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「三河にはセルフィッシュな選手がいない」
シーホース三河は26勝11敗で今シーズン2度目のバイウィークを迎えた。中地区3位ではあるが、同2位のアルバルク東京と勝率で並んでいる。2シーズンぶりのチャンピオンシップ(CS)進出を果たした昨シーズンよりも好成績でシーズンを進めている。
今シーズン、出場した35試合すべてで先発のポイントガードを担い、好調なチームを牽引している久保田義章は昨シーズンからのチームの成長を次のように話す。「個々が公私ともにバスケに取り組む姿勢が変わって能力が高まり、チーム力も仕上がってきています」
実際、チームスタッツには攻守に渡る向上が見られる。ボールムーブを生かしたオフェンスで点を取り、ディフェンスの連携の精度も高い。チームとしての完成度が増しているのは、火を見るより明らかだ。「三河にはセルフィッシュな選手がいません。『自分が!自分が!』とならずに踏みとどまれる選手が多いですし、たまに誰かがそうなりそうな時も周りの選手が止められる関係性を築けています」
久保田はもう1つの好調の要因として、コーチを含めた組織としてのレベルの高さを挙げる。三河の今シーズンの週末同一カードでの連敗は、第2節の三遠ネオフェニックス戦だけ。第1戦の反省を生かして第2戦でカムバックできる強さは、選手だけの力ではないと久保田は言う。
「分析してくれているスタッフのおかげです。寝る間も惜しんで分析してくれることに対して、選手みんなが感謝しています。ヘッドコーチから喝が入ることもありますが、選手がそれにしっかり応えて遂行する力がついてきています」
ライアン・リッチマンヘッドコーチが「ディフェンスのチーム」と評する三河は、実際にディフェンシブ・レーティングで2番目に良い数字を叩き出している。久保田も前線から激しいディフェンスを仕掛けて、チームの士気を上げている。
「あんまりディフェンスを語るのは好きじゃないんです。できないから話す資格がないです(笑)」と冗談混じりで前置きした上で、久保田は自身が重要視しているポイントを挙げる。「強度の高いディフェンスで相手に楽な3ポイントを打たせないことや、リム(ゴール)周りをしっかり守ることを徹底しています。あとはもう気持ちだけです」
ディフェンスの重要性を肌で感じている言葉は、なおも続く。「自分たちのディフェンスをして、しっかり全員でリバウンドを獲りに行って、トランジションを出す。ディフェンスからオフェンスに繋がる流れが作れれば、良い試合ができます。逆にディフェンスができないと、オフェンスもリズムが悪くなってしまう試合が多いです」
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「最終的に歴史に名を刻めるのであれば嬉しい」
自身のディフェンスを評価していないと話す久保田だが、確かにオフェンスのイメージが先行するのは否定できない。とは言え昨シーズンは、得点力が高い選手が揃う三河でその得点力を100%発揮できたと言えなかった。しかし今シーズンは現状、昨シーズンよりも2得点以上多い平均8.7得点を記録。出場時間をならすと京都ハンナリーズ時代の平均10.4得点よりも得点効率が良い。
スタッツのみならず、リングにアタックしていく意識は明らかに高くなっている要因を久保田は次のように話す。「体を絞って動きやすくなったのが1番大きいですが、それと同時にチーム練習前のワークアウトの質と量を上げました。それが結果に繋がってきています。自分でもビックリするくらいやっているので、練習前に結構疲れています(笑)」
さらに「無理に得点を狙いに行く場面がなくなっています。自分で行ける時と行けない時の判断がしやすくなりました」と語り、その結果としてフィールドゴール成功率は47.4%とキャリアハイを記録している。
シーホース三河のポイントガードと言えば、佐古賢一、柏木真介(現三遠ネオフェニックス)、橋本竜馬(現越谷アルファーズ)という歴史の系譜があり、ファンはチームを勝たせる看板ポイントガードを切望している。久保田にこれを意識することはあるか聞いた。
「まったく意識していないですけど、最終的に歴史に名を刻めるのであれば嬉しいことです。必要とされることが1番大事なので、そういう選手になれたらいいかなと思います」
久保田はあくまでチームファーストな姿勢を貫いている。「正ポイントガードも意識していないです。うちには長野(誠史)もいるので」と話す通り、チームの勝利のためにともに戦う意識が強い。
「(長野とは)練習中はバチバチやっていますけど、合間には他の選手の動きやスペーシングについて、どうしたらよりよくなるか話していますし、試合の時はよくアドバイスをくれます。ディフェンスが気持ち悪いくらいうまいので、長野が対戦相手じゃなくてよかったなといつも思います(笑)」
2024-25シーズンは終盤を迎え、上位チームとの対戦を戦い抜く必要がある。昨シーズン、ケガをして不完全燃焼に終わっただけに、久保田のCSにかける思いは強いと想像していたが、意外な答えが返ってきた。
「特にCSを意識することはないです。積極的にアタックしつつ、周りを生かしていくというのを継続していくだけです。それをやっていけばチームを勝たせるポイントガードに近づけます」
目の前の試合に集中し、1つひとつプレーを積み重ねて勝利し、それが優勝へと繋がる。久保田は今、人生で1番バスケットボールに向き合っている。謙遜する言葉も多かったが、間違いなく日に日に存在感を増してきた。久保田自身とチームの力を証明し、昨シーズンのリベンジを果たす準備は整った。