ディアロン・フォックス

キングス首脳陣に不信感も、チームへの愛着は変わらず

現地3月7日のキングスvsスパーズで、ディアロン・フォックスは移籍後初めてサクラメントに戻って来た。それに際して応じた『ESPN』の取材で、キングスにトレード要求を突き付けた理由がクラブの意思決定層への不信感であり、マイク・ブラウンの解任が決定打となったことを明かしている。

キングスでは2013年からヴィヴェク・ラナディヴェが共同オーナーとなったが、彼が意思決定者として表に出てこなくなった今、権限と責任が不明瞭となっている。

フォックスは2017年のNBAドラフト1巡目5位指名でキングスに入って来て、2023年に初めてプレーオフの舞台に立った。フォックスが入団する前から失敗続きだったチームを、ようやくプレーオフに導いたのがブラウンだった。しかし、キングスは2023-24シーズンにプレーオフ進出を逃すとブラウンとの契約延長を渋り、結果的に新契約を与えたものの、今シーズンの序盤戦でつまづくと解任を決めた。

このプロセスがフォックスの不信感を決定的なものにした。モンテ・マクネアGMは「私の決定だ」と証言しているが、彼はブラウン解任に反対の立場だった。では誰がブラウン解任を決めたのか──。最終的なGOを出したのはラナディヴェだろうが、そこに至るまでに誰がどんな思惑で動いたのかが分からず、説明責任も果たされない。

その結果として『ブラウン解任はフォックスが要求したこと』という誤った解釈が世に伝わった。しかし、それは事実ではない。フォックスは7年のNBAキャリアで4人のコーチを経験し、ようやく巡り合えた『勝てるコーチ』がブラウンだと考えていた。明らかに間違った情報が出回っているのにクラブが否定しないことへの不満も大きかった。

かくしてフォックスはスパーズに移籍した。その決断が正しかったかどうかが分かるのは数年後だろうが、ひとまず直近の1カ月で起きたことは、スパーズがビクター・ウェンバニャマの戦線離脱で失速し、フォックスとのトレードで加入したザック・ラビーンがオフェンスを引っ張るキングスが浮上していることだ。

フォックスへのファンの反応は、歓声とブーイングが半々といったところ。ただ、キングスファンがフォックス支持派と反対派に分かれたのではなく、彼らそれぞれが愛憎両方の感情を抱えたまま整理がついていないと見るべきだろう。入場の際には盛大なブーイングを浴びたが、最初のタイムアウトでフォックスのキングス時代のハイライト映像が流されると、ファンはスタンディングオベーションを送った。フォックスは立ち上がってこれに応え、感情を抑えるようにタオルを噛み締めた。

キングスが127-109の完勝を収めた試合後、33分の出場で3ポイントシュート成功なしの16得点と冴えない出来に終わったフォックスは「素晴らしい歓迎に感謝している。ファンが自分のチームを応援するのは当たり前だからブーイングは気にしていないよ」と語る。

「戻って来ることができて良かった。ずっとここにいたのにビジター用のロッカールームに行くのは初めてで、奇妙な感じだったけどね。でも、この経験を楽しむことができて良かった。次はもう少し良い試合をしたい」

キーガン・マレーとお馴染みのハンドシェイクをかわし、ダグ・クリスティと抱擁し、マリーク・モンクと冗談を言いながら笑い、多くのファンと握手や記念撮影をした。「これからキーガンと食事に行くんだ」と言ってフォックスは会見場を後にした。彼にとってトレードの顛末は決して愉快なものではなかったにせよ、キングスで過ごした7シーズン半の思い出は美しいままで残るだろう。