで後れを取り、3ポイントシュートで離されていく。ともに「堅守からの速攻」というスタイルを持ち味とする中、それを千葉に発揮されての敗戦だった。

そして日曜の第2戦、田臥勇太は「昨日負けてしまったので、まずは今日なんとかやり返せるようにと、チーム全員で挑みました」と強い意気込みを持って試合に臨んだ。第1戦、田臥個人は早々にファウルトラブルに陥ったことで窮屈なプレーを強いられており、「オフェンスよりもディフェンスからしっかり入らないと思っていました」と語る。

結果は72-64での勝利。前日の80-92から、一夜にして失点を3分の2に減らしたことになる。得点は下がったが、栃木はディフェンスのチーム。失点を60点台に抑えて勝てば誰も文句は言わない。田臥も勝因について「ディフェンスですね」と胸を張る。「昨日は92点で取られすぎでした。そこは千葉の強みで、勢いに乗せてしまったら止めるのが大変なので。ディフェンスからしっかり入ろうとみんなで話し合いました」

「良いディフェンスをすれば良いオフェンスに繋がる」

千葉のオフェンスを封じるために、特別な対策があったわけではない。それは前日の敗戦後にヘッドコーチのトーマス・ウィスマンが「守り方は分かっている」と語ったとおり。その守り方を徹底できるかどうかが勝負の分かれ目だった。

田臥は言う。「コミュニケーションとか集中力の部分だと思います。入れられるのは仕方がないけど、いかにタフショットを打たせるか。その後のリバウンドも、千葉さんはオフェンスリバウンドもディフェンスリバウンドも強いので、そこを最後まで集中力を持ってやれるかどうか」

栃木は得点こそリーグ5位(平均81.5点)だが失点はリーグ最少。1試合平均失点が唯一70点を下回る(69.3点)チームだ。ディフェンスレーティング(DRtg/ポゼッションあたりの失点を見る指標)は97.0で、こちらも他のチームを大きく引き離すリーグトップの数字。

「良いディフェンスをすれば良いオフェンスに繋がる。それを自分たちの強みにしたいと思って全員がやっています」。こう語る田臥が、ディフェンスからゲームを組み立てる栃木のプレースタイルを体現するプレーヤーとして際立った存在感を見せるのも当然だ。

『完成形』が見られるチャンピオンシップまであと1カ月

今回は1勝1敗の痛み分け。千葉との試合はあと2つ残っているが、4月末に待つ2試合はブレックスアリーナで戦える強みがある。ただ、田臥にとっては連日5000人を超える観客で埋まった船橋アリーナでの試合も苦ではなかった。「これだけファンの方々が集まって千葉さんを熱く激しい応援されているのは、敵チームですけどうれしく思います」と田臥。

「どの試合でも僕は燃えるので、どの会場がという話ではないのですが」と笑い、こう続ける。「燃えられる会場の雰囲気を千葉さんが作ってくれるのは、敵としてもうれしいです」

レギュラーシーズン残り9試合。栃木としては3ゲーム差の優位がある東地区首位の座を守るとともに、チャンピオンシップに向けてディフェンスの質、そこから来るオフェンスの質を上げていく戦いとなる。田臥は言う。「千葉さんとやるまでに、まだ北海道、秋田と大変な試合が続きますので、しっかり1試合1試合、自分たちが成長していけるように」

『5強』のうち3チームが入るレベルの高い東地区で首位を走る栃木だが、田臥に言わせれば「まだまだですね」とのこと。「細かいところでもっと良くしていけます。ディフェンスもそうだしオフェンスでも。オフェンスは決め切るところだったり、得点が止まった時にどう繋げていくのか。オフェンスだけじゃなくてディフェンスからもう一回入るところだったりとか」

「勝敗はあまり気にしてなくて」と田臥は言う。「1試合1試合、目の前の戦いに全力を尽くしている感じです」。田臥はいつも変わらない。勝っても負けても、自分とチームのクオリティを高めることに集中している。その完成形が見られるチャンピオンシップまであと1カ月、楽しみは尽きない。